試し読み『仮面ライダーのなり方』
仮面ライダーのなり方
〜嘘つきで泣き虫だった僕がナイトになるまで〜
プロローグ
建物全体が大きな愛情深い生き物となって、大声で叫んでいるようだった。
暗闇の中、その熱のこもった叫声に包まれていると、それまで感じたことのないような感謝と、寂寞にも似た不思議な感情に満たされていった。そしてなぜか、少し涙が出たんだ。
2019年5月5日、品川プリンスホテル飛天の間にて行われたこの大型イベントは、かつて僕が出演した代表作『仮面ライダー龍騎』の新作スピンオフ作品『RIDER TIME 龍騎』の放送を記念して行われたもの。たしか17年前の放送当時にも同じ会場、同じ場所でイベントをさせていただいたけれど、大げさではなく、その時と比べ物にならないほど凄まじい熱量を放っていた。
その、まさに溶岩が吹き上げたような興奮のアーチの中を、僕は真っ暗な舞台裏からステージへと向けて歩を進めていた。暗さで足元がほとんど見えない階段を、一歩、また一歩と踏みしめる中で、その声はさらに厚みを増した。そして最後の一段を登りきり、ステージ中央に示された立ち位置に立ち、首元のネックレスに通した三連リングに指をかけたその時、突然、耳が剥き身にされたような感覚と共に、それまで聞こえていた轟々と響く歓声がさらに何かしらの殻を突き破るようにして、一気に僕の中になだれ込んで来た。
その愛情に溢れた力強い声たちを全身に浴びながら、ふと思ったんだ。
「俺って、こんなに愛してもらってていいん
だっけか」
そもそも、そんな人間だったか、って。
その答えは、僕にはわからなかった。
きっとそれは、頭で考えてわかるようなことではないだろうし、このステージから見渡したとて、どこかに答えが見つかるようなものでもないのだろう。
そんなことを考えている中でふと、過去の自分に会いに行ってみようと思ったんだ。そしてそれは、きっと数年前の僕に会って来たところで、さほど大きな驚きも発見もないだろう、と。
だから、ここは思い切って大きく振り返ることにした。
時は、1986年。
まだ僕が、鼻水以外には何も垂らしていなかった、齢8つの頃である。
『変身』するまで、あと49日。
NEXT→『episode1 鼻歌少年』
https://note.com/satoshi_matsuda/n/n4146bcb2dc3e
いま一度、人生を振り返りました。こんなどうしようもないやつでも、俳優になり、そして仮面ライダーになることができたという道のりをありのまま書き記しています。 50日で完結するハッピーエンドです。 ぜひ最後まで読んでください✨