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#15 博物館実習 学生企画展「深堀り!札幌大学~森と北のビール~」

みなさん、こんにちは!

年明けまで異例の暖かさと雪の少なさが続いていた札幌ですが、気づけばいつもの冬の景色になりました。しかし地域によっては非常な大雪となっているところも…。不安定な気候に左右されながら、人も自然の中で生きていることを日々感じます。

博物館実習 学生企画展「深堀り!札幌大学~森と北のビール~」

さて、今回はいつもと趣を変えてお届けします!毎年この時期から開催される博物館実習の学生企画展が、今年度はこの大学の自然や歴史をテーマにしたものだとの情報を得て、実習室・展示室にお邪魔してきました。

▲学生企画展の入口は大きなポスターが目印です

2024年度博物館実習 学生企画展「深堀り!札幌大学~森と北のビール~」

〇期間:令和7年2月13日(木)~令和7年6月19日(木)
〇開館日時:月曜・木曜 9:30~14:30
〇場所:札幌大学 歴史文化財展示室(1号館地下1F東側)
〇どなたでも観覧OK(無料)
※学外の方は事前連絡が必要です。詳細はこちらをご覧ください

この学生企画展は、学芸員資格の取得を目指す3・4年生が1年間かけて履修する「博物館実習」の一環で行われています。グループに分かれて展示の企画・制作を進めてきたそうで、各班のリーダーからお話を伺いました。

「春学期は近隣の博物館に行き、資料の取り扱いや展示の方法などを学びます。その後、主に夏休み中に、各学生が希望する博物館を決め、博物館のスタッフとして約2週間の館園実習を行います。これらの経験を活かして、秋学期から学生企画展の準備に取り掛かりました」と説明してくれました。今年度は3・4年生合わせて13人で展示の制作に取り組んだそうです。

では、さっそく展示室の中へ!

はじめは「札大の森の植物」から

はじめは札幌大学のキャンパス内にある森の植物に関する展示です。「札幌大学には森があるので、館園実習で学んだことを活かして植物に関する展示をしてみてはどうかと考えたところから、話が進みました」と教えてくれたのは、植物班リーダーの戸島侑里さん(歴史文化専攻3年)です。

大学の森の植生についての解説パネルのほか、植物標本と組み合わせたマップ、森で採ってきた植物のタネを触ることのできるハンズオン展示など、工夫を凝らした展示物が並んでいます。

▲入ってすぐの植物コーナー。わくわくするような立体的な展示が並びます。

「見どころは、森のマップです。どこでどのような植物が見られるのかがわかりますし、森で採取した本物の標本を間近で見られるのがポイントです。大学の森の豊かさを知って欲しいというのはもちろんですが、森に行けばもっと多くの植物があるので、展示を見た方が森へ行くきっかけになればという思いもあります」と戸島さん。

そのマップの左右には、大ぶりの木の枝に植物の写真が吊り下げられている展示物が。「枝のモニュメントは瀬川拓郎教授からいただいた提案なのですが、発想を膨らませて、森で撮った写真を枝先にぶら下げたら、インパクトも出て面白いかもと思い、制作しました。」確かに目を引くおしゃれな展示です!「森にある2タイプの植生の各場所から枝を拾ってきました」と、森の植生の違いを展示室で体感できる工夫からも、観覧者の関心を森へつなげようとする思いが感じられます。

▲カラマツの枝先に森で撮影した植物やキノコの写真を掛けています。

次のコーナーは「札大の森の動物」 

展示室の奥に行くと、次は札大の森の動物のコーナーです。「実物の展示にこだわり、動物の標本やはく製を札幌市博物館活動センターから貸していただきました」と全体リーダー兼動物班リーダーの佐藤慧冴さん(歴史文化専攻3年)は言います。

佐藤さんは、「大学の森プロジェクトのメンバーとしても活動していて、この秋はカメラを使って大学の森に生息する動物の調査を行ってきました。この調査で撮影できた哺乳類の標本をお借りできたので、写真とセットで展示しました」とのこと。

▲はく製や標本により、森の動物たちがリアルに感じられます。(協力:札幌市博物館活動センター)

