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解雇規制が緩和されるとクビになるのか

総裁選の候補者数人から解雇規制の緩和が公約に挙げられてから、メディアだけでなく街中でも影響について不安の声を聞くようになりました。

そこで今日は企業、および投資家の視点から解雇規制緩和の影響についてお話しします。

外資系企業は今でもほぼ解雇規制なし

一般に外資系企業は「あたかも」解雇規制が存在しないかのように日本国内で事業を行っています。私自身、20年以上典型的な米系外資におりましたので、その時の経験をご紹介します。

ざっくりと結論から言うと、解雇規制が緩和されると、社員への報酬は会社への貢献度、すなわち実績に基づいて支払われるようになります。また、報酬に対して、会社への貢献度が低く、また今後も改善の見込みがない社員は解雇(雇用契約の解除)が言い渡されます。

なお、3ヶ月ほど業務実績が悪いぐらいでは解雇になりません。年齢や社歴、性別、役職に関係なく求められたパフォーマンスを半年から一年ほど継続的に出せていないと認められた場合に、業務改善を求められます。上司は当該社員にパフォーマンスに問題があることを伝え、その事実について同じ認識を持ち、今後の改善を約束します。

さらに数ヶ月が経過しても業務が改善されない場合、多くの外資系企業ではPIP(Performance Improvement Program)と呼ばれる業務改善プログラムを実施します。現状、何が課題で、いかにして、およびいつまでに改善するか、そして改善度合いをどう計測するかまでを具体的に設定し、社員と上司が合意します。

営業社員であれば、売上金額、デスクワークの社員であれば処理された書類の数や計算間違いの数などのKPI(業績評価指標)を決め目標値を設定することになります。その上で、毎週なり一週おきに進捗状況を確認し、上司と社員が合意します。

会社規定の業務改善プログラムを3ヶ月から6ヶ月ほど受け、事前に合意した期間内に改善が見られない場合、会社から雇用契約の解除を言い渡されます。すで条件は合意してあるためサプライズはないです。

なお、業務改善プログラムを経て退職する際、社員には退職金とは別に一時金が支給されます。金額は企業や社員によって異なりますが、半年から一年分の給与のことが多いようです。交渉によってはさらに上積みされることもあります。

ところで、ここは日本。本当に外資系企業には解雇規制がないのか?

いいえ。外資系といえども、日本国内で法人として登記されている限りは解雇規制は適用されます。そのため、もしも社員に裁判で訴えられた場合、企業はほぼ100%敗訴し解雇できないと言われています。社員の中にはごく稀にですが、雇用契約の解除を受け入れず、出社するものの社内でまったく仕事を与えられずに何年も在籍した社員もいるようです。

ただし、たいていの社員は雇用契約の解除を受け入れます。私も上司として業務改善プログラムを何人かの社員と行いましたが、全ての社員が会社の決定を受け入れ、他社に転職していきました。

大きな理由の一つに、外資系企業は、やめてもらう時はしっかりと一時金を払うことが挙げられます。そのため、社員にとっても、訴訟にかかる時間や弁護士費用などのコスト、それに伴うキャリアの中断を考慮すると、さっさと一時金を含めた退職金をもらい自身の能力に見合った企業へ転職するなど次のキャリアステージに進む方が、今後の長い人生にとってはよりポジティブに作用するからでしょう。

企業にとっても一時金は追加の費用となりますが、継続的にパフォーマンスが発揮できない社員を抱え続けることは、他の社員の業務負荷を増やすことにつながるため、業務上必要なコストと割り切ります。また、人員が一人減ることにより採用枠が発生するため、新たにより有能な人材を外部から迎えることができます。それにより、組織力の向上も見込めるため、一時金は「投資」として捉えることもできます。

逆の言い方をすると、キチンと一時金を払えない企業は社員に雇用契約の解除を受け入れてもらえず、解雇規制が緩和されても社員の解雇はできない可能性が高いといえるでしょう。

投資家にとっては良い話

なお、投資家の視点からは、企業の限られた財源が、貢献度合いに応じて公正に社員に支払われるようになるため、解雇規制の緩和は追い風と言えるでしょう。よりフェアな報酬制度は社員のモチベーションも上がり会社の業績向上にもつながるなど、好循環がうまれます。経営資源を最適配分することにより、日本の株式市場もより資本主義が機能することになります。

さいごに

いかがでしたでしょうか。
解雇規制緩和により、実績が伴わない、業務の改善が見込めない社員が解雇の対象になることがご理解いただけたと思います。「働かないおじさんを解雇して若者を雇うための政策」という議論も聞かれますが、年齢、性別、役職に関係なく、あくまでも業務改善が見込めない社員が対象になります。

また、企業側が「恣意的」に解雇をおこなう訳ではなく、綿密に練られた業務改善プログラムが存在し、客観的に改善の進捗をチェックし、改善が見られない場合にのみ、結果として雇用契約が解除になります。

今後は解雇規制が緩和されて実績や能力に応じた報酬がより公正に支払われるようになると、定年制度、役職定年制度も見直され、結果が出せる人は年齢に関係なく、また不当に報酬を減らされるようなことなく、働き続けられるようになっていくと思われます。

まだまだみちのりは長いですが、少しずつよりフェアな労働市場が築かれていけたら良いですね。

今日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ありがとうございます😄