チャンアン遺跡で涅槃を感じた
涅槃。ねはん。悟りの境地に至り、あらゆる煩悩の火が消え、輪廻から解放された状態のことらしい。
ふだん涅槃を意識して生活していないし、仏教に明るいわけでもないので、涅槃の詳しい意味すら知らなかった。
そんな僕が、ベトナムの世界遺跡チャンアン渓谷の手漕ぎボートの上で涅槃を感じるほど深く感動した話をしようと思う。
ハノイで自転車を購入し、そこの自転車屋のおじさんにラオスへ行くルートを相談した。地元の人にしかわからない危険な場所やおすすめスポットを知りたかった。
いかにも商売人という雰囲気の元気なおじさんはチャンアン遺跡を熱烈にお勧めしてくれた。
「this is very very nice place. Beautiful. Very nice, so you go!!!」とのことだったので、チャンアン遺跡に行くことにした。
ハノイ〜チャンアンまではこの記事を読んでね↓
窓口で早口の英語に苦戦しながらチケットを購入し、3つあるコースの中で一番自然を楽しめそうなコース1を選んだ。
3、4人で一つのボートに乗るらしく、しばらく待つように言われる。ドキドキ。
実はその日の朝4時に、ホステルにいたドイツ人風の男性が叫びながらその辺の壁を殴りまくるという奇行をしていたので、欧米の人が少し怖くなっていた。
デンマーク人カップルがコース1を選んでいたので、一緒に乗ることに。
メンバーは4人、ベトナム人の船頭のおばさん、僕、デンマークのカップルだ。
いざ漕ぎ出した瞬間、思わずため息が出てしまった。
あまりにも、良すぎるのだ。
頭の中に巨大な「良」という漢字が押し寄せてきて思考が止まってしまうような、圧倒的な景観だった。
日本では見られない雄大でゴツゴツとしたカルスト地形の間を縫うようにして、手漕ぎボートは進んでいく。世界は限りなく静かで、鳥のさえずりとボートの水音しか聞こえない。
ゆっくりゆっくりと進んでいくボートの揺れに身を任せていると、自分が生きているのか死んでいるのかもわからなくなるような感覚にとらわれていった。
あまりにも現実感のない美しさだった。
なるほど、これが涅槃か。不意にそう思って、なんだか納得した。ベトナムの陳朝の人々がここに寺院を掘り抜いた気持ちに強く共感した。
圧倒的なものに神聖さを感じてしまうのは、時代と人種が違っても変わらない。
寺院の核心部は写真撮影禁止だったので撮影していないのだが、これだけでも雰囲気は伝わると思う。
静かで、厳かで、端正だった。
チャンアンの景色に圧倒されつつも、デンマーク人カップルと自己紹介をし、色々な話をした。
フィリップは21歳、同い年で建築学をやっているらしい。お母さんがインドの方で、ビリヤニが好きだそう。スポーツも好きで、キリオスとリバプールの話で盛りあがった。
マチルダは20歳で、大学に入る前のギャップイヤー(高校卒業してから大学に入るまで、一年ぐらい社会勉強をしつつやりたいことを探す時期)中で、幼稚園の先生のアルバイトをしているそう。
ベトナムの美しい渓谷の中で、マチルダに「日本の大きい存在だった首相が暗殺されたけれど、あれはどういう背景があったの?」と質問され、タジタジになった。どういう状況やねん。
なんとか言葉を捻り出して、「は、犯人の親は日本の邪悪な宗教に加入していて、犯人はとても大変だった。安倍晋三はその宗教団体と繋がりがあった。日本で大きな影響が出ている」みたいなことを説明した。
陽気なフィリップとしっかり者のマチルダはいいコンビで、一緒に話していて本当に楽しかった。
自分の国を飛び出してバックパッカーをしている若者というだけで、お互いにシンパシーを感じられたんだと思う。
カタコトでもこうやってお互いのことを話せるので、英語を勉強しておいてよかったと思った。もどかしさも強く感じたので、帰国したら勉強しようと決意。
船を降りて、昼飯でもいくか!ということになり、一緒にブンダウ(米麺と揚げ豆腐)を食べた。
「Have a nice trip ! サヨナラ!」と言って別れた時の寂しさと、異なる人生が一瞬だけ交わったきらめきのような感情を忘れることはきっとないと思う。
高校生の頃、地理の資料集で中国 桂林のカルスト地形の写真に心を奪われてから、ずっとカルスト地形を見たいと思っていた。その思いがバッチリ叶ってしまって、心が本当に満タンになってしまった。
またいつか必ず再訪したい。その時は必ず、暴れ回るドイツ人男性がいない宿に泊まろう。おしまい。
感想もらえるととても嬉しいのでぜひ教えてくださいね!次回はニンビン〜タンホア80kmを漕いで、牛30匹と遭遇したお話です。ではまた!
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