「博物館活動センターへの依頼や連絡は学生主体で行いました。松友先生と一緒に足を運び、企画展の内容を説明して、ありがたいことに快諾をいただきました。その後も細かな連絡を取り合いましたが、このような学外との調整は経験がなかったのでなかなか大変でした」と佐藤さん。「貴重な借り物なので、取扱いにも相当な注意を払っています」と、展示資料の扱いの技術を学ぶという点でも、得るものが多くあったようです。

▲準備中の様子。標本の並び順にも理由が。

このコーナー、実は単に森に生息する哺乳類を紹介するだけではなく、あるテーマがあります。「初めに北海道に生息する在来の動物、次に外来種という順で並べています。最後に外来生物問題についての解説を付けました。身近なところにも外来種がいることを知ってもらいたいし、一人一人ができる外来種対策もあるので、この問題に興味を持つきっかけを作りたいと考えました」と佐藤さん。日常の暮らしではなかなか気づくことができない問題提起となっています。

自然と人の営みをつなぐ

動物コーナーを過ぎると、アイヌの人々が使用していた道具や、かつて稲作に使用された農機具などが並びます。佐藤さんによると、「これらは教員所有のコレクションです。このあとホップやビールといった産業の展示となるので、自然と人の営みをつなぐというコンセプトでこの場所に展示しています」とのことで、企画展全体がひとつのストーリーとしてまとまるよう工夫されています。

▲本田優子教授の所蔵資料を中心とするアイヌ民具を展示

最後は「西岡ビール史」

「札幌大学がある豊平区西岡は、かつてホップ園が広がっていたんです。この歴史を背景に、一昨年、地域の方々を中心とした“西岡地ビールプロジェクト”が発足し活動しています。このコーナーでは、ホップ園とビールの歴史に加え、新しいプロジェクトも紹介することで、過去から未来につながるストーリーで展示を作っていきました」とホップ班リーダーの太田梨咲子さん(歴史文化専攻3年)。

▲西岡のホップ園の歴史や新プロジェクトの紹介、ホップ(札幌市博物館活動センター提供)の標本が並びます。

壁面には解説パネルのほか、新旧デザインのビール瓶や缶、ホップの標本なども並びます。解説パネルの背景色は、おいしそうなビール色。このデザインもメンバーのアイデアだそう。「明治時代から昭和にかけてのビール広告や本物のホップを触れるハンズオン展示も合わせて見てもらえたら、理解が深まると思います」と、展示制作にあたり、どうすれば観覧者に伝えられるかをしっかり考えている様子もうかがい知ることができました。

▲学内の植栽株から収穫したホップの実。脆いのでUVレジン加工して触れるように。

さらに、「今回、西岡地ビールプロジェクトの方々に直接インタビューをすることができたんです。取り組んでいる方々の思いや町おこしの熱意を多くの方々に知っていただけたら嬉しいです」と見どころを教えてくれました。

ホップ班では、メンバーで役割分担をして作業を進めたそう。「郷土資料の収集、地ビールプロジェクトへのインタビュー、ホップの標本制作など、できないところは補いつつも分担して作業を進めたことで、物事がうまく進んだと思っています」と、チームワーク良く協力し合って取り組めた経験も、この学生企画展の成果のひとつと言えそうです。

終わりに

博物館実習担当の松友知香子教授にもお話を伺いました。

「テーマの検討時には助言も色々としましたが、テーマが決まってからは、調べ物や各方面への協力依頼や取材、展示制作など、学生たち自らが考え行動し、協力し合って創り上げた企画展となっています。学内外の様々な方々に協力をいただきましたし、講義や実習の枠に留まらない学生たちの活動も取り入れて、重層的で厚みのある内容となりました。学生企画展では解説パネルが多くなりがちですが、実物や写真・映像などを随所に入れて、観覧者を飽きさせない楽しめる立体的な展示となっています。準備の後半は空き時間をフルに使って皆で取り組んできました。協力してひとつの企画展を創り上げた経験は、必ず今後に活きてくるはずです。」

さて、学生企画展に取り組んだ学生たちのお話を駆け足で紹介してきましたが、展示内容はここでは紹介しきれないほど盛りだくさん。学生の熱意と工夫、そして頑張りが伝わる内容となっています。札幌大学・西岡の自然と歴史を知ることができる学生企画展、みなさんの知らない世界がきっとあります。ぜひ足を運んでみてください!

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