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高時川の長期濁水問題と、源流域での風力発電事業に関する現況整理(2025年1月30日現在)
2022年に発生した高時川の長期濁水問題と、高時川源流域の大規模風力発電事業(ウィンドファーム)について、現時点で私が把握している情報を整理しました。関心をお持ちの方との情報共有、ならびに自分の記録資料として、ここに掲載します。
なお、高時川の長期濁水問題については、2023年8月に下記記事で概要も含めてまとめています。未読の方は、こちらからお目通しいただくことをお勧めします。
滋賀県の動向
滋賀県は、上記記事で書いた「高時川濁水対策連絡調整会議」を継続し、県庁内の複数部署、国、市と連携を続けています。有識者等で検討を行う「高時川濁水問題検討会議」(以下、検討会議)と、一般向けの説明と意見聴取を行う「高時川濁水問題に関する報告会」(以下、報告会)も複数回、開催しています(県資料「高時川濁水対策に関する各会議等の役割と関係」参照)。
2024年3月には、「高時川における長期濁水の原因調査及び対策に関する報告書」がまとめられました(検討会の記録と報告書は、下記ページに掲載されています)。
2024年11月12日には今年度第1回の「検討会議」が開催されました。これを受け、下記の通り、2025年1月31日に「報告会」が開催されます(誰でも参加できます)。
報告書を踏まえ、県は2024年度から土砂流出防止のための具体的な対策にも着手しました。
県は新たな土砂流出防止策として、スキー場跡地から流れ出る大音並谷川の、高時川の合流地点手前で治山施設(えん堤)をつくることを計画しています。(下記、関連記事)。
並行して、風力発電事業者の株式会社グリーンパワーインベストメント(GPI)によるスキー場跡地の是正工事についても指導を継続しており、GPIによって是正工事は進められ、沈砂池の造成や植栽などが行われました(工事内容は、昨年11月の検討会議の資料ー06_湖北森林整備事務所資料ーで確認できます)。
また、三日月知事は、2023年12月に大音並谷川の合流点と高時川を視察(記事)しました。2024年11月7日には、初めてスキー場跡地を訪れました(下記映像)。
ちなみに、上記映像で知事が歩いているのは、下図の赤点線部分です。2022年の豪雨の際に大量の土砂が流出した谷の一つです。
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(GoogleMap使用 東から西をのぞむ ※右上は余呉高原リゾートYAP)
この谷はもともと渓流でした。ここに尾根を切り崩して土砂を流し込みゲレンデにしたので、この土砂が流れ切るまで、土砂が流失し続ける状況が続いています。
風力発電事業者ー株式会社グリーンパワーインベストメント(GPI)の動向
濁水に関する動き
上記のGPIは計画した是正工事を進めました。
工事内容は前述のとおりですが、資料(06_湖北森林整備事務所資料)の中で、2ページめの表に記載されている「スキー場進入路仮復旧工事」について、風力発電計画にも関わるところなので、補足します。
実は、2022年豪雨で崩れたのは、大音並谷川に流れ込むスキー場跡地だけではありません。
高時川本流方面に流れこむ、国道365号線からスキー場跡の尾根(ウィンドファーム計画地でもある)へと上る舗装道路でも大きな崩落が起きました(下図の赤色点線部分が大きく崩落。ほかにも流出箇所複数)。
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(GoogleMap使用 西から東を望む ※上記画像と反対側)
ここはもともと、尾根筋を造成したスキー場駐車場へのアクセス道路です。スキー場ゲレンデ同様、ここも、谷筋に土砂を盛って道がつくられたことが読み取れるかと思います。大量の雨が流れ込むので、その水流で道路が破壊されます(本来の谷の形に戻ろうとしているのだと思います)。
GPIは2022年の年内に緊急復旧をしましたが、2023年に降った雨で再び崩れました。そこで、2023年に復旧工事を行いました。これが資料2ページの表で「スキー場進入路仮復旧工事」と記載されている箇所と思われます(資料1ページ目の是正工事図面からは外れています)。
この仮復旧箇所はいまのところ崩れていませんが、谷筋につけた道路であることに変わりはなく、今後も大雨による崩落の危険性が高い箇所であることは変わっていません。なお、この道は、後述の風力発電事業において、風車の建設およびメンテナンスに使うメインの進入路に想定されています。
風力発電についての動き
GPIによる風力発電事業「余呉南越前第一・第二ウィンドファーム発電事業」については、まだきちんと整理した記事が書けていません。改めて一から整理をしたいと思いますが、ざっと概要だけ紹介します。
