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「ファミリーナ」4場・5場

#4 山田荘の土曜日夜11時

     下駄箱の上に壊れた時計とデジタル時計。タカオが一徹の部屋の   
     前で正座している歌の練習してる健一。マキ、コーヒー飲んでい
     る

健一  「♪世界中に建てられてる~どんな記念碑なんかより~あなたが生
     きている今日は~どんなに素晴らしいだろう~♪おい、明日遅刻 
     したらやばいからよ。そろそろ寝ようぜ」
マキ  「うん」
タカオ 「っくしょい!!!」
マキ  「大丈夫?おやすみ。がんばってね」
タカオ 「はい。おやすみなさい」

     健一とマキ上がっていく。残されたタカオ。そこに美奈子が下手
     から登場

美奈子 「…まだ出てこないの?」
タカオ 「…そうだね」
美奈子 「もう!!お父さんたら」
タカオ 「まだ知らないんだから、出るに出れないんじゃないかな?」
美奈子 「意地っ張り」

     扉が開き一徹が出てきて200円を投げ捨てる

タカオ 「あ、お父さん!!!」
一徹  「電車まだあるだろ?それで帰りなさい」

     ピシャリと扉が閉まる

美奈子 「お父さん!!話ぐらいき……もう。ごめんね、一度に色んなこと
     を考えられない人なのよ」
タカオ 「今日は帰ったほうがいいのかなあ…」
美奈子 「うん…今日は無理だね」
タカオ 「…明日の朝また来るよ」
美奈子 「うん(一緒に出て行こうとして)」
タカオ 「いいよ、結婚前の大事な体なんだから。おやすみ!!」
美奈子 「(嬉しく)おやすみ」

     美奈子、下手にはけようとして

美奈子 「結婚前か…(と下手アウト)」

     一徹がそっとドアを開け誰もいない事を確認して出てくる。一杯
     やる準備しながら時計があったところを見る。壊れた時計の横に
     デジタル時計。デジタル時計を捨てようとして…眺める

一徹  「あの野郎、こんなもの本当に置いていきやがったのか……(置
     く)」

     隣の壊れた時計を手にしていると上手から織部がやってくる

一徹  「ちょっと付き合わないか…」
織部  「…はい…少しだけなら。ああ、時計壊した奴わかりました」

     二階から降りてくる平助と真由美。気まずそうに玄関を出て行く

一徹  「誰だ」
織部  「本人が自分から謝りに来るって言ってました」
一徹  「そうか」
一徹  「俺は…自分が信じて積み重ねてきたものが大きく変わるのが怖い
     んだ」
織部  「美奈ちゃんのことですか…」
一徹  「俺はあいつに何してやれたのか全然、自信がない」
織部  「立派に育ってる…それが答えだと思いますが」
一徹  「――――――」

     間

織部  「真実の向こう側にある虚像を越えていくために私たちは生きてい
     る…それを見出そうとしないならそれはすでに死んでいることと
     同じ」
一徹  「なんだ、新作か」
織部  「まぁ、そんなところです」
一徹  「それが官能小説だっていうんだから笑わせてくれるよな」
織部  「小説読んだことあるんですか?」
一徹  「見え隠れしてるんだよ。お前の本当に書きたいことが」
織部  「何がです?」
一徹  「お前が書きたいことはそういうことじゃねえだろ」
織部  「俺が書きたいのはエロスとアガペーの融合された世界ですよ。そ
     ういうものを書くには官能小説が一番しっくり来るんですよ。っ
     て言ってもわかりませんよね」
一徹  「バカにしてやがんな」
織部  「はい」
一徹  「これでも中学の教員だぞ。エロスとアガペー…だろ?」
織部  「エロスは人間的、情熱的な愛、アガペーは本質的、自然的な愛」
一徹  「そう、正解だ」
織部  「俺はエロスとアガペーに揉まれてその中で世界観を展開できるだ
     けで充分幸せなんですよ。官能小説家、結構じゃないですか」
一徹  「――――――――怖いんだろ」
織部  「怖い?」
一徹  「お前は臆病なんだよ。本当に好きなこと、伝えたいことがもし誰
     にも伝わらなかったら…どこかでそう思ってる。だから逃げ道を
     用意してるんだ。それが認められなかったらお終いだからな」
織部  「―――――――」
一徹  「―――――――」
織部  「さて、ごちそうさまでした」
一徹  「ああ、悪かったな」

