日経新聞に遺贈寄付と基金設立の記事が掲載された話
こんにちは。弁護士の樽本哲(たるもと さとし)です。
10年近くに渡って、非営利・社会貢献分野のガバナンス、コンプライアンス、ファンドレイジングと倫理といったテーマを掲げて、仲間たちと非営利分野における活動を続けて来ました。しかし、それが社会にどれだけポジティブな変化を起こせたのかと問われたときに、自信を持って答えられない自分がいました。
そんなもやもやを、10月23日(日)の日経新聞朝刊24面のマネーのまなび欄の「社会貢献、広がる裾野」という記事が吹き飛ばしてくれました。今日はこの記事を読んで感じたことや、記事に登場する団体の取り組みなどについて書いてみようと思います。
なお、記事に私の名前は一切出ていませんので、悪しからず……
記事の内容
「基金設立や遺贈、資産生かす」との見出しのとおり、日本における寄付や社会貢献の新たな潮流について、幅広い視点から書かれた記事です。日本の個人寄付額の推移や寄付した日との世代別・男女別割合などのデータに加えて、個人が寄付した際の税優遇措置のポイントまで丁寧に書かれています。
その中で、日本フィランソロピック財団(JPF)の基金の話、日本財団遺贈寄付サポートセンターが受け入れた遺贈寄付の実例の話、全国レガシーギフト協会の遺贈寄付の相談窓口の話、一般社団法人ジャパン・フィランソロピック・アドバイザリー(JPA)がてがける財団設立や社会的投資の話などが取り上げられています。
遺贈寄付
このうち、遺贈寄付については、遺贈寄付の普及啓発に取り組む全国レガシーギフト協会の代表理事(2021年6月就任)として個人的にも長く関わってきました。
もう4年も前のことですが、2017年9月にNHKのクローズアップ現代+という番組に「広がる“遺贈”人生最後の社会貢献」というタイトルで取り上げてもらったことがあります。
これを皮切りに、他のメディアでも遺贈寄付に関する取材記事や広告企画が掲載されるようになって、今日では多くの非営利団体が遺贈寄付の受け入れに取り組んでいます。
当事務所でも、個人の方の遺贈寄付の遺言を作成したり、遺贈寄付を受けるNPOや大学から相談を受ける機会が増えてきました。
海外では、欧米を中心に毎年9月の国際遺贈寄付の日(2021年は9月13日でした)にちなんだ遺贈寄付の普及のための合同キャンペーンが行われており、多数の非営利団体、法律家、金融機関などが参加しています。日本もそれに倣って、全国レガシーギフト協会が2020年から毎年9月に遺贈寄付ウィークというイベントを開催しています。
この記事が産業界の方に遺贈寄付を知ってもらえる機会になればいいなと期待しています。
基金設立
日本フィランソロピック財団(JPF)は、記事にコメントも寄せている野村證券出身の岸本和久さんが中心となって2020年に設立し、2021年春に公益認定を取得した公益法人です(私は同法人の顧問弁護士を務めています。)。富裕層から現金や株式の寄付を受けて財団内に基金を設立し、その運用益や寄付金を用いて社会貢献活動を行っている団体などに助成しています。
同財団の事業アイデアは、2017年に野村グループ内で実施された社内ビジネスコンテストで最優秀賞を獲得した事業プラン「富裕層の金融資産と社会貢献を結ぶ~有価証券による寄付のプラットフォーム」が元になっていて、同グループから独立した岸本さんが協力者らとともに実現させました。このコンテストには私も外部協力者のひとり参加して、プレゼン資料作りなどを手伝いました。ビジコンで優勝したのはこのときが最初で最後なのでうれしかったですね(懐かしい)。
米国では、金融機関が顧客の社会貢献活動の資金を受け入れるために財団を組成して資金運用や助成をサポートすることは珍しいことではありません。そのような金融機関が設立した顧客のための財団の代表例としてFidelity Charitableがあります。同財団には25万人以上の寄付者による15万件を超える基金が設置されています。2020年、これらの基金は、17万超のユニークな慈善団体を支援し、年間助成額の合計は9.1億ドルにも達したということです(同財団の2021年ギビングレポートより)。
また、ジャパン・フィランソロピック・アドバイザリー(JPA)は、財団設立や基金を通じた社会的投資などの顧客ニーズを実現するためのコンサルティングやリサーチなどを行う一般社団法人で、当事務所は法律顧問として同法人の事業をサポートしています。JPAの代表は鈴木栄さんというマッキンゼー・アンド・カンパニーやKKRといったビジネスコンサルティングの分野でパートナーやマネージング・ディレクターとして活躍していた方で、同法人の経営陣やスタッフには異分野で経験を積んだ方が多く参加しています。
従来の非営利業界とビジネス界はCSRや企業メセナといった文脈での繋がりはあったものの、現役世代の人材交流や取引が活発に行われていたとは言い難く、それが非営利業界に投資家や富裕層の資金を呼び込むことの障害になってきた面があると感じています。JPAの登場はそのような旧弊を打開するきっかけになるはずです。
寄付拡大のカギ「透明性と信頼性の確保」
このように、この記事には私がこれまで運営面や法務面で関わらせてもらった法人の活動が取り上げられていて、しかも好意的に伝えられていたのが本当にうれしかったし、これが経済紙を代表する日経新聞の記事だということが信じられない思いです。
非営利団体の運営のサポートは、決して弁護士として儲かる分野ではないし、目の前の誰かを救って感謝されるわけでもない、裏方の仕事がほとんどです。しかし、それらの団体の活動を通じて、社会全体に変化をもたらすことができます。この記事を読んで、自分の活動が無駄ではなかったと感じることができて、よろこびを感じています。
とはいえ、本当の意味で成果が出るのはまだまだこれからです。この記事の結びには「寄付を受け入れる側がさらに透明性や信頼性を高めることで、様々な手法による寄付は今後も増えそうだ。」とあります。まさにそのとおりで、透明性や信頼性の確保は、寄付として大事な財産を預かる側の永遠の課題です。
2021年9月に、全国レガシーギフト協会は、「遺贈寄付の倫理に関するガイドライン」を発表しました。遺贈寄付を受ける団体、遺贈寄付に関する実務に関与する専門家や仲介者の倫理についての行動原則、行動規範を定めたものです。こういった規範を寄付を受ける団体自らが定め、遵守することが、社会からの信頼獲得に繋がっていくはずです。
やらなくてはならないことはたくさんありますが、この記事から進み続ける勇気をもらいました。ありがとう日経!
(おまけ)弁護士以外は読み飛ばしてください。
当事務所では、上記のような活動に一緒に取り組みたいと考える弁護士を募集しています(新人、アソシエイト、パートナー候補)。興味のある方は樽本法律事務所のHPからお問合せください。
また、NPOのための弁護士ネットワークでも、このような活動に関心のある弁護士の仲間を募っています。詳しくはこちらをご覧ください。
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