本計画は、2010年代後半からGPIが計画を立案し、事業実施に向けた環境アセスメント(環境影響評価)の手続きを進めてきたものです。
計画地は滋賀県と福井県にまたがっており、滋賀県側は上記のスキー場跡地を含む高時川の源流域、福井県側は日野川(九頭竜川の支流)の源流域の尾根筋にあたります。
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2023年の時点では、事業は2期で計画をされており、風車基数は39基、総出力は163,800kW(=163.8MW)の計画でした。
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しかし後述する環境アセスメントのプロセスで県や国などから環境影響への強い懸念が示されたことを受け、基数を減らす方向で検討が進められています。
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環境アセスメントに関する経緯は滋賀県の「(仮称)余呉南越前第一・第二ウィンドファーム発電事業 事業概要およびこれまでの経緯」で全体像が記されているとおり、2018年の配慮書の送付を皮切りに、2019年の方法書、2022年の準備書と段階を経て調査・検討が行われてきました。
この間、県が開催した審査会の委員からも、市民および市民団体からも様々な懸念や課題の指摘がありました。
たとえば2021年6月に発行された角田航也さん(当時は県議で、現在は米原市長)の県政レポートでも、計画への懸念点が示されています。
私も2023年1月に開催された県の公聴会で、琵琶湖に飛来する水鳥の渡りへの影響について意見を述べました(その際のプレゼンと音声はYoutubeで限定公開しています。他の方の意見は県のHPに掲載されています)。
その後、2023年には、長浜市からの意見書、滋賀県からの意見書、国から勧告が、随時、出されました。この中では、さまざまな環境影響上の課題・懸念が指摘されました。特に県と国は最大限に厳しい意見・勧告を出しています。
例えば県の意見書「(仮称)余呉南越前第一・第二ウィンドファーム発電事業に係る環境影響評価準備書に対する滋賀県知事意見(令和5年3月20日)」では
あらゆる環境保全措置を講じてもなお、イヌワシ・クマタカのバードストライク等の重大な環境影響を回避または十分に低減できない場合は、事業の取りやめや事業規模の大幅な縮小など、事業計画の抜本的な見直しを検討すること。
と、事業の取りやめ(中止)にも踏み込んだ厳しい意見が述べられています(なお、日本の環境アセスメント制度において、事業を中止させる権限は市にも県にも国にもありません。よってこの表現はかなり強い懸念を示した表現であると思われます)。
また、
加えて、先般の豪雨により、森林の伐開や土地の形質変更に伴う土砂流出、法面崩壊等のリスクに対する懸念だけでなく、下流の河川環境への影響に対する懸念が増大していることも十分考慮すること。
と、2022年の豪雨に触れ、土砂流出に関する懸念も表明されています。
国(環境省意見を踏まえての経産省)からの勧告「準備書に係る経済産業大臣勧告」においても、
(1)関係機関等との連携及び地域住民等への説明 関係地方公共団体等の関係機関の意見を十分勘案するとともに、地域住民等の関係者に対し、引き続き丁寧かつ十分な説明を行うこと。
(2)専門家等の助言を踏まえた事業計画の見直し及び結果等の公開について 対象事業実施区域が位置する場所の重要性を理解した上で、十分な環境配慮がなされ、地域の理解を得た事業となるよう、抜本的な事業計画の見直しが必要である。また、見直しに当たっては、専門家等からの助言を受け科学的に検討し、その経緯を公開する等、客観性及び透明性を確保することが不可欠である。 このことから、以下の措置を講ずることにより、客観性及び透明性を確保し た上で、地域の理解を得ながら、事業を実施すること。
と、厳しい見解が示されるとともに、地域住民の意見聴取、専門家からの助言といった条件が課されました。
その他、3つの意見書ならびに勧告の内容については、AI(NotebookLM)で自動整理したものを掲載します(画像をクリックするとPDFが開きます)。ただし内容が正確でない場合があります、内容を鵜呑みにせず、原典でご確認ください。
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GPIは現在、これらの意見・勧告を受け、計画の見直しを進めています。
2024年7月には専門家を委嘱して第1回環境配慮検討会を開催しました(以下は検討会の記事とGPIが掲載した資料へのリンクです)。
住民・市民の動向
冒頭の記事で記載したように、漁業者の方々や、農業に関わる方々など、さまざまな方がそれぞれに活動をされています。