     織部、上手にはける

一徹  「―――――――(コップを置く)」

     暗転

#5 山田荘の日曜日の午前中

     備瀬が準備体操をしている。美奈子、少し遅い朝食の準備をして
     いる。時計は真っ二つの状態。坂本、登場

坂本  「おはようございます」
美奈子 「おはよう」
坂本  「昨日はすいません、僕の才能を発揮してしまって」
美奈子 「いいのよ、気にしないで」

     坂本、下駄箱の上に置いてある新聞を取りにいきながら

坂本  「おはよう」
備瀬  「おはよう」
坂本  「元気だなぁ。寒くない?」
備瀬  「たまには一緒にどうですか」
坂本  「僕はいいよ」
美奈子 「たまには気分転換したほうがいいよ、坂本ちゃん。ちょっと待っ
     てね…はい」
坂本  「(嬉しそうにタオルを見て)そうですね。(首をを横に振り)ダ
     メですよ」
美奈子 「大丈夫よ、無理しなければ。ねぇ」
備瀬  「ええ」
坂本  「フィアンセがいるじゃないですか」
二人  「は?」
美奈子 「はい。いってらっしゃーい」
備瀬  「はい。ほら行きましょ!」

     平助が脳天気にやってくる

平助  「おはようございまーす」
二人  「おはようございます」
美奈子 「はぁ…」
平助  「ジョギングはいいね。すがすがしいね」
備瀬  「どうしたんすか」
平助  「情熱だよ、情熱」
坂本  「今日は並ばないんですか」
平助  「パチンコ以外で早起きしたのは何年ぶりだろうね。冷え込む朝を 
     感じるっていいよね」
備瀬  「行きましょう」
坂本  「じゃ…」
平助  「いってらっしゃーい」

     坂本・備瀬は外にジョギングに行く

美奈子 「なんかいいことでもあったんですか」
平助  「なんで?なんで?なんで~~キキタイ??」
美奈子 「あ、別にいいです」

     そこへ降りてくる真由美

平助  「真由美ちゃーん。おはようー。迎えに来たよ」
美奈子 「そういうことね」
真由美 「あ、平助さん」
美奈子 「そういうことね」
真由美 「ホントに迎えに来てくれたんだ。ありがとう」
平助  「いえいえ」
美奈子 「デートですか」
真由美 「そうだといいんですけど、この3連休も仕事なんですよ」
美奈子 「そっか、世間は土曜日含めると3連休か」
平助  「そうそう」
美奈子 「え?平助さんは」
平助  「真由美ちゃんの店の近くのパチンコ屋まで出稼ぎ」
美奈子 「あぁ…なるほど…海?」
平助  「海」
真由美 「海?」
平助  「ほらほら!電車遅れちゃうよ!」

     美奈子、時間を気にする

真由美 「はーい。じゃ、いってきまーす」

     楽しげに去っていく真由美と平助。ドタドタと降りてくる早戸

早戸  「なんだよなんだよ!なんで迎えに来るわけ?(涙を拭おうともせ
     ず)これは涙なんかじゃないやい。汗だもん!青春の汗なんだも 
     ん!男の汗は女の涙より美しいって死んだばあちゃん、言ってた
     もん!」
美奈子 「勝手に失恋して。まだ始まってもいないじゃない」
早戸  「この悔しさをバネにするんだ。師匠を爆笑させるようなネタを作
     ってやる!」

     一徹が出てきて

一徹  「朝っぱらからやかましい!!」
早戸  「うるせー!!」
一徹  「大きな声を出すな」
早戸  「すいません…」

     二階に去って行く早戸。なんとなく気まずい一徹と美奈子。一
     徹、新聞を取る

美奈子 「あ、すぐ用意するから」
一徹  「味噌汁だけでいい」

     味噌汁を注ぎに流し台へ行く美奈子

美奈子 「まだ怒ってる…?」
一徹  「ああ」
美奈子 「私思うんだけど、別に悪気があったわけじゃないと思うんだよ
     ね。なんかの弾みでぶつかっちゃったとか。そんなことだと思う
     んだ」
一徹  「ああ」

