ブリージング・バッグ
管楽器の呼吸の練習に用いられる、ブリージング・バッグのご紹介です。
効果・目的
リラックスした大きな呼吸と、フル・ブレスの習慣を養います。
身体の「外側」での空気の動きを視覚化し、身体の「外側」での空気の動きに意識を向けコントロールすることによって、
身体を固めずに制限なく自由に動くようにすること、そして、演奏時に基本として非常に重要であるフル・ブレスの習慣を作ります。
身体を意識的に「この部分がこう動いて…」と動かそうとすることでは達成されにくい本来の動きが、器具を利用することによって自然に生まれてきます。
使用・練習方法
ブリージング・バッグは、4~6リットルほどの容量(これがだいたい人の肺の容量)の、ゴム製のバッグです。
■クリスティアン・スティーンストロプ(Kristian Steenstrup)氏の説明による使用法■
・バックの口を、自分の方に向けて、
・バッグの口を自分の口からほんの少し離して目の前に持ち
・離したままバッグの中に息を吹き込み、バッグを膨らませます。
(最初は口から出す息だけでなく空気もバッグ内に入れることによって酸欠を防ぐ意図。)
・バッグが膨らんだら、そのまま口をつけ、バッグ内の空気をできる限り吸い込みます。
・できる限り吸い込んだら、口をつけたまま、バッグ内に息をできる限り吐き出します。
(吸い込み時も、吐き出し時も、身体をギュッと固めて無理やり息を出し入れする必要は全くありませんし、そうしてしまうと逆効果となります。常に柔軟に身体を保つことが非常に重要です。)
・できるだけ吐き出したら、再び、口をつけたまま、空気を吸い込みます。
・再び吐き出します。
・この動作を連続的に繰り返します。
練習の際のポイントとしては、
・身体は固めずに放任しておき、動くがままに任せる。
・身体をギュッと固めて強く押し出すよりも、実は身体は固めずにリラックスしていた方が、空気を上手く動かせることを理解する。
・バッグの、膨らむ→収縮→膨らむ→収縮→…という動きを目で確かめ、身体の外の空気の動きを実体としてとらえる。
・身体の「外側の」空気の動きを意識し、感じ取り、コントロールする(それによって結果的に身体は適切に動く)
という点です。
このことについては、「なぜ器具を使った練習をするのか?」を必ずお読みください。
器具使用のねらいを知らないままに練習しても、期待される効果を得ることができません。
残念ながら、日本でのウェブ上の情報は動画を含め、器具使用のねらいや意味を正確に伝えていない状況にあると思います。
特にこのブリージングバッグでは、息を吐く時も吸う時も身体をできる限りリラックスしたままゆっくり行うことがとても重要です。
それによって、身体は、必要なところが必要な方法で、大きく動き出してくるはずです。
時には、身体が拡がろうとしているのに自分の身体がまだ硬くて震える感じになったりするかもしれません。
その時は、ただリラックスをし続けることです。日に日に、自然に、身体が柔軟になり、拡がりが大きくなり、その震えは消えてくるでしょう。
また、特に息の吐き出しの時に、身体をぎゅっと固めてストレスのある息を強く出す必要は全くありません。
むしろ、それは消すべき習慣です。
多くの人は、身体をギュッと固める方が、息がうまく流れると思い込んでいますが、実は全く逆なのです。
身体はリラックスしたまま息を出した方が、息はうまく流れるのです。
このことは、実演してみせてみれば一目瞭然なのですが、ブリージングバッグを通じて、身体はリラックスしたままである方が息は良く流すことができる、という事を理解できるはずです。
さらに、応用的には、このバッグを使って、実際の音楽的パッセージで息のコントロールの練習ができます。
(ここでは省略。)
フル・ブレスの重要性
演奏時に音となり実際に音に影響するのは、息の「吸い方」ではなく、「どんな息が出ているか」です。
従って、音に直接に影響するのは、息の「吐き方」であり、「吸い方」それ自体だけにこだわる必要はないと言う事もできます。
しかしながら、実は息の吸い方は、息の出方に直接的に影響を与えるものであり、息の吐き方の為に、息の吸い方は極めて重要になります。
息の吸い方の質は、息の吐き方の質に密接な因果関係をもっているのです。
