episode43 沈黙を呼ぶ出来事 後編
一瞬、何が起こったのかわからなかった。ただ、直後になぜかへなへなと下半身の力が抜けて立っていられなくなった。
薄暗い荷台の奥で不意に尻餅をついた僕を見て、みなの作業の手が止まり、ベルトコンベアの後端からいくつかの箱が床に落ちるのが見えた。
「止めろ!止めろーーーっ!」
現場を仕切っていた社員さんが大声でそう叫び、急いで荷台の中へと駆け込んできた。
「大丈夫か!」
「はい。えっと…僕、どうしたんですか?」
「挟んだのか?」
「いや、それがわからないんですけど」
「見せてみろ」
そう言われて右手を出そうとした瞬間、ゴム張りの軍手が水風船のようにパンパンに膨らんでいるのがわかった。
「ダメだ、すぐに病院行け。詰所に戻るよりそ
このモノレールから二駅行ったところの駅前
の病院が一番近いから。この辺はタクシーも
いないし、救急車呼ぶよりそれが一番早い」
「……わかりました」
そう言って、その人に手伝ってもらいながらなんとか手袋を外すと、手袋の中は、いっぱいに血が溜まっていた。
「挟んでるよ…。急いで行ってこい」
僕は恐る恐る自分の右手を見た。血まみれの手の平から徐々に中指の先へと視点を移すと、指先がちょうど真ん中で左右に分かれていた。
自分の手に起こっていることが受け入れがたく、信じがたいと思いつつも、それを自らの目で見てしまったことで脳が無理矢理に事態を認識させられたのか、突如として激痛に襲われた。
「痛っ………!」
「だから早く病院行けって! 一刻を争うから!
早く!!」
その社員さんに追い出されるようにして、僕は冷凍倉庫を出た。
動転する頭の中で、とにかく川口さんに電話しないとと思い、走りながらポケットを探った。右のポケットを左手で探るのがこんなに大変なことだったとは。作業着のズボンは少しゆとりを持ったデザインになっているからか、携帯電話に手が届かない。早歩きしながら体を曲げたり、前にかがめたりとしながら、なんとか取り出した携帯で、川口さんに電話をかけた。
「川口さん…」
「何? どうした?」
「指が…」
「指? 指がどうしたの?」
「指が、バイト先で牛肉…氷が」
「悟志、一旦落ち着いて!」
「…指が挟ま、いや潰れて……今、病院に、これ
から行きます」
「えっ……一体どんな挟み方したんだよ!」
「すみません、あとで説明します」
「病院は? どこの病院?」
「あ、今電車乗るんで、メールで送ります」
そう言って左手一本で手間取りながらもなんとか切符を買い、駅の階段を駆け上がった。貧血を起こしているのか、頭がふわふわとしていた。
いま一度、人生を振り返りました。こんなどうしようもないやつでも、俳優になり、そして仮面ライダーになることができたという道のりをありのまま書き記しています。 50日で完結するハッピーエンドです。 ぜひ最後まで読んでください✨