この世は何次元か ~超ひも理論が提示する10次元の時空~

 前回のコラムで、量子力学は、従来の古典物理学の型を破ったのであり、何百年も続いた科学的概念と決別したと言ってもよいと述べた。これまでのコラムで紹介したように、量子は量子重ね合わせによって、同時に二つ以上の状態をとれ、二つの現実が同時に存在できることが証明されている。また、粒子が幽霊のように壁をすり抜ける量子トンネル効果も確認されている。そして、テレパシーのように、二つの量子が瞬時にコミュニケーションをとれる、量子もつれ現象も実証されている。
 従来の一般相対性理論は、このような量子現象を全く説明できない。相対性理論を上記のような量子力学の現象に当てはめようとすると、数学的に完全に破綻する。それでは、この宇宙で起きる、ありとあらゆる現象を説明できる、いわゆる万物の理論は存在するのであろうか。

超ひも理論とは何か

 素粒子レベルのミクロの現象から、宇宙レベルのマクロの現象まで、全てをただ一つの数式で表現できる万物の理論は、いまだ完成されていない。しかし、万物の理論の最有力候補と言われる理論がある。それが超ひも理論である。超ひも理論とは、この世界のあらゆるものは、極小の細長いひもが集まって、できているという、物理学の最先端理論である。前回のコラムでは、原子の構成要素である素粒子について記載したが、超ひも理論では、自然界の最小単位である素粒子の正体がひもであると考える。

「ひも」の性質

 ひもは以下のような性質を持っているとされている。

【ひもの性状】
・太さゼロ、長さ10のマイナス35乗の極小のもの
・1秒間に10の42乗回以上、振動する
・一次元の物体

 従来の古典物理学では、素粒子は大きさのない点だと考えられてきたが、物理の計算をする際に、素粒子を点だと考えると、解決できない問題点が発生し、有意な計算結果が得られないことが判明した。そのため、素粒子を点ではなく、一次元のひもと考えるようになった。

次元とは何か

 超ひも理論では、この世界は10次元だとする。ここで次元とは何かを考えてみよう。次元とは、空間等の広がり具合を示す概念である。動ける方向の数、つまり、直交する方向の数と考えればよい。今まで私たちが常識として教えられてきたのは3次元であり、3次元までは以下のように説明できる。

【次元数】
・直線:前後の1方向にだけ動けるので、1次元である。
・面:上下方向、左右方向の直交する2方向に動けるので、2次元である。
・空間:縦・横・高さという、直交する3方向に動けるので、3次元である。

 超ひも理論が定義する10次元とは、空間が9次元と時間が1次元で合わせて10次元である。それでは、私達が認識している3次元空間以外の、残りの6次元空間は、どこにあるのだろうか。3次元を超える次元は、余剰次元と呼ばれているが、余剰次元は非常に小さく丸まって隠れていると考える説が最有力説である。
 それでは、次元が隠れているとは、どういう状態を指すのであろうか。例えば、床に敷いてあるカーペットをイメージしてみよう。人はカーペットの上を前後、左右の2方向に動けるので、人間にとってカーペットは2次元である。しかし、カーペットを移動する小さなダニにとっては違う。カーペットを顕微鏡で見ると、非常に細い糸が丸まっており、その細かく丸まった糸の間にも降りることができる。つまり、非常に小さなダニにとっては、前後・左右だけでなく、高さ方向にも移動できるのである。そのため、人間の肉眼では2次元に見えるカーペットも、ダニにとっては3次元だと言えるのである。このような隠れた次元が、超ひも理論の余剰次元に相当する。そして、次元を丸めて隠すことを、次元のコンパクト化という。

なぜ10次元が必要か

 それでは、なぜ超ひも理論は10次元を必要とするのであろうか。それは、10次元でないと数学的に破綻してしまい、理論が成立しないからである。数式を単純化して説明すると、ひも理論には、[(10-D)×問題点]という形の表現を含む方程式が存在する。「D」は時空次元の数である。そして、「問題点」とは、問題がある物理現象を生む数式のことを指す。「D」が10(次元)であれば、ゼロ×問題点になり、問題点を消滅させることができる。
 ここで重要なのは、10次元という考えは、誰かの適当な思い付きではなく、数学が要請したものだという事実である。

ひも理論の証明

 超ひも理論については、その理論を実証すべく、大型ハドロン型衝突加速器による素粒子物理実験など、様々な試みが行われている。今のところ、ひも理論が正しいと証明できた実験はないが、ひも理論が間違っていることを証明できた実験もない。しかし、ひも理論が提唱する余剰次元などの証拠が見つかれば、万物の理論の探求にとって重要な瞬間になる。発展途上の理論であるが、超ひも理論の数学が正しい方向に進展していくことを期待したい。

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