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「ファミリーナ」3場

#3 山田荘の土曜日午後7時30分

     住民板付き。一徹、一人一人にガンを飛ばしている

坂本  「(静かに)どうも、坂本です。皆さん、皆さんには今大きな嫌疑
     がかかっています。ご存知の通りこのスペースは誰もが使えるス   
     ペースとして利用していますね。だからこのスペースは誰でも入
     れるようになっているのです。誰でも入れる、このことが今回の
     事件を複雑にしているといえるでございましょう。皆さんはそこ
     に何が置いてあったかはご存知でございましょう。はい、ちょっ
     とどいて下さい!えーと、皆さんは驚くかもしれませんがこの部
     屋のここらへんにあった…大家さんの大切にしていた時計が壊れ
     たっぽいんでございます。時計が勝手に壊れるわけはありませ
     ん、誰かの手によってでございます。任せてくださいませ。これ
     は正に私にとって実践的な勉強になります。誰が壊したかぐらい
     すぐに分かりますよ。犯人は私が見つけ出しましょう」
春奈  「坂本ちゃん、全然伝わってこない」
健一  「何なんだよ!!何で時計が壊れたぐらいのことで犯人扱いされな
     くちゃいけねーんだよ!!マジムカツク!」
マキ  「そうよ、そんな大事な物をこんなとこに置いておくほうが悪いの
     よ。いちいち私たちが疑われるなんて非常識よ」
一徹  「うるさい!つべこべ言うな」
坂本  「(咳払い)皆さんの言動を聞いて見れば、誰が壊したかなんてす
     ぐに分かってしまうんですよ」
健一  「だからさぁ」
真由美 「あ、あのう…」
坂本  「なんですか?あれ??」
平助  「あ、俺、俺。俺さっきぶつけたときに落としたんだよね」
真由美 「え?」
平助  「(景品の紙袋からデジタル時計を取り出し)ホレ!開店に遅れな
     いように取ってきたんだけどよ。こっちの新品のを代わりに…デ
     ジタルー」
備瀬  「おお、さすが」
健一  「終了解散!」
一徹  「平助貴様!」
坂本  「違います。あなたではございません」
一徹  「何?違うのか?」
坂本  「ええ。犯人は――――――――あなたでございます(早戸)」
早戸  「ええ―――――――――?俺?」
坂本  「あなたは先月家賃の滞納を苦に、203号室を引き払いましたよ
     ね?家を借りているのに家賃なんて出したくないと常々言ってい
     たのが早戸さん!あなたなのでございます。あなたはその恨みを
     何かで晴らしたかったのでございます。それが今回の事件の動機
     なのでございます」
一徹  「早戸か?」
早戸  「違いますって!」
春奈  「私は違うと思うけどなぁ(真由美を見る)」
真由美 「あ、あのう」
坂本  「なんですか?あれ??」
平助  「だからさ、俺だって言ってんじゃねぇか」
真由美 「えっ何言ってるんですか??」
一徹  「??」
坂本  「僕は弁護士にも検事にも、そして裁判官にもなれるのでございま
     す」
健一  「試験に受かればだろ」
マキ  「そうよ」
一徹  「早戸!!!!」
早戸  「いや俺じゃない。俺じゃねえっすよ!何適当なこと言ってんだ
     よ」

