episode40 『多重人格探偵サイコ』
俳優として生きていくと言っても、まずはこの東京で生活をしていかなければいけない。ということで、さっそくアルバイトを探すことにした。昔から数々のアルバイトを経験してきたけど、この東京の街では初めてだ。人の数も街の規模も、今まで僕が見てきたものとは比べものにならなかった。
「場所、どこがいいと思います?」
川口さんにそう聞いてみると、
「俺は、できれば渋谷にしてほしいかな。それ
で、悟志が働いているところが見れるところ
がいいね」
「え、見に来てくれるんですか?」
「俺が? ちょこちょこ? 行かないよ」
「じゃあ、なんで?」
「渋谷だと、ドラマとか映画の制作会社がたく
さんあるんだよ。だからそこへ営業に行くた
びに、『すぐそこの何々でバイトしてるんで
帰りに見て行ってやってください』って言え
るでしょ」
「あぁ…なるほど…」
「そうすると、悟志のこともみんなに知っても
らえるし、悟志もいつ誰に見られてるかわか
らないから、垢抜けるのが早いと思うんだよ
ね」
「垢抜ける、ですか」
「よく、女の子とかで、テレビに出だしたなと
思って見てると、どんどん綺麗になって来た
りするでしょ? あれは何も整形したりエステ
してるわけではなくて、『人に見られてる』
という意識でああいう風になってるんだよ」
「そうなんですか…」
「女性はそれが顕著だからよけいに目立つんだ
けど、男でもそういうのはあるからね。悟志
にはぜひ、たくさんの人の目に晒されるとこ
ろでバイトしてもらって、しっかり垢抜けて
もらいたいんだよ」
「わかりました。じゃあ、場所は渋谷で。業種
はどんなんが良いとかあります?」
「業種はなんでも良いんじゃない? 人がたくさ
ん来て、清潔感があれば」
「なるほど。じゃあ、なんか探してきます」
そして数日後、僕は渋谷109の斜め前に位置するドラッグストア、「マツモトキヨシ」でのアルバイトを始めた。東京に来て初めてのアルバイト。来客は一日あたり3万人を超える日もあるということだった。
そのマツキヨでの毎日は本当に楽しかった。一階のレジを打ちつつ、3階の倉庫から店内へと商品を運び下ろすのが僕の主な仕事。間にある2階にはいろんな化粧品メーカーのきれいな美容部員さんたちがたくさん働いていて、1階と3階とを一日に何往復もする僕にとって、それは一服の清涼剤のようだった。
ここでは僕以外にも芸能の世界を夢見て働いている人が何名かいて、中にはディズニーランドのダンサーを目指しているという人もいた。同じような道を志す者同士、働きながらいろんな話をして、その毎日がとても刺激的だった。
いま一度、人生を振り返りました。こんなどうしようもないやつでも、俳優になり、そして仮面ライダーになることができたという道のりをありのまま書き記しています。 50日で完結するハッピーエンドです。 ぜひ最後まで読んでください✨