稟議書(件名:遭遇した黒幕に対処する費用について)

記載日:令和六年七月九日。費用支出の理由:昨日、黒幕に襲われました。なぜ黒幕だと分かったかというと、自分で黒幕だと名乗ったからで、黒い大きなマントをお羽織りになる丁寧な殿方でした。最初に「あの、、、」といって、読点三つ分の間があって「くっ、、、」のあとがお吃りになられたので、私がすかさず「くじら?」と返したら「ええ、そう、くじら、、いえ、くろま、、、」とお返し遊ばされたので「くろまぐろ?」と言い返したら「くろまく!」とのことでした。夕方、故郷の風が心地よいので、風を売りたい、と思うほどでした。くろまくさんは、孤独を噛みしめすぎた顔をしておりましたが、美しい耳をもっておいででしたのできっと、詩の朗読会にでも出席した帰りでその美しい耳は、思春期の少女の不安をよんだ詩に感動してきたにちがいありません。ですので私は、架空の入り江に住む架空の兄妹の話しをしてあげたのです。架空の兄は架空の病弱な妹を養うために、泥棒して生計をたてたふうを装いながら、架空の妹はお裁縫をしながら滑空する兄の帰りを待ちます。滑空して降り立とうとする兄に滑空を見上げる妹は、着地したら膝カックンしてやろうと後ろへ回り込んで、こう、といって私は、くろまくさんに本当に膝カックンしてあげたら、くろまくさんは「どへ」とかいうおよそ人類から聞いたことのないお声をお出しになって黒マントをばっさばっさ翻しながら顔からコンクリにお倒れになったのです。たぶん前歯数本イってました。その後くろまくさんは、すごい形相で私を睨めつけ「け、け、けいさ、、、」と言うので私は「計算ドリル!」と返したところ私は、私の小学生の時、宿題を忘れ、三ケタの掛け算のページがおわるまで、居残りさせられてすっかり日が暮れて、とぼとぼ下校した記憶が甦ってきたのです。お母さんが心配して庭先で帰りを待っていてくれて、私はただ下を向いて「ただいま」と言っただけ。そのときお母さんが無言で差し出してくれたママドールが甘かったのを思いだしたので、ママドールを購入する代金を引き落とす旨の御決裁をお願い致します。※見積書は別紙の通りとなります。備考:何の黒幕だったかは忘れました。

ココア共和国に今年の七月だったか? 投稿した作品です。

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