     坂本、一徹に耳打ちする

一徹  「なるほど…そんなに言うなら芸をやれ、芸を見れば分かる」
春奈  「なるほど、芸は心の鏡って言うもんね」

     ブツブツ言いながら、備瀬と早戸でショートコント

坂本  「その芸はウソじゃない!!」
一徹  「―――違うのか?」
健一  「なんだよそれ、バカバカしい」
マキ  「もういこ」
坂本  「ピーン!!と来ました。犯人は織部さん、あなたでございます」
健一  「おお??なに?こいつか!!」
一徹  「何…」
織部  「動機は?」
坂本  「え?」
織部  「自分の発言には責任を持ちたまえ」
坂本  「あ、あ、はい…」
真由美 「ごめんなさい!!」
坂本  「なんですか?あれ??さっきからあなたは誰ですか?」
春奈  「やっと聞けたね」
真由美 「今日入居した安西です」
平助  「坂本ッちゃん、さっきから俺だって言ってるじゃんよぅ」
坂本  「しかし動機が…」
平助  「動機もくそもなくてタダぶつけて落としちゃったの」
真由美 「すいません!!私です。私がやったんです!!!」
平助  「え?真由美ちゃん」
坂本  「あ、そうか!入居の挨拶代わりに壊したのですね…でもそんな動
     機が…」
真由美 「私が今日荷物を運び込もうとして…」
平助  「(芝居がかって)ちが――う!!!俺だ!!俺がやったんだ!!
     真由美じゃない!!俺なんだ!!先生―。な、真由美!!」
備瀬  「何故呼び捨て?」
真由美 「私です!私がやったんです!!!」
平助  「俺です!」
春奈  「まあいいじゃない」
一徹  「坂本、どうなってるんだ」
坂本  「さあ…」
一徹  「さぁじゃない!!」
早戸  「お前また落ちるな」
坂本  「いやっ」
備瀬  「絶対落ちるね」
春奈  「坂本っちゃん大丈夫?」
坂本  「(キャラ変わって)これは完全なるトリックだな…」
平助  「こら!こっちには目撃者だっているんだ!!な、横山?早戸?」
プラワン「(下を向く)」
平助  「おまえら!!」
真由美 「もういいんです!!私をかばわないで下さい!!」
平助  「え?だって…」
真由美 「その優しさだけで充分です。ありがとうございます」
平助  「真由美!!!(思わず抱きしめようとする)」
早戸  「てめ!俺の真由美ちゃんに何するんだ!!(と引き剥がす)」
備瀬  「別にお前のじゃないし…」
坂本  「茶番は終わりだ!!(バーン)」
春奈  「おお!かっこいい」
坂本  「(苦し紛れに)犯人は…犯人は…猫です」
備瀬  「猫いないし」
一徹  「真面目にやれ!」
坂本  「すいません」
健一  「いい加減にしろよ、俺明日早ぇんだから」
坂本  「犯人は必ず現場に戻ってくる」
マキ  「わかった。坂本っちゃんがやったんでしょ!」
坂本  「違います!違います!」
春奈  「もういいじゃないの」
健一  「もういいじゃねえかよ。こんな時計」
一徹  「はあっ?!」
平助  「先生、これ(デジタル時計)で勘弁して下さい」
一徹  「お前らはなんにもわかっちゃいない!いいか、この時計はな…俺
     が…」
美奈子 「ただいまー」
春奈  「お帰りなさい」
坂本  「ほら来た犯人!」
備瀬  「美奈子さんになんてこと言うー」

     美奈子が帰ってくる。全員が美奈子を見る

美奈子 「あらー!皆さんお揃いでどうしたの?」
美奈子 「あれ?あっ…」
真由美 「安西です」
美奈子 「ごめんなさい安西さん。今日友達の結婚式があってバタバタしち
     ゃってて…」
早戸  「美奈子さん…」
美奈子 「ん?」

     一徹がものすごい形相で美奈子を見ている

美奈子 「あ、お父さん」
一徹  「――――――――――――――――――」

     顔色を変えて部屋に戻ってしまう一徹。そっと上手にアウトする
     春奈。
     間。やや散開する。

美奈子 「…どうしたの」
健一  「これ」
マキ  「大家さんがすっごく大切にしてたんだって」
美奈子 「あっ」
坂本  「美奈子さん、それでですね、僕が中心になって犯人探しをしてた
     んですよ」
早戸  「お前、ややこしくしてただけじゃねーかよ」
美奈子 「え!」
平助  「動かないんだから捨てりゃいいじゃねぇか。なぁ?」
横山  「壊れる前は動いてたかもしれないですよ」
平助  「動いてねえよ。だって時計は12時40分を指してるじゃねー
     か」
坂本  「それだ―――――――――――!!」
平助  「なんだようるせえな」
坂本  「そう、この事件のカギはそれです!!その時間なんです(物真似
     しない)けらないでよー」
春奈  「おお!似てない」
坂本  「つまり、犯行が行われたのが12時40分。そのときにここにい
     た人物が犯人となるわけです……。さてさて。12時40分にこ
     の場所で一体なにが行われていたか」
備瀬  「あ!!知ってます!!僕、コンビニにカップラーメン買いにいく
     とこだったんです」
坂本  「はい!!そこには?」
備瀬  「不機嫌そうな大家さんがいました」
坂本  「ということは…」
健一  「なんだ大家がやったんじゃん」
マキ  「それはちょっとあり得ないんじゃない?」
織部  「そうだ。それはあり得ない」
健一  「でも可能性があるってことは確かだろ?坂本ちゃんちょっと聞い    
     てこいよ!!」
坂本  「え?何を?」
健一  「自分で壊したんだろ?って」
坂本  「ええー!!そんなことできるわけないじゃない」

     全員、坂本に無言の圧力

坂本  「分かりましたよ。聞いてくればいいんでしょ?もう…。(ドアの
     前まで行き、ノックをするが出てこない。そっとドアを開ける
     と、一徹仁王立ちしている。そのままドアを閉め)大家さんじゃ
     ない!」
織部  「違うに決まってるじゃないか」
健一  「やっぱ違ったか」
坂本  「違うに決まってるじゃない!!怖かったー」
平助  「お前の推理もここまでだ!」
真由美 「平助さん…」
平助  「真由美…」
真由美 「でも時計を落としたのは私なんです」
平助  「真由美…なんでそんなに俺の罪を被ろうとするんだい?」
真由美 「え?だって…私…」
坂本  「あんたたちじゃない!!真犯人はあんたたちじゃないはずだ!!
     犯人は必ずここに戻ってくる。だって現場に戻ってくるのが犯人
     の習性なの!!」

