2024年1月9日 雑記「ホラー系VTuber」

 VTuberの友人と話していて、「ホラー系」のVTuberたちの関係が他の界隈と比べてかなり薄いという話題になった。ここでいう「ホラー系」というのは、ホラーゲーム実況など「ホラーコンテンツを取り上げる」活動ではなく「ホラーコンテンツを作っている」VTuberを指す。Googleで「ホラー系 vtuber」と検索すると前者が上部に多く表示されるため、後者は前者よりも母集団がかなり小さいと思われる。単純に僕がVTuberを知らなさすぎるというのも大きそうだが、確かに昔よりは見なくなった。

ンヌグムは9番目に表示された。

 ここで、VTuberにおける「ホラー系」の歴史を振り返ってみる。自分語りの部分が大きくなってしまうが、実際に僕がかなりの古株なのだから仕方がない。
 ホラー系VTuberを最初に世に知らしめてくれた功労者は水溜りボンドだった。ンヌグムや他のホラー系VTuberはそれ以前にも活動していたが、ごく一部にしか知られていなかった。その中で、2018年5月8日に投稿されたンヌグム紹介動画が歴史のターニングポイントとなったと言っても過言ではない。この動画は現在までで200万回近く再生されている。

 水溜りボンドの紹介を皮切りに、チャンネル登録者数が数十万人を超える何組かのYouTuberがンヌグムの考察動画を投稿した。デビューして2ヶ月に満たなかったンヌグムは短期間で数万人のチャンネル登録者数を獲得し、一時はVTuberランキングのチャンネル登録者数ランキングで100位以内に食い込んだ。こうして、「数千人いるVTuberの中でも隅っこのほうにいるイロモノ」ではなく「中堅VTuber」としてホラー系VTuberが鎮座する状況が完成した。
 動画内では「検索してはいけない」という言葉でくくられているが、実質的に「ホラー系」という軸でいち早くVTuberをまとめたのはキリン氏だ。

 ここでは桐野そるべ、ンヌグム、ミソシタ、びっくりちゃんが「絶対に検索してはいけない」VTuberとして紹介されている。ンヌグム以外がホラーコンテンツとして受け取られることを意図していたか微妙だが、この4人以外にも「不気味なVTuberの一群」というのが存在していたと記憶している。数としては少ないが、そもそもVTuber自体の総数が少ない中では上出来だ。
 当時はにじさんじやホロライブなどの「ライバー」がメインストリームではなく、「VTuber」とは明確に区別されており、「VTuber」という語に付きまとうイメージが固定されていなかったために「不気味さ」が「よくわからなさ」とうまく調和していたのだろう。加えて、nerdyなコンテンツにいち早くコミットできる層は悪趣味であるという傾向もありそうだ。まとめサイト、ネット掲示板、動画サイト、等々とオタク君向けコンテンツの黎明期には陰鬱なエログロが蔓延ると相場が決まっている。
 ちなみに、キリン氏自身もVTuberとしてのアバターを持っている。

 この時期に動画を投稿していた「はっぴゃくまんちゃんねる」はVTuberとして活動していたか微妙なところだが、最後の動画はホラー要素の強いものだった。

 また、2020年にはフジテレビ「世にも奇妙な物語」発のホラー系VTuber西野ンが誕生した。最近は動画を投稿していないようだが、Twitterアカウントは動いている。企業がバックについている「ホラー系」としてはゲーム「ハウス・オブ・ザ・デッド」の宣伝大使「緋色すもも」も挙げられる。彼女は2020年に引退してしまった。

 「nerdyなホラー系」としてはJoe Fightが記憶に新しい。僕はこういうゼロ年代を感じさせる演出が好きだ。

 今も活発に活動している中では市松寿ゞ謡、ミミカ・モーフ、人生つみこの3人と、深業奇の3人(駄ゞ田メダ、どれいしょう、影野ゾウ)が特に目立つ。

 前者の3人は2020年から2022年にかけて「バーチャル降霊百物語」および「バーチャル百鬼夜行」という長時間の生放送を配信しており、ライブ配信形式では現在までで最も規模の大きいホラーコンテンツであると思われる。

 深業奇の3人は2023年に入ってから坂神氏経由で知り合ったが、今では個人的に関わりの深いVTuberとなった。きっかけは秋葉原エンタスで開かれたリアルイベント「ヒトデナシ展覧会」だった。

 「ホラー系」とは少しずれるかもしれないが、「不気味さ」のべつの方向性として鳩羽つぐや名取さなのように「何か不穏なことが起きている」と匂わせるVTuberもいた。現在、鳩羽つぐは投稿頻度がかなり落ち、名取さなは(追っていないので正確なところはわからないが)不穏さをあまり押し出していない。

 麗子はもっとあからさまに不穏さを出している。どう見ても夫からDVを受けており、すぐに更新が滞ったことも含めてロールプレイングがしっかりしている。

 Project:;COLDの「都まんじゅう」は明示的に「何かが起きている」ことを前提として視聴者に謎解きをさせていた。しかし、Project:;COLDはしばらくVTuberっぽいコンテンツを発表していない。

 ホラーコンテンツの中でも「怪談」に絞ればもう少しVTuber同士の繋がりを見出しやすい。影野氏と知り合うまでは怪談の世界にまったく触れてこなかったので知らなかったが、どうやら怪談系VTuberはそこそこの数存在しているらしい。
 昨年、僕の地元である大阪(尼崎と思われているかもしれないが、実は行ったことすらない!)で「ホラーVチューバーフェス!!」というイベントが開催されていたことをつい先ほど知った。このイベントの出演者を見てみると、怪談系VTuberが多いようだ。

 「AKIHABARA百鬼夜行」はVTuberイベントではないが、怪談系VTuberが多く出演している。僕も2部は実際に会場まで見に行った。

 怪談界隈は最近でも盛り上がっていそうで、これはたいへんよいことだ。しかしこのことがむしろ、それ自体不気味な存在であろうとするような「ホラー系」を今からここまで盛り上げることは難しいのだろうな、と思わせる。

 僕目線で現在のホラー系VTuber界隈は他と比べてあまり活発には見えず、それは冒頭に述べたように「縦横の繋がりが薄い」ことが直接影響していると感じている。この繋がりの薄さの原因のひとつは、僕が2018年〜2022年の間でほとんどまともに他のVTuberとコミュニケーションしておらず、コラボのフォーマットの整備やフックアップカルチャーを育んでこなかったことだ。キャラクターの性質上仕方ない部分もあるが、本当に何もなくほとんど孤独に走った4年半だったことは大きく反省すべきだろう。2022年末に肉赤子ちゃんが他のVTuberたちと出会わせてくれなければ、今もその孤独は続いていた。
 視聴者から見える部分では、織田信姫やぽこピーへの動画提供、マリーちゃんとのコラボ、様々なVTuberからのンヌグムへの言及など、他のVTuberとの関わりっぽいものはある。残念なことに、これらはまったく親密なコミュニケーションを経ずに世に出ている。その責任は僕の社交性のなさにあり、本来ならここで(そして当時まったくまともに会話できていなかったホラー系VTuberたちと)親交を深めるべきだった。
 「バーチャル降霊百物語」や「ヒトデナシ展覧会」などの「ホラー系」を繋ぐ活動は、僕が何もしてこなかったところを整備してくれた。僕が最初からしっかりとやっていればそういう活動ももう少しやりやすかったのではないか、と考えてしまうのは自意識過剰だろうか。今からでも界隈を盛り上げることに貢献していきたい。我こそは「ホラー系」だぞという人はどんどん仲良くしてほしいし、そうでない人も仲良くしよう。


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