プチ短編第4話『首都防衛ライン』
あらすじ
二十一世紀後半。日本のある地方で未知の病気が発生する。
東京を守るために「首都防衛ライン」がつくられるが・・・
二十一世紀後半のある年、日本のある地方で未知の病気が発生しました。患者が徐々に増えていきましたが、原因も治療法もわからりません。感染症かどうかすら、わかりません。だから予防法もわかりませんでした。
発症すると動くことも大変になって寝込んでしまう──わかっているのは、これだけです。
この病気はほかの地方にも広がっていきましたが、どこの道府県でもパニックにはなりませんでした。何十年か前に新型コロナこと COVID-19 騒ぎを経験している人が多かったし、今回のこの病気で犠牲者は出ていなからです。
「どうやら致命的ではないようだ。中にはすぐに回復した人もいるらしい。落ち着いて様子を見よう。」
しかし、東京だけは違いました。
「このままでは病気が東京にも広がってくるわ!」
「なんとしても、首都を守るんだ!」
“中央”のお偉い人たちはそう叫んで騒ぎ立てました。そして、彼ら彼女らは部下に命じて首都防衛ラインをつくらせたのです。
陸の県境には壁をつくりました。
ある場所には、何代か前のアメリカ大統領をまねて鉄板を並べ、また、ある場所には、かの“ベルリンの壁”そっくりの壁をつくりました。
東京湾には船をならべて間にチェーンをはり、船が出入りできないようにしました。
そして、空港は滑走路に障害物をおいて、飛行機が着陸できないようにするという徹底ぶり。
お偉い人たちのいう東京とは、自分たちが住んでいる場所のことです。だから、離島は防衛ラインの外です。
やがて、東京に入りたいという人たちが県境に集まって来ました。
お偉い人の一人が壁の上に現れ、彼らを見下ろして言いました。
「お前たちを入れるわけにはいかん! いっしょに病気が入って来たら、トーキョーはどうなるんだ。帰れ、帰れ!」
そういうと銃を取り出し、壁の外の人たちに向けたのです。
集まっていた人たちは皆、恨みのこもった目を向けながら、引き返していきました。
ほどなく、壁の内側では食糧不足が深刻になりました。
だって、そうでしょう。
都心での食料生産はゼロに近いのです。都心から離れると畑があります。しかし、都心の連中まで食べさせる余裕はありません。
東京は県境を封鎖して、自らの首をしめていたのです。
壁の内側では食べ物を巡って暴動がおき、ひどいことになりました。
“中央”のお偉い人たちは、「誰か食べ物を持ってこい。」と言いましたが、誰も持ってきません。
みんな、自分が食べる分を手に入れるだけで、精一杯なのです。
お偉い人たちは、お腹を空かせることになりました。
そこへ怪獣が現れました。
「怪獣だ!」
「怪獣が出たぞ!」
怪獣はずっと地底深くで眠っていたのですが、人間が地下水をたくさん汲み上げて地盤が傾いたり、地下深くまで杭を打ち込む音が響いてきたりして、目を覚ましてしまったのです。
そして、久し振りに地上に出てみると、そこには見慣れた丘も野原もありません。どこまでもビルがギュウギュウ詰めに建っているばかりです。
(いったいどうしたんだ。眠っている間に何があったんだ?)
怪獣は見知らぬ景色の中をウロウロ歩き回りました。体がぶつかったビルは壊れてくずれました。
人間たちは、
「怪獣が暴れているぞ!」
と大騒ぎしました。
一方、壁の外側では。
例の病気について詳しいことがわかり、元の生活に戻りつつありました。予防法も治療法も簡単で、もはや恐れる病(やまい)ではありません。
それを知った、東京の人間が壁の内側から外側へ逃げ出そうとしましたが、外側の人たちに追い返されてしまいました。
「あのときはオレたちを中に入れなかったくせに、今になって虫のいいことをいうな!」
あのお偉い人が壁の上に現れました。
お偉い人は腹を空かせて、か細い声でいいました。
「オレはどうなるんだオレは。東京は食い物がないし、怪獣が暴れているんだ。このままだと──」
「なに、怪獣が暴れている? みんな、怪獣をこの線から一歩も外へ出すな! 防衛ラインを死守するんだ!」
今度は銃や大砲が、壁の外から中へ向けられました。壁の上にいるお偉い人からは、自分が狙われているようい見えます。
「ひいい!」
そこに怪獣がやって来ました。
ズシンズシンと足音を立てて壁に近づいてきました。
隊長が発射を命令しようとした、そのときです。
怪獣はゆっくり回れ右をしました。そのはずみで長い尻尾が振り回され、壁の上にいた、お偉い人に当たり、ペチャンコにしてしまいました。
その後、怪獣は元の場所へ戻り。再び眠りにつきました。
そして、壁の中の人たちと 壁の外の人たちは 仲直りしたということです。
(おしまい)
見出し画像は「いらすとや」さんから。
変更記録
2024.09.22 字句修正。