episode41 俳優になった日
『多重人格探偵サイコ』のクランクアップから数日がたち、僕は三池監督宛てに手紙を書くことにした。
内容はシンプルなものだった。まずは芸名の件のお礼を伝え、続いて現場であのようなスランプに陥って現場全体にすごく迷惑をかけたことを詫び、そして、「僕に大きな成長が見られない限り、今後しばらくは僕を使わないでください」という、一体どのポジションから物を言ってるんだと突っ込まれても仕方がない内容だけれど、それでもどうしても伝えたい想いをそのまま書いた。
あのスランプに陥ったことで、僕は、自分のことがとてもよくわかった。そして、それはあそこまで追い詰められて初めて気がつくことでもあったと思う。
自分を客観視するったって、つい数ヶ月前まで洋服作って釣りしてるだけのチャランポランな僕に、それが急にできるはずがなかったのだ。その「できるはずがない」ということを分かって準備するのか、分かったような気になって準備をするのかの違いが、あの場で顕著に出たんだと思う。
僕は完全に自分のことを過信していた。デビュー以降、周りでたくさんの人が力を借してくれたことで、いつの間にか、ほとんど経験のない演技さえもできるようになったような気持ちになり、バイト先にいる同じ道を目指す友人たちからは「いい事務所に入って羨ましい」と言われ、それらを全部自分の力であるかのように勘違いを重ね、自分の実力を過信して現場に立った結果が、あのスランプだった。
俳優は、現場に立つ時は一人。どんなにバックアップしてもらっても、どんなに応援してもらっても、それこそ川口さんのように現場に一緒に入って、僕のことをとことん支えてくれる人が傍にいてなお、カメラの前で俳優は一人になる。
いま一度、人生を振り返りました。こんなどうしようもないやつでも、俳優になり、そして仮面ライダーになることができたという道のりをありのまま書き記しています。 50日で完結するハッピーエンドです。 ぜひ最後まで読んでください✨