     味噌汁を持って戻ってき、テーブルに置く

美奈子 「暴力とか手荒な事はしないよね?」
一徹  「ああ」
美奈子 「ホント?」
一徹  「ああ」
美奈子 「絶対?」
一徹  「ああ」
美奈子 「約束だよ」
一徹  「ああ。くどいぞ。父さんだって子供じゃないんだ。それくらいわ
     きまえている」
美奈子 「それとさ…食べながら新聞読むのやめてよ!」
一徹  「お前本当に母さんに似てきたなあ」
美奈子 「何よ?」
一徹  「そんなんじゃ嫁の貰い手がなくなるぞ」

     玄関のほうから声がする

タカオ 「(元気に)おはようございまーす」
美奈子 「噂をすれば…おはよう」
タカオ 「あ、お父さんおはようございます」
一徹  「――――――――食事中だぞ」
タカオ 「あ、失礼いたしました」
美奈子 「もう、またそうやって」

     一徹の手から味噌汁を取り、茶に変える

一徹  「あ、美奈子、おまえ…」
美奈子 「あがって」

     美奈子、台所へ

一徹  「――――――(新聞を読み始める)」
美奈子 「お父さん!!」
タカオ 「すいません!お父さんに謝らなければならないことがあります」
一徹  「まず私のことをお父さんと呼ぶな!!」
タカオ 「え?じゃあ…山田一徹さん!申し訳ございません…実は、時計壊
     したの僕なんです!」
一徹  「なんだと!」
タカオ 「すいませんっ!」
美奈子 「お父さん、さっき約束したよね?」
一徹  「―――――――――――――」
タカオ 「本当に申し訳ありませんでした!!」
一徹  「お前が…壊したのか……(わなわなと)こっちに来なさい!歯を食
     いしばれ!………もういい」
美奈子 「タカくん!」
タカオ 「ありがとうございます」
一徹  「その代わり、もう二度とここへ来てくれるな」
タカオ 「え?」
一徹  「君は大切な時計を壊して俺の宝物を台無しにした。そうだな?」
タカオ 「……はい」
一徹  「これ以上、何を奪っていこうというんだ」
タカオ 「え?」
美奈子 「お父さん!何言ってんの?」
一徹  「お前は黙ってろ!!!!!!!」
美奈子 「(はじめてのマジギレに黙る)」
一徹  「私が君に夢があるかと聞いたとき、君は何と言ったか覚えている
     か」
タカオ 「・・・はい」

     そこへギターを抱えて来る健一とマキ

マキ  「忘れ物ないよね」
健一  「ギター一本あればなんとかなるよ」
一徹  「お前はあの出来そこないのギター弾き以下だ」
健一  「朝っぱらから出来損ないはねぇだろ!この野郎」
一徹  「出来損ないに、出来損ないって言って何が悪い」
健一  「てめぇ」
マキ  「健ちゃん、やめて」
健一  「うるせぇ!」
一徹  「人に突っかかってくる暇があったら、下手なギターの練習でもし
     ろ」
健一  「てめぇに言われる筋合いはねぇんだよ」
一徹  「だからお前はダメなんだ!」
健一  「…」
一徹  「オーディションに行くんじゃなかったのか」
健一  「……」
一徹  「バカ野郎!!ギター弾きなら、むやみに手を出すな。早く行
     け!」
健一  「くそ!そんな口きけんのも今の内だけだかんな、おぼえてろ」
マキ  「け、健ちゃん!」
健一  「もういい、一人で行く。ついてくんな」
マキ  「健ちゃん!!」

     健一、出て行く

マキ  「(泣きながら)娘の事だかなんだか知らないけど、やつ当たりし
     ないでよ」

     マキ、二階へ行く

美奈子 「マキちゃん…・お父さんひどいよ!何であんなこと言うの。だいた
     い健ちゃんにあんな事言える筋合いあるの?!夢、夢って言うけ
     どさ、お父さんだって自分の夢を捨てたじゃない」

