U-キュウ

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登場人物

由川(ヨシカワ):高校2年生、♀。

僕 :高校2年生、♂。

由川と僕について:由川イナリのいうとおり

※文章がずれるので、PCでの閲覧推奨。

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夕陽の差す放課後の教室。二人が窓辺に立っている。

由川:ねぇ、夏も終わろうとしているわ。

僕 :そうだな。やっと涼しくなる。

由川:私は末端冷え性なので、これからのことを思うと憂鬱になる。

僕 :そうなると由川は夏が好きなのか。

由川:いいえ。髪が首に引っ付くのであまり。

僕 :君に好きな季節はないの。

由川:好きとか嫌いとか、そういうことでのみ季節を捉えるのはナンセンスだと思うわ。

僕 :…。

由川:そもそも、この日本という国にいる限り、季節はめぐる。春が過ぎたら夏が来るし、夏が終われば秋が来る。そしていつしか冬に。私たちが何をしていたってそれは動き続ける。空気と同じなのよ。あなたは空気に好き嫌いをつけるのかしら?酸素のヘモグロビンと結びつく所は好きだけれど、二酸化炭素の水に溶けるとシュワっとするのがいけ好かない…みたいな。

僕 :たとえがぶっ飛んでいて、いまいちよくわからないのだが、とりあえず好き嫌いという二極的思考に縛られるのはよくないということでいいのかな?

由川:あなたがそう思いたいなら、それでいいのじゃない。

僕 :〈小声で〉本当に人の神経を逆撫でするのが得意なようで…。

由川:何かいったかしら。

僕 :いや。ところで僕はいつまでこんな不思議な会話を続ければいい?

由川:季節について話をすることは別になにも不思議ではないわ。むしろ、趣があっていいじゃない。遠い昔の貴族のよう。

僕 :どうやら壊滅的勘違いをしているようなので、訂正しておく。僕が言いたいのは話の内容ではなく、物理的な現在の状況についてだ。いつまで君はカーテンに包まっているつもりなのだろう。かろうじて見えているのが足だけのおかげで、僕は学校の七不思議と対話しているような気持ちになる。あと、暑くないのか。

由川:言ったでしょ。考え事をするときはいつもこのようにしているの。確かに暑くてとろけそうだけれど、不思議と頭は冴えているわ。

僕 :では、そのふらついている足はどう説明する。

由川:…。

僕 :僕はその症状をしっている。無理してサウナで倒れる数秒前の人の足運びだ。

由川:…。

僕 :君がもし倒れたら、優しい僕は君を抱きかかえて教室を出なければいけないな。そのとき、とっさにスカートの中身やら、倒れたときにはだけた胸元が見えてしまうかもしれない。もしかしたら、君の今日のブラジャーの色を知ってしまうかも。だが、それは事故だ。しかたがないね。

由川:〈カーテンから出てくる〉…。

僕 :やぁ。汗まみれだね。

由川:…私はあなたのそういう所、苦手かもしれない。

僕 :僕は君のそういうところが苦手だよ。

由川:〈フラフラと歩いて自分の席に座り、窓を見る〉…もう、夕陽があんなところに。

僕 :いつのまにか日も短くなった。また秋と冬がやってくる。

由川:そういえば、今年はおばあちゃんのキュウリの浅漬けをあまり食べな かったわ。

僕 :また妙に渋いものを。

由川:…妙といえば、特別なものは使っていないはずなのに、あの漬物は私が作ってもそんなに美味しくならないの。不思議ね。あれを一口大に切って、夕食後に縁側でぽりぽりと食べるの。蚊取り線香を焚いて、ささやかな風が吹くと風鈴の音がして。

 しばしの間

僕 :思いがあふれているね。

由川:…そうね。思い出を「思いが出づる」と解釈するなら、あのキュウリの浅漬けは間違いなく私の「夏の思い出」ね。

僕 :…好きなんだな。その漬物。

由川:…どうして?

僕 :笑ってたから。

由川:…。

僕 :初めて見た。いい顔だったよ。

由川:別にそんな…。

僕 :なぁ。由川。

由川:…はい。

僕 :いつかさ。僕にもその夏の思い出、食べさせてくれないか。

由川:なぜ?

僕 :君ほどの不愛想を笑顔にする味だ。興味がある。

由川:…わかったわ。いつか。夏の思い出を貴方にあげましょう。

 ゆっくりと暗転

僕 :あぁ、期待してる。

 F . O

※「モノカキ空想のおと」にも掲載しています。

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