人体には弾力性がありますから、膨らんだ身体は、何もしなくても勝手に元に戻ろうとします。
息を吸うと身体は膨らみ、そして何もしなくても、身体は元の大きさに戻りながら、この時に、息を外に出す力を生みます。勝手に息が出ていきます。
身体の膨らみが大きければ大きいほど、この「勝手に出ていく息」の力は大きくなります。
逆に、息の吸い込みが不十分であればあるほど(膨らみが不十分であるほど)、自分から身体を縮めて息を「押し出す」力が必要になります。
この「押し出す」息は、無くても良いはずの身体の収縮の労力を必要とし、身体を硬くし、効率性を大きく損ないます。
もちろん、「勝手に出ていく息」を使わずに、つまり元々肺の中にある息だけを「押し出す」ことによって演奏するのは、(限定された範囲内で)可能です。
しかしながら、この方法は、2つの点で効率性を大きく損なうことになります。
1つは、息の吐き出しの際に、筋肉を必要以上に固めなければ息が出て行かない事。これは当然ながら、薄く硬い音質や狭い音域へ直結します。
2つ目は、吐き出しによって必要以上に固められた筋肉は、次のブレスの瞬間に即時のリラックスが困難であり、次のブレスが浅くならざるを得ない事。
この2つはつながっていき、浅いブレスが連鎖していくことになります。
常にフル・ブレスをとり、「勝手に出ていく息」の力を利用することは、筋肉をより柔軟に使うことを可能にし、非常に高い効率性を生んでくれます。
もちろん、「勝手に出ていく息」の力だけで演奏するわけではなく、それにプラスして息を吐き出す筋肉の動きは必要です。
フルブレスと「勝手に出ていく息」を利用することが、息の吐き出しの筋肉を常に柔軟なまま硬直することなく使えるようにしてくれるのです。
フルブレスをとることが、過剰な筋肉の緊張を生む、という考え方もありますが、身体が柔軟に使えていない奏者や、身体の自然な動きを意識によってむしろ阻害している奏者にとってはこれは当てはまりますが、本当に柔軟に身体を使える場合、これは生じません。
■動画
実際に使用している様子の動画をご覧下さい。
ジェイコブスの直接の生徒であり、ジェイコブスの教えを引き継いでいるクリスティアン・スティーンストロプの動画です。
これは有料配信のマスタークラス動画の一部サンプル動画であり、全編ではありませんが、0:22から一瞬ですが、スティーンストロプ氏が実演している様子が見られます。
(より実際の音楽的パッセージを実演している部分です。)
全編では、丁寧に説明と使用のデモンストレーションがなされています。
また、以下のスティーンストロプ氏のマスタークラス(のサンプル動画)でも、ブリージングバッグの使用を見ることができます。
サンプルなので全容はこれでは見ることができないのですが、使用前後の音の違いを聴くことができます。
最初は解説が入っていますが、1:20から、実際に使用しています。
上半身が大きく膨らみ、その後、決して力まずにゆったりと吐き出しています。
トップ画面は、スピロメーターの所ですが、再生すると、最初にエアーバッグが出てきます。
話している内容は残念ながらわかりませんが、使用の様子をご覧下さい。1:05からです。
■購入リンク
・ジャパン チューバセンター
など
■安価版・代用的ブリージングバック
(WindSong Pressの代替ブリージングバッグ)
https://www.windsongpress.com/product/breathing-tubes-and-bags-12-ea/
A.ジェイコブス関連の書籍や器具、その他たくさんの情報提供をしているWindSong Pressのウェブサイトでも販売されているように、ブリージングバッグは安価な袋と管を使って代用することが可能です。
ブリージングバッグは本物を購入すると4,000~5,000円はしますが、安価に代用してしまうのも良いと思います。私は生徒にはこの手段をとっています。
<用意するもの>
・直径2.5cmほど、長さ5cmほどのプラスチック管(ホームセンターで一個50~100円程度!)
・4~6リットルほどの容量のビニール袋
・輪ゴム
<製作方法>
ご想像の通りです。笑
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