     一徹、美奈子の頬を叩く

タカオ 「美奈ちゃん!!」
一徹  「…」

     美奈子、出て行ってしまう。残された一徹とタカオ。一徹、部屋
     に戻ろうとする

タカオ 「あ…待って下さい」
一徹  「…」

     一徹、部屋に入る。上手より織部登場

タカオ 「あ、あのう…」
織部  「ん?」
タカオ 「あっいえ」
織部  「親父、派手にやらかしたなあ。『お前には夢がない』、そう言わ
     れた」
タカオ 「ええ」
織部  「美奈子ちゃんと結婚して幸せにしたいっていう夢がちゃんとあ
     る」
タカオ 「どうしてわかるんですか?」
織部  「顔に書いてある」
タカオ 「教えて下さい。なぜ許してもらえないんでしょうか。いくら考え
     ても分からないんです」
備瀬声 「おいっちに!おいっちに!はーい到着ー!」

     坂本・備瀬、汗だくで帰ってくる。坂本は尋常ではない

坂本  「一生分走りました…運動が・・清々しいって…嘘ですね…」
備瀬  「大丈夫ですか?まだ1キロも走ってないですよ」
坂本  「君みたいに…頭を・・使わない・・人とは違う・・んだから」
備瀬  「はい、じゃストレッチしましょう」
坂本  「もういい・・」
備瀬  「明日起き上がれなくなりますよ。ほら」
坂本  「イタイイタイ…分かりましたよ、もう」
織部  「君、彼を見てどう思う?」
タカオ 「芸人さんも毎日走るんですね」
織部  「彼はまだ舞台でちゃんとネタがうまくいったことがない」
タカオ 「え?なんでですか?」
織部  「プレッシャーだな。舞台に出ると顔が真っ赤になって何もできな
     くなってしまうらしい。なあ、横山君、優勝してテレビ出演でき
     るといいな」
備瀬  「はい。織部さんに見てもらった台本結構いいんすよ。コンクール
     は優勝確実ですよ。もう坂本さん、足曲げないで!いつまでも緊
     張なんかしてられないですからね」
織部  「(小さく笑う)」
備瀬  「はい、交代です」
坂本  「君は鬼だね。でも僕は容赦しませんよ…ふふふ」
織部  「坂本君、来年はいけそうかい?」
坂本  「当たり前です。今年だってあと一息だったんですよ予備試験に通
     りさえすれば、その先はちゃんと勉強してるんですから」
織部  「そうか、彼は大学出てないんだ」
タカオ 「そうですか」
織部  「ああ、高校入ってすぐにいじめに遭ったらしい。それで高校を辞
     めて…それから今までずっと司法浪人だ。もう30になろうとし
     てるのにいまだに予備試験すらまだ通っていない」
タカオ 「予備試験?」
織部  「司法予備試験だ。彼は一般教養で毎回落ちてる」
タカオ 「一般教養って…全然だめじゃないですか」
坂本  「お取り込み中スイマセン。タカオさん、昨日僕の実践的な推理で
     あなたの犯行を暴いてしまい、心中お察しいたします。しかし、
     僕が法廷に立つようになれば、この国の未来は明るい。僕が裁判
     官になる日は近いということです。毎日やってる割に硬いね」
織部  「誰も彼が司法試験に合格するなんて思ってない。でも彼は信じて
     る」
タカオ 「でも、今の時点で一般教養ができてないのに裁判官だなんて…ま
     ず間違いなく無理じゃないですか。彼にちゃんと無理だっていっ
     てあげたほうがいいんじゃないですか?それが優しさなんじゃな
     いですか」
織部  「君の考え方はもっともだ。でもそうじゃないんだよ」
タカオ 「坂本さん、万が一にもなれなかったらどうするんです」
坂本  「なれます。民事だって刑事だって死ぬほど論文書いてきたんで
     す。なれるに決まってるんです、僕は自分を否定しませんから。
     そもそもなれないかもしれないなんて思ってたら何もできないで
     すよ」
タカオ 「でも、努力したって結果が出ないことだってあるじゃないです
     か」
織部  「君はどれぐらいの努力をして、そう思うことにしたんだ?」
タカオ 「え?それは…」
織部  「じゃあ君は美奈子ちゃんのこと諦めたらいい」
タカオ 「諦めません」
織部  「何故美奈ちゃんは君のことを好きになったのか。ちゃんと考える
     んだな。それが分からなければ諦めることだ」
タカオ 「何故僕のことを好きになったか…」
織部  「君たち、何やってるの?」
坂本  「ストレッチです」
備瀬  「(快感に打ち震えた声)」
坂本  「だいぶ楽になったぞ。やっぱいいね、ストレッチは。よし、寝よ
     う」
備瀬  「(坂本の手を取り)はい」
坂本  「・・・・・・」
備瀬  「(恥ずかしくなり)走ってきまーす」

