「論理的に考えることはとても楽しい」杉林和亮さん(2005年卒)
第12回目は、2005年に札幌大学経済学部経済学科(当時)を卒業された杉林和亮さんを取材。北海道新聞社の営業局営業本部ソリューション推進部でデータサイエンティストとして勤務される杉林さんに、大学時代の思い出やお仕事についてインタビューしました。
札幌大学在学中の思い出
Q:どんな学生でしたか?とくに心に残っていることなどがあれば教えてください。
学ぶことの楽しさを知った学部時代
正直、そんなに「良い学生」ではなかったと思います(笑)。ちょうど良い感じで授業に出て、ちょうど良い感じでみんなと遊んで、という学生でした。下宿にいたので、みんなで夜遅くまでゲームをやって眠気の中で1限の授業に行った思い出があります。
そのような漫然とした学生生活の中で、稲垣陽介先生のゼミに入ったことがきっかけとなり、大学院への進学を考えるようになりました。ゼミの内容は、自然科学的に環境問題を考えるというテーマでした。環境問題という身近な現象を扱っていた点に面白さを感じました。ほぼマンツーマンでテキストの読み合わせを行ってもらった記憶があります。難しい内容でしたが、分からないところは丁寧に説明していただき、学問的なところだけでなく、ものごとを論理立てて考えるという学びの基礎の部分を教えていただきました。
環境問題に興味があったのはもちろんですが、学ぶことや研究することに楽しさを感じ、それをもう少し続けてみたい、大学院へ進学したいという気持ちが自然と湧き出てきました。
キャリアについて
Q:大学を卒業されてから現在までのご経歴や、現在のお仕事の具体的な内容を教えてください。
札幌大学大学院へ、そして横浜市立大学の博士後期課程へ
学部では稲垣先生のゼミに所属していましたが、当時稲垣先生は大学院の授業を持っていなかったため、修士課程ではゼミを移ることになりました。修士課程では経済学的な側面から深めるために、公共経済学を専門にされている山田玲良先生の元で研究を行いました。そこでは、経済学をベースとしながら社会問題をどう解決していくかというところを学びました。修士論文では、一般的に環境に良いとされている製品が市場へどう広がっていくのかということを、理論経済学をベースに考えました。
先輩や同期にも博士課程へ進んでいたり目指したりしている人がいたので、彼らを追う形で自分も研究者として生きていけたら良いなと思い、横浜市立大学の博士後期課程へ。なにより、論理的にものごとを考え、その積み重ねによって学びを深めていくという学問の面白さが一番にありました。
博士後期課程進学後は、学会発表をしたり、苦しみながらも査読付き論文を書いたりと、たくさんの良い経験ができましたが、なかなか博士号を取るのが厳しいなと感じ始めていました。ちょうど30歳になる頃だったので、そろそろ他の道も考えてみようかなと思っていたところで、ご縁をいただいたのが前職のデータ分析を専業とする東京のベンチャー企業でした。
データサイエンティストとして
昨今注目を集める「データサイエンティスト」、ひとことで言うと「データを活用してビジネスに生かす仕事」ですが、その業務にはさまざまなパートがあります。分析のためのデータを作る作業、プログラミング言語を使ってデータを処理する作業、分析する作業、分析結果を使って施策検討を行う作業など、本当にいくつもの業務があります。ごくまれに、すべてを完璧にこなすスーパーマンみたいな人もいますが、多くの人は自分の得意なパートを見つけて活躍しています。
私はプログラムも書きますし、分析業務を一通りすべて担当しますが、どちらかというとお客様のお話から課題を見つけたり分析結果を解釈したり、それをアウトプットに落とし込んだりといった部分の業務が得意だったりします。文系理系問わず自分の得意な部分を見つけられるのが、データ分析の面白いところだと思います。
データ分析については、大学院時代に授業で習った経験しかなかったので、就職して最初の数か月間はとにかく大変でした。データ分析の手法を理解して、データを分析できる形式に処理を行い、分析を実施するという一連の流れを必死で習得しました。その後の業務においても、データ分析の結果を現場での業務に落とし込み、実際のビジネスの場で活用するところまでもっていくのも必死でした。業務量や求められる専門性のレベルはずっと高く、楽な仕事ではありませんでしたが、やりがいもあって楽しい日々でした。今まではずっとアカデミックの世界で学んできましたが、就職してビジネスの現場に入ると、自分の仕事が実際に世の中で使われている、社会の一部になるというのを目の当たりにできます。その面白さに新たに気づけたことが大きなターニングポイントになりました。
