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アジアのアートとカルチャー、音楽と出会う|DEFOAMAT vol.0

この秋に、アジアのアートと音楽にフォーカスを当てた都市型フェスティバルが初開催されました。アジア音楽好きとして魅力的すぎるイベントの初開催を目撃できたこと、とてもいい体験になりました。

アジアの文化的連帯の中で、新しい社会のありかたを模索する -alternative asian life- 
アートと音楽の都市型フェスティバル「DEFOAMAT(デフォーマット)」

DEFOAMAT=Daikanyama Edutainment Festival of Art, Music, and Technologyの略称。ということで、edutainmentとは、「楽しみながら学ぶ」ことを目的としたマルチメディアやそのコンテンツ、またはその形式を指す言葉だそう。Edutainment Festivalという新しい視点を持ったフェスティバルが生まれると聞いて、ずっと気になっていました。
アジア各国から総勢15組以上のアーティストを招き、代官山の数会場でライブが行われたり、アートの展示、マーケット、トークセッションなどがコンテンツとしてラインナップ。カルチャーが生活と地続きのものであるということを認識し、ものごとを思考するきっかけを与えることを目的として、DEFOAMATで出会う音楽やアートが発する問いに来場者が興味を持ち、生活や価値観に変化をもたらすきっかけとなることを狙っているということでした。プレスリリースやWebサイトを見ると、「模索」「試み」「Vol.0」のようなワードを随所に使うことからも、すごく実験的なイベントであることがわかります。個人的に色々思うことや発見もあったし、会場が代官山ということで場所としてもよかったので今後も続いてほしいイベントでした。

会場に着くと数体のDEFOAMATくんがお迎え

会場は代官山T-SITEをメインとした、代官山近辺のライブハウス。東京でサーキット型のフェスというと大体、渋谷や下北沢があがってくるけど、代官山T-SITEがベニューとしても入ることで代官山でもこういったイベントができるんだなという発見がありました。そして代官山T-SITEは、蔦屋書店を中核とした生活提案型商業施設というポジションで、生活提案型施設と、今回のDEFOAMATのアジアのカルチャーから生活に変化をもたらすというコンセプトはとても相性が良いことがわかりました。それもそうで、このDEFOAMATは、TSUTAYAや蔦屋書店を事業とするCCCの中の企画集団「CCCアートラボ」が主催事務局の母体となっています。DEFOAMATの中核の、アートと音楽のうち、アートの部分はCCCアートラボが企画運営して、音楽の部分を橋の下音楽祭主催のmicroactionが企画制作をしているという構造になっていました。CCCと一緒するフェスって座組みからしてとてもユニークです。

ということでT-SITEでは主に、アジアのカルチャーに着目した野外マーケット(ヴィンテージ食器、かご、西洋及びアジアの地図、本、ポスター、切手、アクセサリーなど)と、オルタナティブな社会の在り方を模索するためのトークセッションが開かれていました。マーケットは数は多くないものの、小物やアクセサリーは手に取りやすく、みているのも楽しかったです。

代官山T-SITEはTSUTAYAもあってスタバもあるし、カフェだったりもあるので、カップルだったりファミリーだったり休日を穏やかに過ごす人たちの集う場所という認識があります。わたしにとってはいつも通りすぎるけどあんまり来たことがない場所でした。この日もそういった場所は通常営業だったので、普段から代官山で休日を過ごす方々も多くいました。そういう普段から代官山で生活している人がいることで、このフェスのコンセプトでもある「カルチャーが生活と地続きであること」が深く感じられた気がします。普段と変わらない生活がそこにあって、そこに変化をもたらすことが目的のDEFOAMATは、客観的に引いてみても、場所も見せ方も面白い構造になっていたと感じました。

アジアのカルチャーを感じるステージ

代官山T-SITEを含む5か所で開催されたライブには、韓国やタイからもアーティストを招き、総勢15組のラインナップとなりました。海外からは、韓国の口承伝統芸能・パンソリの詩節を歌う「LEENALCHI(イナルチ)」、タイ・チェンマイ出身のインディポップバンド「YONLAPA」、同じくタイ・バンコクから「Soft Pine」の3組。そして個人的に国内の注目は、「民謡クルセイダーズ」と「滞空時間」、「VIDEOTAPEMUSIC」の3組でした。この国内3組が、このフェスティバルの「アジアのカルチャー」の要素や「価値観の変化」といった部分を体現していたと感じます。

