「ズルい奴ほどよく吠える」9.9A.9B.9C
■09 福沢学園 校長室
石原、吉岡、城田入ってくる。
吉岡 「いやいや。お疲れさまでした」
城田 「あんなにマスコミが来るって分かってたらもっといいジャージ着
てきたんですけどね」
石原 「何だったんですか、さっきの女は!」
城田 「ああ、なんだったんでしょうね」
石原 「私のことを人殺しって叫んだんですよ」
城田 「すごかったですね」
吉岡 「あれは、ただの野次馬かと」
石原 「あなたはバカなの?あの女は『マーくんを殺した』って言ってた
んですよ」
吉岡 「マーくん?」
石原 「織部先生の下の名前よ」
吉岡 「下の名前?」
城田 「政春です。織部政春」
石原 「あれは織部先生の関係者です」
吉岡 「織部先生の・・・」
石原 「あの女を口止めしないと」
吉岡 「分かりました。大至急調べます」
城田 「・・・あの」
吉岡 「何だ」
城田 「・・・校長先生が殺したんじゃないですよね」
吉岡 「君は何を言ってるんだ」
城田 「勝手に自分で飛び降りたんですよね。本当に自殺なんですよね」
吉岡 「城田先生!」
石原 「そうよ」
吉岡 「(思わず振り向く)」
石原 「織部先生は学園全体に関わる問題を隠していたんです。ホラ、裏
金をもらっていたでしょう」
城田 「確かに」
吉岡 「いいかい。織部先生は自分から飛び降りたんだ。私が証人だ」
城田 「はい」
石原 「私だって人の子なんです。人殺しなんて」
城田 「分かりました。変なことを聞いてすいませんでした」
吉岡 「分かったならもういいでしょう」
石原 「城田先生。私に人を殺すなんてとてもできませんよ」
城田 「そうですよね」
石原、出ていく。城田、追っていく。
吉岡 「・・・」
吉岡出ていく。
ライトチェンジ。
■09A 福沢学園・裏手
ベンチに明日香座っている。
雪来て、明日香にパックのコーヒー牛乳を渡す。
明日香 「ありがとうございます・・・」
雪 「あなた、もしかして織部先生の婚約者さんじゃないですか?」
明日香 「(コクリ)」
雪 「やっぱり・・・織部先生の力になれず本当にすいませんでした」明日香 「いえ」
雪 「織部先生の同僚で南雲雪と言います」
明日香 「山中明日香です」
雪 「明日香さん、これまで織部先生には大変お世話になりました」
明日香 「いえ、あの」
雪 「はい」
明日香 「彼は学校で嫌われていたんでしょうか?」
雪 「いえ、子どもたちからは本当に慕われてました」
明日香 「そうですか」
雪 「織部先生は子どもたちのことを一番に考えてくれる先生でした。
私はそんな織部先生のことが大好きでした」
明日香 「・・・」
雪 「いえ、そういう大好きじゃなくて」
明日香 「分かってます。でもマーくん、織部先生は学校を辞めたいって何
度も言ってたんです」
雪 「え?」
明日香 「教師としてちゃんとしようとすればするほど上手くいかない。先
生同士がいがみ合ってるって」
雪 「そうでしたか」
明日香 「マーくんは誰かに殺されたんです」
雪 「殺された?」
明日香 「校長が殺したんじゃないでしょうか」
雪 「何で校長が?」
明日香 「マーくんが最後に会っていたのは校長先生だそうです」
雪 「え?私じゃないんですか?」
明日香 「違うみたいです」
雪 「そうなんだ・・・でもあの校長に人は殺せないと思います」
明日香 「庇うんですか?」
雪 「いいえ、あの校長は悪者になる勇気すらない・・・ズルいだけ」
明日香 「ズルい・・・」
雪 「何の覚悟も持たないで何となく偉くなっちゃった典型ですよ」
明日香 「南雲先生・・・貴方も校長が嫌いなんですね」
雪 「はい。大キライです」
明日香 「そうですか」
雪 「私も自殺じゃないと思います」
明日香 「え?」
雪 「だって明日香さんと結婚するって人が自殺なんて。そうじゃない
ですか?」
明日香 「・・・」
雪 「明日香さん、一緒に犯人を探しましょう」
明日香 「南雲先生」
雪 「だから、今日みたいな無茶はしないでください」
明日香 「すいませんでした」
その様子を遠くから見ていた西川。
西川 「・・・」
ライトチェンジ。
■09B 文藝春秋社・前
明智と岩倉が来る。
岩倉 「えー。本当に聞くんですか?」
明智 「友人の家族が殺されたんだ。協力しないわけにはいくまい」
岩倉 「はあ」
明智 「マスコミなんてのは上手に使えばいいんだ」
井上が出て来る。
岩倉 「来ました」
明智 「先日はどうも」
井上 「ああ、確かフリーライターの」
岩倉 「はあ」
井上 「何?新情報?」
明智 「井上さんって織部政春のことよく知ってるらしいじゃないです
か」
井上 「え?ああ、まあね」
明智 「そのことで情報を共有できたらいいなって思いまして」
井上 「情報共有?じゃああんたたちもそれなりの情報は持ってるってこ
と?」
明智 「もちろんです」
岩倉 「・・・」
井上 「聞こうじゃないの」
明智 「政春さん、殺されたかもしれないんです」
井上 「でも警察は自殺だって発表してたよね」
明智 「警察も一枚岩ではないみたいですよ。現場と関係ないところで上
