水田(失敗作なのか?)
水田が わたしの子を 孕んだ
水田はずっと 故郷での暴力を 恥じていた
その頬は 色彩が簡素で やわらかくはなかった
わたしは 水田におりるときはいつも 迂回することにしていた
迂回によって 舌で
水田の窪んだ眼窩を 愛そうとする行為が
はじめられるような 気がするからだった
夕暮れのあらゆる父親の 浮き上がった鎖骨を
撫でながら水田が 抱いてしまう不安は
うつくしく 草花は 衝動でしかなかった
受胎よりも先にふくらんで迫る 記憶の遅れた植物たちが
戸籍を用意されることなく 森に入り込もうとする
そんなふうに 詩集が 編まれていくような気がしていた
読みかけの詩集にそっと 森林を はさんで水田は
そんな名前が
永遠につかない行為の微熱で 植物を育てつづけてしまう
わたしは羊歯植物が生い茂る 土手に腰かけて
詩の朗読が できたためしがない
羊歯は聾唖であり 水田だけが
病弱な少女ともわかりあえる声で 寄り添えるからだ
畔のいなごがきまって 眼球で聴くことになるその声を
咀嚼しながらその昆虫たちさえもう 水田の欠片になっている
ふとわたしは 思い出す
水田の 足指の巻き爪を
それを切るために昨日の新聞紙をひろげたが 拒まれた季節を
心地よい重力のさなか 夏より饒舌にひろがる
酸素を肺に溜めて 小川に足をさらし
いつの間にか うまれた切り傷をつよく
手指のはらで おさえこんでいく
零れ出た血は現実のように 青白くながれていき
この血と 受精する卵が水底にはりついて
水田は腹の奥で卵黄が 始まる気配に 気づいている
季節そのものとの交わりのなか
でわたしと 口付けできないでいるのを
恐れてはいないだろうか そんな後悔が
白鷺のすがたでわたしの
その鳴き声には 去年の木々が残っていた
どの木立も水田の粗暴に 躊躇わないふりをしているだけで
鳥の、風のつづききのような 水面への排泄を共にみたとき
水田を 愛することが はじまったのかもしれなかった
水田はあらゆる卵生を 引き受けようとしたあとで
小動物の骸をやさしく 求め呑みこむ 巨大な膣だった
とりわけ動物の生命には白痴で
わたしはせめて哺乳類を 薄くしようとつとめ
正確な性の欲求さえ 水田へ呑みこませようと試みたが
畔をはずむように
殺して 歩いていた そうして
わたしは水田に 体液だけを滴らせると
水田は孕み きまってわたしの子だけを 堕胎する
わたしは この時期の行為を 自ら望んでいるわけではないが
水田へおりるときに 迂回することを やめなることはない
たしかな意志で 水田と交わることを選べず
水田はこの先も不意に 暴力の途中であり
わたしの子を 孕み 堕胎しつづける
現代詩人会投稿欄に投稿した詩です。落選しています。やっぱり、作品として成立していないんでしょうねぇ…この作品のイメージは以前にも推敲を凝らし描いたことがあったのですが、失敗してしまいました。何度もチャレンジしてみたいと思っております。みなさんの所感なども、教えて頂けませんか? ちょっとくどいのかな? 小冊子に掲載しておりません。
ところで、みなさん、現在わたしの作品集の、小冊子(プレ詩集)予約受付中でございます。ツイッターのDMかGmailに住所等のご連絡くだされば、冊子を近日ちゅうに発送いたします。価格は自由で、基本無料でいいでございますので、お気軽にお問い合わせください。なお、受け取った個人情報はこの発送でしか使用しません。みなさんのご連絡おまちしております。