民謡クルセイダーズは、クンビア、ビギン、ブーガルー、カリプソ、アフロビートなど世界のダンスミュージックで再構築し、日本民謡とラテンリズムを融合するビッグバンドで、ライブのグルーヴは唯一無二だと思います。DEFOAMATでは音楽プログラムの一環として、世界ツアーにも密着した民謡クルセイダーズのドキュメンタリー映画『Bring Minyo Back!』の上映も行われました。民クルのライブ映像とともに民謡の根源を探求し、世界各地の映画祭で賞賛を浴びている映像です。映画をライブハウスでみんなで見るというのもいい時間ですよね。
滞空時間はバリ島で影絵人形芝居やガムランを学んだ川村亘平斎氏が率いる楽団で、エキゾチックなサウンドと影絵を融合した光と影のパフォーマンスとその音楽性もかなり唯一無二。影絵もアジア各国で古くから伝わる伝統で、それが音楽ライブと一緒に体験できるというのがすごくよい。
そしてVIDEOTAPEMUSICは、ご存知の方も多いと思いますが、アジアの地方都市のリサイクルショップや閉店したレンタルビデオショップなどで収集したVHS、実家の片隅に忘れられたホームビデオなど、古今東西さまざまなビデオテープをサンプリングして映像を制作し、VHSの映像とピアニカを使ってライブをします。映像にはアジアや日本の昔の生活や文化が映されていて、ライブ中はタイムスリップをしているような気持ちになります。
こんなにアイデンティティを持ったアーティストがラインナップされているのがすばらしい。多くのフェスが生まれる中、このフェスも産声を上げた中の一つ。DJのメンツまでしっかりとアジアの音楽に特化していて、イベントのコンセプトを象徴するラインナップだと思いました。

そして個人的にベニューとしてよかったのは、代官山T-SITEの2会場。代官山T-SITEもあまり来たことがなかったので、こんなスペースがあるのを知らなかったし、ここがライブ会場にもなるんだということが発見でした。この2会場があったからこそ、今回の代官山サーキットイベントができたと思います。AnjinとGARDEN GALLERYの紹介もします。

  • Anjin(キャパ:座席数120席)

  • GARDEN GALLERY(キャパ:立食 約100名 / シアター形式 約50名~80名)

Anjinでのトークセッション
さらさのライブ

Anjinは普段、使用の際にテーブルチャージのかかる高級感あふれる空間。空間をぐるっと、コーディネートされた書籍棚が囲い、グランドピアノと和のグラフィックが描かれた前方のスペースでトークセッションやライブが行われました。会場的にアーティストもアコースティックな方達に限られるものの、ソファにすわってゆっくりと音楽に沈み込む時間は穏やかで、空間が相まってとてもラグジュアリーな時間でした。
そしてGARDEN GALLERY。VIDEOTAPEMUSICと滞空時間の2組がここでパフォーマンスを行いました。空間がスケルトンで壁一面がフラットなので、プロジェクターを移すのに最適の空間。建物がガラス張りなので、人がたくさん入っていても圧迫感がないのもよかった。会場はパイプ椅子が並べてあって、座って映像や影絵とともに音楽を楽しむような感じになっていました。
この2会場はどちらもとても個性的で、ここをライブ会場にできるんだねと関係者の方も言っていたので、代官山の新しいスペースとして発見できたのはとてもよかったです。

GARDEN GALLERYはガラス張りのスペースで外からもライブを眺めている人が
中はスケルトンでかなり汎用性のある空間。普段は展示スペースだったりするそう。

ほかはUNIT、SALLON、晴れたら空に豆巻いてといった代官山を代表するライブハウスでパフォーマンスが行われました。SALLONで大きなスピーカーが設置されていて、それが個性的でよかったです。メガホンみたいな形とスピーカーを積木状態にしていて、プレイ中はそれが光るのがかっこよかった。

