〈短編小説〉七色 nanairo
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山手線のホームから階段を上り、乗換えの人たちが行き交う広場を左に抜ける。そこには有人切符売り場の窓口が並ぶ、都心部では珍しく、僕にとっては懐かしい光景がある。すぐ隣の自動改札を抜ければ、そこはもう京急線のホームだ。
学生の頃、品川駅から電車に乗るたびに耳にしていた、最終目的地を告げるアナウンスが流れる。
『三崎口』
名前しか知らなかった終点駅に、あらためて行ってみようと思い至ったのは、僕が社会人になってから五回目の夏だった。
八月の湿気を帯びた風と共に、快特電