層部が一方的に自殺として処理したそうです」
岩倉 「明智さん!」
井上 「へえ、警察も面白い動きをするね」
明智 「何かあると思いませんか?」
井上 「警察は何かをもみ消そうとしてるってことか」
明智 「かもしれません」
井上 「福沢学園も一皮向けば・・・」
明智 「そうなんですよ。こちらも聞いていいですか?」
井上 「ああ」
明智 「大手建設の木田って男知ってますか?」
井上 「ああ、あのいけ好かない野郎な」
明智 「その木田が織部印刷工場に出入りしてたそうなんですが、目的が
何なのか知りませんか?」
井上 「・・・さあ」
岩倉 「井上さん、織部さんの家で木田と会いましたよね」
井上 「何で知ってんの?」
岩倉 「見てましたから」
井上 「何で声掛けないの?」
明智 「すいません。様子を窺ってました」
井上 「やらしいなお前ら」
織部声 「井上さん!」
岩倉 「!明智さん明智さん」
明智 「!じゃあ僕らはこれで」
井上 「ちょっと待って、丁度いい紹介するよ」
そこへ来る織部。
織部 「刑事さん?」
井上 「刑事?誰が?」
織部 「(この人たち)」
岩倉 「違います。私たちはフリーライターです」
織部 「刑事さんですよね」
井上 「そうなの?」
明智 「他人のそら似です」
岩倉 「へえ珍しいこともあるんですね。では」
織部 「うちに来た刑事さんですよね」
岩倉 「・・・」
明智 「織部さん、他言無用だって言ったじゃないですか」
織部 「あっ、すいません。でもどうしてここに?」
井上 「え?どういうこと?」
明智 「我々は警視庁捜査1課のものです」
井上 「なんだよ。警察がウソついちゃダメでしょう」
岩倉 「すいません」
井上 「何で内緒にしてたんです?」
明智 「先ほども言ったように警察内部も一枚岩ではないんです」
井上 「ははーん。警察の隠蔽か?」
織部 「隠蔽?」
明智 「分かりません」
井上 「なるほどね。それで身分を隠してたのか」
明智 「申し訳ありません」
岩倉 「分かってください。私たちは真実を明らかにしたいんです」
井上 「明らかにしてどうすんの?もう処理しちゃったんでしょ」
明智 「直接検察に報告を上げます」
井上 「あんたらやるねえ」
織部 「先輩。僕も真実が知りたいです」
井上 「敵はデカイぞ」
織部 「はい」
井上 「刑事さんよ、共同戦線を張らないか?」
岩倉 「共同戦線?」
井上 「俺はマスコミの力で真実をあぶり出す。あんたたちは記事になり
そうな真実を積み上げて俺に情報を渡す。それでどうだ?」
岩倉 「マスコミと組むなんて私たちにはできません」
井上 「でもあんたら表向きには捜査できないんだろ?」
岩倉 「それは、そうですが」
明智 「いいでしょう。ただし記事を出す前に必ず私たちにゲラのチェッ
クをさせてください」
井上 「何だよ信用ねえなあ」
岩倉 「当たり前です。私たちはあなたがたマスコミに散々泣かせれてき
たんです」
井上 「俺が泣かしたわけじゃないだろうが」
岩倉 「どうだか」
井上 「分かったよ。ゲラチェックな」
岩倉 「よろしくお願いします」
明智 「くれぐれもこれは織部さんのためだということを忘れないで下さ
い」
井上 「マーくんの弔いだ。絶対に真実を暴き出してやる」
織部 「皆さん、よろしくお願いします」
井上 「早速会議だ」
4人移動する。
それを見送る木田。
ライトチェンジ。
■09C 大熊の邸宅
木田が待っている。
下手なバイオリンが遠くで奏でられている。
大熊がピアニカを持って来て。
木田 「社長、申し訳ありません」
大熊 「何かあったか」
木田 「警察がまだくすぶっているようで」
大熊 「警察は自殺ってことで処理した。何の問題がある」
木田 「社長のご差配通り、処理は終わっているのですが。現場の刑事が
まだ嗅ぎまわっていまして」
大熊 「そんなもの放っておけ」
木田 「しかし現場の刑事が週刊文春の記者と繋がりまして」
大熊 「週刊文春?」
木田 「はい」
大熊 「木田」
木田 「はい」
大熊 「お前が追い込んだ案件で人が死んだのは何度目だ?」
木田 「3回目です」
大熊 「人が死ぬと法外な金がかかる」
木田 「すいません」
大熊 「大手建設の名前がゲスな週刊誌に載るなんてあり得ん」
木田 「仰る通りです」
大熊 「いいか。文春も警察も上手に黙らせるんだ」
木田 「かしこまりました」
大熊 「福沢学園の件は我々大手建設とは一切関係ない、そうだな」
木田 「おっしゃる通りです。全ての責任は校長に取らせます」
大熊 「うん。健太を待たせている」
木田 「お時間をいただきありがとうございました」
大熊 「裏から帰れよ」
木田 「はい。分かっております」
大熊去る。残された木田。
暗転。
<10>に続く
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公演台本「ズルい奴ほどよく吠える」
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