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プチ短編 第3話 「タイムマシン」

<あらすじ>
有名なあのクーデーターは、なぜ起きたのか? 真相を知るために科学者と歴史学者はタイムマシンで戦国時代へと飛ぶが・・・


科学者の男がタイムマシンを発明した。
「このタイムマシンは未来へ行くことはできないが、過去の世界へ行って戻って来ることはできるんだ。」
「本当に戻って来られるの?」歴史学者の女性が尋ねた。
 
科学者が説明する。
「戻れるとも。ただし出発したその時点に戻るんじゃないよ。行きに遡ったのと同じだけの時間を帰りに進むことになるから。」
「つまり、過去の世界で1時間を過ごしたら、出発した時点より1時間後の世界に戻って来るのね。向こうで過ごしたのが3日なら帰りも3日後。」
「そういうことだ。さあ、どの時代を見たい?」
 
すると歴史学者は言った。
「まずは戦国時代に行きたいな。あの有名なクーデターがなぜ起きたのか、知りたいの。」
「よし、行こう!」
 
二人は戦国時代に時代に飛んだ。
クーデターを起こした武将に会うと、その武将は病に苦しんでいた。
「この一年ほど体調がすぐれなくてのう。いつも頭が重いし、いきが苦しいのじゃ。」
 
それを聞いて歴史学者は、「病気で正常な判断ができなかったって説が当たっているのかしら。でも、どんな病気かわからないと判断できないわね。」
「よし、医師を連れて来よう!」
 
二人はもとの世界へ戻り、男性医師を連れて来た。診察を終えて医師は言った。
「病名はわかりました。しかし、この病気だけが原因かどうかはわかりかねますな。」
「ひどい仕打ちをうけて総大将に恨みがあったって話もあるわね。真偽のほどはわかってないけど。」
歴史学者が言うのを聞いて、科学者はもう一度もとの世界へ戻り、カウンセラーの女性を連れて来た。
 
カウンセラーは武将の話を聞き、科学者たちに言った。
「たしかに彼はひどい仕打ちを受けたと思っています。しかし、今は病気で頭が重いといっていますから、苦しくて悪いことばかり思い出しているのかも知れません。それに、こういうことは双方の意見や周囲の証言を聞かなければ公平な判断はくだせません。」
 
科学者は、彼女の言うことはもっともだと思い、今度は捜査官のグループを連れて来た。いつしか歴史学者より彼の方がことに熱中していた。
「私は公正かつ客観的な判断をくだしたい。そのために、諸君、事実をしっかり調べてほしい。」
 
捜査官たちは総大将本人や双方の関係者から聞き取りを行い、最後にリーダーが科学者に報告した。
「総大将からの命令の中には難しい仕事や突拍子もないものがいろいろあったようです。総大将は、それらは必要があったのだと言っています。その判断が妥当だったかどうかは、置かれていた状況を精査しなければ、なんとも言えません。」
「よし、この際、徹底的に調べ上げよう!」
 
こうして元の世界から各分野の研究者や研究者の卵が大勢連れて来られた。
歴史学者の女性は一人、元の世界へ戻った。
新聞記者が彼女に尋ねた。
「それで、調査隊の結論はいつごろ出るのでしょうか?」
「さあ、いつになるでしょうね。あの時代は大勢の人間がバラバラに動いていたから戦乱が絶えなかったのよ。」彼女は肩をすくめて言った。「いつまでたっても、終わらないんじゃないかしら。」
 
調査隊が戻って来たのは十年後だった。歴史学者が例の科学者のことを尋ねると、隊長は彼女に地図を渡して、こう言った。
「あの方は、まだ調査をつづけて、向こうの世界に骨を埋める覚悟だと言いました。調査結果はタイムカプセルに入れておくとのことです。」
 
マスコミや学会の面々の立会いのもと、彼女は地図に示された場所を掘ってみた。すると頑丈な箱が出て来た。蓋を開けると漆塗りのりっぱな文箱(ふばこ)があり、その中には彼女に宛てた手紙が入っていてる。
 
なにが書いてあるのだろう?
皆が注目する中、歴史学者は手紙に目をとおすと、「なにコレ!?」と声を上げた。
「なんて書いてあるんですか?」
訊かれて彼女は手紙を読み上げた。
 
 
“キリがないので もう やめる。
 みんな、いっしょうけんめい生きた。
 それでいいがや。”
 
それから彼女は笑い出し、笑って笑って笑いつづけ、涙が出るまで笑った。
「これじゃ歴史研究にならないわ。でも、これがいちばん大切なことよね。」
 
手紙の最後がなぜ名古屋弁だったのか。それはわかっていない。
(おわり)


2024/09/19(彼岸の入り)追記
見出し画像は「いらすとや」さんのイラストを使用させていただきました。

2024/10/04
先頭にあらすじを載せました。
改行をなおしました。

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