episode28 東京ふたたび
「ポニーキャニオン」という会社が具体的に何をしている会社なのか、虎ノ門という駅がどんなエリアなのか、正直何もわからなかったので、僕は2時間ほど余裕をみて行動していた。
東京駅から地下鉄を乗り継いで辿り着いた虎ノ門駅で、改札の前の地図をチェックし、目的地となるビルの位置を確認した。
ずっと地下にいるのも窮屈な感じがしたので、とりあえず地上へと出て、適当な喫茶店を探すことにした。
「めっ……ちゃビジネス街やな」
東京と言えば、東京駅のコンコースの中と原宿駅前ぐらいしか知らなかった僕にとって、この虎ノ門近辺の景色はドラマでしか観たことがない世界そのものだった。周りの建物が高いせいで、相対的に自分が小さくなったような錯覚に陥る。
気後れしつつもちょっとした喫茶店を見つけ、僕は少し気取った感じでそこに入ってみることにした。
隅の方の席に案内してもらい、メニューを見ると、なんとコーヒー1杯が800円だという。
京都で僕が住んでいるマンションの一階はほか弁屋さんになっていて、そのほか弁屋さんでいつも360円ののり弁当を買っていた僕にとっては破壊的な価格設定だった。
でもなぜか、
「ま、東京でコーヒー飲むんやからこれぐらい
するやろ」
という気持ちになっていたから、高揚したテンションが金銭感覚に与える影響というのはまことに恐ろしい。
約束の時間まではまだもう少しあったけど、不思議とこれから会う人たちと何を話そうかということは考えなかった。
それよりも東京で生活し、この一杯800円のコーヒーを当たり前のような顔で飲みながら仕事の話をしたり本を読んだりとしている人たちを眺めている方が楽しかった。みんなそれぞれにいろんな理由でこの喫茶店にいるんだと思うと、それがなんだかとても不思議なことに思えてきて、それぞれの人生のストーリーを妄想したりとしていると、あっという間に約束の時間が迫って来た。
いま一度、人生を振り返りました。こんなどうしようもないやつでも、俳優になり、そして仮面ライダーになることができたという道のりをありのまま書き記しています。 50日で完結するハッピーエンドです。 ぜひ最後まで読んでください✨