また、私も含めて、高時川濁水問題に関心を持った住民有志が任意団体「すみつなぐ高時川」を立ち上げ、現地見学会を行ったり、県の検討会や報告会に参加したりして、情報共有や行政・事業者との対話を重ねてきました(以下のHPには最近の動きが掲載できていませんが)。
また、メンバーそれぞれが、自主的に活動をしています。最近はメンバーの一人である村田良文さんが風力発電に関する情報と懸念を発信されています(内容は村田さん個人の発信であり、会としての見解ではありません)。
また、会の代表である子林さんと私、および関心を共にしてくださる地域の方とで、「高時川における"流域治水関連法"の活用に関する学習会」を2024年2月に、「高時川の寄り合い」を同年8月に長浜市高月で開催しました。一般の住民、漁業者、農業者、研究者、議員、行政職員、事業者など、様々な立場の方々での情報共有と意見交換を進めました。
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長浜市議会の動向
市議会でも、多くの議員の方々が、高時川の濁水問題にも風力発電事業にも関心を持ち、議論を続けてくださっています。
上記の「高時川における"流域治水関連法"の活用に関する学習会」や「高時川の寄り合い」にも、党派を超えて複数の議員さんが参加し、熱心に議論をしてくださっています。
また、(仮称)余呉南越前第一・第二ウィンドファームの事業予定地は福井県南越前町も含まれており、同町議会でも活発に議論されていることから、同町議会の情報収集にも努められています。
研究者の動向
濁水問題も、風力発電事業も、現状の読み解きや今後の対策の検討においては、行政と民間だけでなく、さまざまな分野の研究者の方々の参画が必要であると考えてきました。
そんな折、水資源・環境学会に所属されている研究者の方から私に書評の依頼をいただいたことをきっかけに(その書評はこちら)、同学会の研究会行事として、高時川の濁水問題についてとりあげていただけないか相談を差し上げました。
その結果、ご協力いただけることとなり、2024年4月にはオンラインでの「高時川濁水問題報告書検討会」を、6月には現地見学会を開催してくださいました。
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いずれの会にも、県内だけでなく、遠方から文理さまざまな分野の方々がご参加くださり、示唆深い見解をいただくことができました。
水質の専門家の方からは、高時川での濁水問題は一つの川の問題に限定されるものではなく、琵琶湖全体に影響する問題である、というご発言もいただきました。
学会では、さらに議論を深めるため、2025年3月29日(土)の午後に長浜バイオ大学で2024年度水資源・環境学会冬季研究会「高時川濁水問題解決のための展望」を開催してくださることになりました。
自然科学と社会科学の両方の分野、さまざまな観点から、この問題を捉える機会となります。浅学ながら私が座長を務めさせていただくことにもなりました。
学会員でなくても、専門家でなくても、どなたでも参加可能です。会場とオンライン配信とのハイブリッド開催です。ご都合のつく方はぜひ、お越しください。→開催案内参加申込ページ
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以上、2023年8月以降、現時点までの、私が把握している情報の整理でした。
おそらく私が把握していない動きもたくさんあると思います。また、長浜市行政、県議会、国、国会議員、地権者の方々、全国規模の民間団体の方々なども動きをされていると思います。
濁水問題についても、見解は様々ですし、風力発電事業に至っては、私のように強い懸念を抱いている方もあれば、気候変動や地域経済の危機感から実現に力を注がれている方もいらっしゃいます。
その多くが、自分だけでなく、誰かにとって、地域にとって、社会にとって「よかれ」と思っての行動だと思います。
しかしながら、誰かの「よかれ」が、誰かの「悪かれ」になることは多々あります。また、目先の「よかれ」が将来の「悪かれ」になることも多々あります。
したがって、異なる背景を持った人の声に耳を傾けあうこと、現象を多面的な視点や多様な時間軸から捉えること、何より、現場で起きている事実・実態に基づいて、予断を持たずに進むべき道を共に探ることが必要だと思います。
そのためには、関心を持ち、現地に足を運び、情報を集め、対話を重ね、できることを実践してくださる方が一人、また一人と増えていくことが本当に大切だと思います。この間のプロセスを振り返って、改めて。
私も微力ながら、その中の一人として、できることをやっていこうと思います。
本記事をお読みくださった貴方には、今後も、情報共有、検討、実践などでご一緒いただければ幸いです。