就職後、大学院の方は休学していたのですが、データサイエンティストという仕事に面白さとやりがいを見出していたので、大学院は博士論文を書くことなく途中で退学しました。博士後期課程まで送り出してくれた両親やこれまでの恩師に申し訳ない気持ちはありましたが、今まで自分が積み重ねてきた知識やものごとへのアプローチの仕方を仕事で生かすことができていたこと、そして新たにビジネスの楽しさを実感できたことが決め手となり、前向きに選択することができました。
生まれ故郷へ「データ活用」で貢献したい
前職では7年間、データを使ってビジネスで成果を上げるという楽しさを経験させてもらいました。またその経験によって、データ活用は今後どんな業界・業種でも必要なことと確信していました。自分の生まれ育った北海道でデータ活用によって貢献できることはないかなと思っていたところで、ご縁が重なり北海道新聞社に入社することになりました。
北海道新聞社では、営業局営業本部ソリューション推進部に所属していますが、私の役割は主に二つあります。一つはデータを使ってお客様のビジネス上の課題を解決すること。例えばお客様が持つ課題に対し、アンケート調査などでデータを集め、それに基づいて解決へのアクションをご提案します。イメージとしてはマーケティングに近いところはありますが、データというゆるぎないエビデンスに基づいているというところが特徴です。弊社は新聞社なので、結果としてお客様の課題解決のために新聞広告をご提案するということはもちろんありますが、それだけではありません。場合によってはウェブ広告やその他の手段をご提案することも多々あります。全ての着地点を新聞にするためのデータ分析ではなく、あくまでお客様の課題を解決するためにはどうしたら良いかを考えるためのデータ分析を行うのが我々の仕事です。
もう一つの役割は、自分たちもデータを使ってデータドリブンな(データを元に意思決定する)営業局を目指す、ということです。これまで勘と経験でやってきたものを、いかに可視化し、全員で共有できるか。熟練した先輩社員の方が持つ貴重な知見を、データ活用によってよりスピーディーに若い世代へ伝えられるよう日々試行錯誤しています。
将来的には、北海道新聞社内だけでなく、道内にデータ活用の素晴らしさを広めていきたい。その一旦を自分が担うことができたら嬉しいです。
札幌大学の後輩に向けたメッセージ
Q:札幌大学の後輩や同窓生に向けてメッセージをお願いします。
自分で自分の枠を決めすぎないこと
あまり自分で「枠を決めすぎない」のが良いのかなと感じます。自分は「これしかできない」とか「この範囲でしかチャレンジできない」など、制約をもって取り組むよりも、とりあえずチャレンジしてみる、ダメだったらもう一度考えてみる、といった感じでどんどん色んなことを経験してみてください。その経験から新たなものが見えてくると思います。私は「大学受験」も「博士号取得」も当初思い描いていた理想の結果にはなりませんでしたが、今ではそれも必要な経験だったと思っています。
大学院を考えている方へ
私は大学卒業後、修士課程そして博士後期課程へと進みました。結果として研究者の道を進むことにはなりませんでしたが、それでもたくさんの人々に出会うことができたという点でかけがえのない経験をしたと考えています。色々な人に出会ったからこそ、自分が頑張れるポジションを見つけられたということもあります。
大学院は大学よりも厳しい面は多いです。ただ、やりたいことがあり、チャレンジしてみたい気持ちがあるのであれば、まずは選択肢として入れてみても良いのではないかと思います。選択肢に入れてみて、実際進むかどうかは自分の気持ちと照らし合わせてじっくり考えてみてください。
データサイエンスにチャレンジしたい方へ
現代では、ChatGPTなどの生成AIを誰もが気軽に使えるようになった世界です。まずは気軽に触れてみてください。将来的にデータを専門に扱う仕事に就かなかったとしても、自分の業務で「これはデータで効率化できるのではないか」などのアイデアが生まれてくるかもしれません。そういうところから企業におけるデータ活用が進み、世の中がより良くなっていくのです。
最後に一つだけ、データ分析を行う上でとても大切なことは、データだけでなく、きちんと現実の事象にも目を向けることです。データだけを見るのではなく、また、事象だけを見るのではなく、その両方をバランスよく見て、考えて、自分の中で理解して分析をすることも重要なポイントです。
「わたしと藻嶺」について
「わたしと藻嶺」は、卒業生の皆さんが大学時代の思い出を共有し、それぞれの卒業後の活躍を応援する場です。さまざまな分野で活躍するサツダイOB・OGの皆さん、ぜひ取材させていただけないでしょうか?取材にご協力いただける方、また卒業生をご紹介していただける方は、札幌大学企画部入試・広報課までご連絡ください。本メディアに関するご質問やご意見、ご要望などもお寄せください。
▶「わたしと藻嶺」バックナンバーはこちらから