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映画『金の糸』の感想(一部ネタバレを含みます)

2022年4月に岩波ホールで観た。随分と時間が経っているが、まだ強く印象に残っている。全体的な感想を書きたいと思う。

鍵となる人物は次の2人。エレネとミランダ。この両者は対称的な人生を歩んだ。

エレネは、ソヴィエト連邦下のジョージア(グルジア)にて、作家として活動していた。しかし、ソ連邦による検閲を受け、20年間キャリアを断たれた。現在は、ひ孫や若き日の恋人との交流を楽しんでいる。

一方、ミランダは、ソヴィエト時代は政府の役人として生き、高官として権力を振るってきた。しかし、現在は認知症を患い、ソヴィエト体制への郷愁と過去の栄光だけを心の支えに生きている。

終盤に、ミランダは、エレネの最初の小説『レクイエム』を発禁処分にしたのは自分だと伝える。エレネの作家人生を大きく狂わせた張本人だった。

エレネと衝突するうちに、ミランダの認知症の症状が強く現れ、街なかを彷徨するようになる。権力の崩壊、盛者必衰、この世のすべてのものは絶えず変化する。そんな様子を象徴していた。

他方、ミランダには別の側面もあった。彼女は私財を売り、その収益を恵まれない方々へ寄付するなどの奉仕活動もしていた。

それを知ったエレネは、次第にミランダを受容しようとし始める。

そもそもこの映画のタイトル『金の糸』は、日本の「金継ぎ」に着想を得ている。

監督のゴゴベリゼ氏曰く「割れた器を金で修復する。金で修復された器は美しく丈夫。そんなふうに過去と和解できたら」と述べている。

「生きたいなら過去に囚われてはいけない。過去を破壊してもいけない。金の糸でつくろうの。わたしたちは──」。

この映画を観た時、自分は過去の嫌な出来事を引きずり、軽い抑うつ状態になっていた。自分にとっての「ミランダ」に嫌悪感すら抱いていた。

しかしいつまでも囚われている訳にはいかない。あらゆる苦い過去も、金の糸でつくろっていきたい。そんな前向きな気持ちを抱くようになった。

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