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episode45 跳躍


 週末の撮影は、どちらもうまく行った。
 川口さんと決めた作戦通り、怪我をしていることは隠した状態で、装具を全て外して現場へと入り、そして、終わった後で先生のところへ駆け込んだのだった。
 「今日も仕事して来たのか! ダメだって言って
  るのに!」
 そう言いながら、先生も少し笑顔になっている。

 撮影初日の夕方、閉院直前に僕が全ての装具を外した状態で駆けつけた時には、それはもう本当に怒られた。でも、それでもどうせ言って聞かないのであれば、それはもう仕方がないと。その条件を盛り込んだ上での治療方針に切り替えてくださったようだった。
 「正直、仕事はして欲しくない。今のこの状態
  で無理に仕事をして、菌が入って化膿でもし
  たら元も子もないし、指を切らなきゃいけな
  くなるという最悪の事態も想定しなきゃいけ
  なくなってしまう。だから医者としては本当
  に反対。心から反対の意を表するよ」
 「はい」
 「でもね、この数日、君を見て思った。無理は
  させちゃいけないけど、仕事をした後の君は
  本当に幸せそうなんだ。それは、まぁ、医者
  としてというより、一人の老人として、そう
  感じていると思ってもらえればいい。行って
  欲しくはないが、行っただけのものはあると
  言えばいいのか……ん? よくわからなくなっ
  てきたな」
 そう言って、包帯を巻く手を止めて「困ったな」という顔をしている先生を見て、この人は本当に素敵な人だと思った。世の中の病院がみんなこんな先生だったら、誰も病院を嫌いになったりしないだろうなと思いながら、先生の話をただ静かに聞いていた。

 そして、この一件を無事に乗り越えて、僕は川口さんに対し、ある一つの約束をした。

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いま一度、人生を振り返りました。こんなどうしようもないやつでも、俳優になり、そして仮面ライダーになることができたという道のりをありのまま書き記しています。 50日で完結するハッピーエンドです。 ぜひ最後まで読んでください✨