     備瀬、走りに行く

坂本  「新聞、新聞。じゃあ僕はこれで」

     坂本、足を引きずりながら戻る

タカオ 「坂本さん!刑法…第22章は…」
坂本  「刑法第22章わいせつ、姦淫及び重婚の罪!!第174条。公然
     わいせつ。(早口で)公然とわいせつな行為をした者は、6ヶ月
     以下の懲役もしくは30万円以下の罰金又は拘留もしくは科料に
     処する(勝ち誇った顔)…そんなことしてませんからね」
タカオ 「すごい…」
織部  「六法全書は頭に入ってるんだがなあ…」
タカオ 「あの、織部さん…織部さんはどんな夢を持ってるんですか」
織部  「俺か?俺の夢は…小説家だ」
タカオ 「小説家?今も小説家ですよね」
織部  「そうだよ。いいんだよ、俺は」

     ポンと肩を叩いて織部上手退場。美奈子、戻ってくる

美奈子 「…ごめんなさい」
タカオ 「大丈夫?」
美奈子 「…引っ叩かれたの初めてだったから、ちょっとびっくりしちゃっ
     ただけ…」
タカオ 「…そっか」
美奈子 「ちょっと言い過ぎちゃったかな」
タカオ 「ごめんね」
美奈子 「お茶、冷めちゃったね。入れなおそうか?(片付ける)…。結
     婚…もう少し先にしようか…」
タカオ 「なんで」
美奈子 「いや、しないって言ってるんじゃないよ。ただ…」
タカオ 「ただ…」
美奈子 「もし私が生まれてなかったら、お父さん空手続けてたのかなって
     思っちゃって。お母さんが死んでも、私が生まれてなければお父
     さん一人で好きなこと出来たんじゃないかなって…」
タカオ 「そんなこと無いよ、お父さんは美奈子ちゃんがいたからお母さん
     の死を乗り越えられたんだよ。お母さんに注がれる分の愛情まで
     全部一人で貰ってきたんだよ…なんかうまく言えないけど…僕は
     そんな美奈ちゃんも、美奈ちゃんのお父さんも大切にしてあげた
     い。なんとか許しを貰って、同居できるようにがんばろうよ」
美奈子 「(満面の笑みで)やさしいんだね」
タカオ 「(照れながら)そうでもないですよー。お茶、お茶、お茶―」
美奈子 「いつだったか、道で困ってるお年寄りがいたの覚えてる?」
タカオ 「え?」
美奈子 「お孫さんの幼稚園にお迎えに行くのに、どこの幼稚園だか分から
     なくてさ」
タカオ 「あ、こばと幼稚園に行くのに、つばめ幼稚園の近くを迷って 
     た…」
美奈子 「そうそう、それでタカくんお婆ちゃんの手を引いて連れてってあ
     げたんだよね」
タカオ 「だって、たしか3時までに行かないといけないって言うからさ。
     でもよく覚えてるねそんなこと」
美奈子 「うん。だって私も幼稚園の時お父さんが迎えに来るの待ってたか
     ら」
タカオ 「ああそっか…」
美奈子 「お父さん勤めはじめたばかりだったから、忙しい時はいくら待っ
     ても来なくてさ、お母さんが死んだ時みたいに、また誰も来ない
     んじゃないかって不安で、滑り台の上からずーっと門のところを
     見てたんだ」
タカオ 「そっか…(真面目に)言ってくれれば僕が迎えに行ったのに」
美奈子 「(真面目に)ありがとう。…タカくんはちゃんとやりたいことが
     あって市役所に勤めたんだよ」
タカオ 「自信ないよ」
美奈子 「私はわかってる。だから好きになったんだから」

     いきなり美奈子が一徹の部屋をノックする

タカオ 「うぁ、何やってるのいきなり」
美奈子 「お父さん、おとうさーん」
一徹  「(声だけ)なんだ!もう話す事はない」
美奈子 「お父さん、さっきはごめんなさい…言い過ぎました。反省してま
     す」
一徹  「…」
美奈子 「行こう。お腹減っちゃった…」
タカオ 「うん…でも…」

一徹の部屋のドアを見て。暗転


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