ASOUND @ 晴れたら空に豆巻いて
SALLONのサウンドシステム

ユニークな発想と触れ合う

エリアマップで赤文字になっているruangrupaSIDE CORE。この二つがDEFOAMATのアート側のラインナップになります。 ruangrupa(ルアンルパ)はアジア初、ドクメンタ15 (2022年)の芸術監督として迎えられたインドネシアのアーティスト集団で、このDEFOAMATで東京をテーマとするリサーチプロジェクトを発表。また、日本を代表するアートコレクティブSIDE COREは、渋谷川の暗渠ツアーについての紹介、代官山T-SITEの駐車場で野焼きを行うプロジェクト「RED EARTH ON RED FIRE」を行なっていました。

アートコレクティブSIDE COREのエリアに行ってみました。黙々とやっていたのは渋谷の街下に走る川の湧水から取れる「赤土」を使って土偶や土器をその場で作りその場で野焼きするワークショップ。渋谷川のマップをもらって渋谷の歴史も教えていただきました。渋谷の街下、しかもスクランブル交差点や道玄坂の下に川が流れているの知らなかったし、すごく深い地層にある鉄分を含んだ赤土が今も渋谷で採れるというのは発見でした。その赤土を使って代官山で野焼きをしているのは、過去と今に繋がっているスキマな部分を感じましたし、会場となる代官山 蔦屋書店から徒歩5分の場所では弥生土器が発掘されたことがあるそうで、昔の渋谷に触れた気持ちになりました。

代官山駅近くのForestageでも展示が行われていました。(行ったタイミングが悪かったのか説明の方がいらっしゃらなくてあんまりわからなかった)

個人的には、今回のDEFOAMATが、「Edutainment Festival」として打ち出されていることや「アートと音楽の都市型フェスティバル」と名していることは他のフェスとの差別化としてもとてもいい切り口だと感じたのですが、今回その「アートと音楽」の部分が、割と切り離されていた感覚があったのが残念でした。アートきっかけで音楽を、音楽きっかけでアートを、そしてその融合を持って生活や価値観に新しい刺激や変化をもたらしてほしいと思いました。二つの要素がそれぞれ別の企画チームで成り立っていたことが理由の一つでもあると思うのだけど、せっかく立地も素晴らしいし、それぞれの領域のラインナップもエッジが効いていて良いので、今回はVol.0ということで実験的な部分もあったとすれば、次回以降はより、アートと音楽がカルチャーとして融合し、お互いのパフォーマンスを引きたてるような、このフェスティバルでしか見れないコンテンツがあるといいなと思います。

普段生活している場所での新しい出会い

代官山という場所で、だいすきなアジアに特化したフェスティバルが生まれたことにとてもワクワクしています。もちろん開催される場所や季節が今後変わる可能性もあるけれど、現在進行形で世界中から注目されているアジアの音楽やアート、それをパフォーマンスしているミュージシャンやアーティストの思想や文化的背景を感じられることはとても貴重な機会だし、出会いだと感じます。

UNITで大盛り上がりの民謡クルセイダーズ

新しい視点に触れにいけるこのフェスティバルが、また開催されることを願っています。

おしまい

DEFOAMAT vol.0 概要

開催日時:2024年10月19日(土)/20日(日)*ライブは19日のみ
会場:代官山周辺5会場(代官山T-SITE、フォレストゲート代官山、代官山UNIT、SALOON、晴れたら空に豆まいて)
料金:一般チケット7,500円
出演:
LEENALCHI(韓国)/YONLAPA(タイ)/Soft Pine(タイ)/寺尾紗穂(日本)/滞空時間 (日本)/さらさ(日本)/OMK(Soi48,MMM,YOUNG-G)(日本)/HOME(日本)/民謡クルセイダーズ (日本)/大石始(日本)/DJ YESYES(韓国)/MOOLA(日本)/ASOUND(日本)/VIDEOTAPEMUSIC(日本)
主催・企画制作・運営:DEFOAMAT実行委員会
制作:microAction LLC.
協力:東急不動産、WPU HOTEL、ModuleX
公式サイト:https://www.defoamat.com
Instagram:https://www.instagram.com/defoamat/

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