     そこへ来るタカオ

タカオ 「こんばんは」
美奈子 「タカくん!」
坂本  「ほらきた!こんな時間にどうしたんですか??」
タカオ 「?」
坂本  「どちらさまですか?」
美奈子 「私の彼、加藤タカオくんです」
備瀬  「あっ昼間はどうも」
坂本  「ちょっと?どういうことですか」
備瀬  「いや、1時過ぎぐらいにここで会ったんですよ」
坂本  「ほら!新情報!!何で早く言わないの」
織部  「普通はアリバイから調べるんじゃないのか」
坂本  「えっ…最新の近代捜査学では違うんですよ…その時彼は何をして
     ましたか」
備瀬  「ここで話してましたよね?大家さんと美奈ちゃんと3人で」
坂本  「はいはいはい。タカオさん!!あなた。この時計、壊したんじゃ
     ないですか?」
タカオ 「あ、はい」
全員  「え?」
美奈子 「…坂本ちゃん、何言ってんの?確かにいたけど、お父さんも一緒
     だったのよ!それにタカくんがここに来たのは1時よ。時計の針
     とだって一致してないでしょう」
坂本  「あ、それもそうですね。それじゃあ一体、誰が…」

     一同考え込む

美奈子 「みんな、ごめんね!私からお父さんに言っておくから…大丈夫大
     丈夫。もうこれ古くなっちゃってるし」
織部  「美奈子ちゃん」
美奈子 「はい」
織部  「この時計はさ。一徹の親父が中学校の先生になって初めて買った
     ものなんだよ。それは知ってるだろ?」
美奈子 「知ってますよ」
織部  「じゃ、何故親父さんが時計を買ったのかは知ってるか?」
美奈子 「何故って?」
織部  「昔、親父さんは日本空手連盟からも一目置かれていた選手だっ
     た。でもこれから花が開くかって時にすっぱり空手を辞めたん
     だ。そしてこの時計と共に新しい時間を生きることにしたんだ。
     親父さんはな、美奈子ちゃんを育てるために中学校の先生になっ
     たんだ」
健一  「なんだよ、あんた。分かったようなこと言いやがって!あんたに
     説教する資格があんのかよ!」
マキ  「やめなよ」
健一  「そんな簡単に捨てちまう夢ならな、さっさと捨てて正解だったん
     だよ。毎日毎日、大家は俺たちのやる気を無くさせることばっか
     り言ってるだけじゃねえか!あんたとよく似てるよ」
織部  「親父さんはな、夢のある奴にしか部屋を貸さないんだ。それが例
     え君みたいに夢を履き違えた奴だったとしてもだ」
健一  「なんだと」
マキ  「ちょっと!健ちゃんはあんたとは違うんだよ!明日だってデビュ
     ーのかかったオーディションなんだから…健ちゃんは絶対に日本
     一のミュージシャンになる。そうだよね、健ちゃん」
健一  「ああぁ、当たりめぇだよ」
織部  「健一君。親父さんがどんな思いで空手家の夢を絶ったのか。今の
     君には分かるまい」
健一  「てめえ…俺の何を見てそんなこと言ってるんだよ」
平助  「やめてくれ!!健ちゃんやめろよ!!織部さんも!!俺のせいな
     んだ!俺のせいで…みんなごめん。俺が時計を落としたばっかり
     に(土下座)みんな、ごめん!」
織部  「平助くん、君が落としたのは何時頃だった?」
平助  「7時ぐらいだと思います」
織部  「君は?」
真由美 「1時半ぐらいです」
平助  「ええ?じゃあ……」
坂本  「真犯人は…」
真由美 「私です」
坂本  「そういうことだったんです。では、大家さんに報告して参りま
     す」
平助  「真由美…ちゃん…」
坂本  「さあ、行こうか」
タカオ 「12時40分!!」
坂本  「なんですか?」
タカオ 「12時40分!!僕が時計を壊した時間です」

     一同驚く。え!坂本、ごまかす

健一  「坂本!!」
坂本  「…やっぱり!!あなただったんですね」
早戸  「絶対思ってなかったろ」
タカオ 「ここに来たときにうっかりカバンにぶつかっちゃって…それで」
美奈子 「みんな、ごめんなさい!!実は私たち結婚するの。でも今結婚の
     ことで揉めてる真っ最中なの!!時計のことまで問題になった
     ら、私たち本当に結婚できなくなっちゃうよ!!」

     暗転


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