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新しい街 (ショートショート)


僕は今日、新しい街に越してきた。

雲ひとつない、すごく良い天気。空を見上げた。


この空、テレホンカードで見るような青空だなとか、こんな令和のお昼に考えた。


少しばかりそのテレカの空を見上げ我を忘れる、
そして顔を戻すとそこはもう不安でしかない街、楽しみなんてない。

でも、こんな僕を受け入れてくれるなら、ここで良い。また生きていこうと思う。


少し先、フェンスを越えた向こうから、何やら声援が聞こえる。

あ、サッカーだ。

「へい!パスパス」

「シュート!打て!」

すごくすごく懐かしい。
そういえば、僕も小中高と10年間はサッカー部。青春時代は部活と共に歩んできたんだった。

目の前で繰り広げられてる対決は2vs0の後半、
色で分けられた 紅白戦のようだった。


見るからに赤優勢。1人、ズバ抜けて上手い奴がいる。

サッカーは11人のチームプレー。でも、1人知識のある奴が居るだけでチームはがらっと変わるんだ。

見た感じほぼ素人同士の試合。赤が勝つと、誰しもが思ってた。


後半残り数分…


「おい!一点づつ返そうぜ!」

白の1人が叫ぶ、彼だけは諦めてないようだ。
おそらく元サッカー部だろう、蹴り方や声の出し方が経験者だった。


そういえば、思い出した。
中学時代、2点差で勝ってる試合のハーフタイム、監督が言ったのを。

『サッカーにおいて、2点差が1番危ない。2点の差がつくとどうしても油断してしまう、1点取られても大丈夫という気持ちになる。
でも向こうは違う。
もし1点取られてしまったら「あと1点だ!」って物凄い勢いに乗って攻めてくる。それが1番怖いんだ。だから、1点もやってはいけない』と。


その後 監督の助言虚しく、逆転負け。ベンチだった僕は何もできず、ただ相手の物凄い猛攻を口を開けて見る事になった。


今の赤は完全に油断してる。
そして白の彼は、まるであの時逆転した相手チームを思い出させるような闘志を感じる。それが連鎖し、チームが活気付いたようにも思えた。

照らし合わせるのなら、僕はここで言う赤チームだ。だけど僕は、一言叫んだ白の彼を応援したくて堪らなかった。

そして今油断している赤のチームに、あの時の僕と同じ気持ちを味合わせてやりたいという妙な胸騒ぎがあった。



「ピー!」

笛が鳴る。


赤チームのゴール前、ファウルにより絶好の位置でフリーキック。白がゴールを狙える場所だ。


蹴るのはやはり、彼。


僕は、思わずフェンスの鉄格子をぎゅっと握り、彼の右足に期待を寄せる…



思いっきり大地を踏みしめて蹴られたボールはほぼ回転の無い真っ直ぐな弾道。


強過ぎる。


ポストを越えるか、と思いきや


風の抵抗を受けストンと落ち、キーパーが目一杯伸ばした手を避けるようにゴールへと吸い込まれた。


見事だった。


プロサッカー選手でもあんなキックなかなかできない。


思わず「ナイッシュー!」と声を押し殺しながら、でも白の彼に届かせたい気持ちで叫んだ。


さぁ、あと1点だ。勢い付く白。

守る赤。


やはりあの赤は上手い。ボールを盗られない。


白の彼は、勝ちたいと言う気持ちからかがむしゃらにプレーし過ぎて、周りが見えていない。


こんな時、彼にパスを出せるような人が居れば状況は変わるのに…

僕が、彼にパスを出せれば…

攻撃の起点となるポジションをやってた僕は、この試合が歯痒くて堪らなかった。


よし。



「僕を試合に出させてくれませんか?」



………



なんて言えるはずがないよな。




試合が終わった。



握手を交わす赤と白の選手達。


お互いを讃え、楽しそうにベンチへ帰ってくる。


近付いた白の彼が、僕と同い年くらいに見えて、なんだか嬉しかった。



ほんの数分だったけど、久しぶりに胸が熱くなった。

こんな自分は久しぶりだった。


この街での楽しみがひとつ見つかったような気がした。





おい

852番、早く来い


僕の番号が呼ばれた。



新しい街、刑務所



そうだ

そうしよう。


852番


僕の  

これからの


背番号。










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