【仮小説】僕がコンビニバイトで生涯を終えるまでの話 第一話
田舎町ほど危険な場所はないと
あの有名なシャーロックホームズは言っていた気がする。
世界中の何も無い田舎町でどれだけの人が
シャーロックホームズに憧れているのだろうか。
俺もその一人だ。
就職は決めず、大学を卒業し親に黙って
地元の探偵事務所の面接を受けた。
あれから2年が経って、今なお、浮気調査をしている。
車の中でひたすら待機し、写真や動画をとる仕事だ。
面接時に今の上司から、ほぼ浮気調査になると聞いていたが、浮気調査しかなかった。
世の中、こんなに浮気を疑いするものなのだろうかと、
もともとつくる気もなかった恋人というものに
ますます嫌気がさした。
今日もホテルの駐車場の車の中で待機していた。
たまに携帯がなり、探偵事務所に現状報告をした。
σ(゚∀゚ )オレ:まだ、動きはありません
事務所:承知しました、引き続きお願い致します
女の声だ。聞き慣れない声だからまた新人アルバイトかもしれない。事務所の事務のアルバイトの入れ替わりは激しい。俺よりよっぽど退屈な仕事なんだろう。居酒屋で同年代で働いてたほうが楽しくて何より稼げる。事務所に長年残ってるアルバイトは3年目の40代主婦だけだと、1年後輩の50代の事務職と兼任してるオヤジが言っていた。
ターゲットがホテルの出入口に男と一緒に出てきた。顔がわかるよう車の中から撮影した。
σ(゚∀゚ )オレ:動きました
事務所:承知しました、引き続きお願い致します
これで終わりだ。明日には事務所にくる予定の旦那にこの動画と証拠写真も一緒に報告する。
何も知らない二人が乗った車を見送ったあと、ため息がでた。このまま事務所に動画と写真を提出してあとは報告書を自宅で書く。
こんな怪しい仕事でもなんとも真面目な探偵事務所で、そうゆう点は気に入っててなんとなく働いていたら2年経っていた。大学の求人で就職を決めた同級生達の会社の話を聞いてると、俺は幼稚園児にわかるレベルでまともな会社に就職はしていた。
ただなのに、劣等感を感じざる得ないのは
浮気調査という仕事内容のせいなのかもしれない。
大学卒業してすぐ、よく遊んでた仲間全員の就職が決まりいつもの居酒屋に集まった時、探偵事務所に就職した俺を見てる目と、2年経っても事務所で同じ仕事をしてる俺を見る目は全く違っていた。
友人:まだやってるのかよ、給与いいの?
σ(゚∀゚ )オレ:意外とやりがいあるんだぜ
給与は友人のほうが高くなっていた。
やりがいあるとしか言わない俺を見て友人達は何も追求してこない。毎回話せる話も準備してきてるが、浮気調査にやりがい感じてる同級の話に興味はないらしい。
飲み会ではもっぱら友人達の聞き役をしている。
2年経って、自分がシャーロックホームズでないことを自覚してなかったと気がついた。
もちろんわかってはいたはずなのに、浮気調査にやりがいを探していた自分に嫌気がさしてしまった。頭が良すぎて普段はヤク中毒になり頭を誤魔化してるシャーロックホームズならどんな面白い事件が起きてもきっと抜け出せないほどの薬漬けになっていただろう。 俺は何も求めていなかった。だからまだこの仕事をこなせている。
電車で会社に向かうのは帰るときお酒を飲むためだ、今日もそうした。通勤ラッシュはさけて乗れるので椅子は空いてるがなんだか落ち着かずいつも座らない。静かな電車の窓からの景色を見ていると、なんだか自分が特別なことをしてるように感じれるこの時間が好きだ。
3駅目で降りて15分歩き、周りと比べても小さなビルの2階にある事務所に入った。
上司:おはよう!あと10分で依頼主くるぞ
事務:おはようございます、報告書置いておきます
σ(゚∀゚ )オレ:ありがとうございます
事務の50代近くだろうか、勤続15年のおばさんが昨日俺がデータで送った写真や動画、報告書を紙袋に入れまとめてテーブルに置いた。俺は中身を確認した。
上司:クロだったなぁ
σ(゚∀゚ )オレ:そうですね
俺は愛想悪い口調で返した。2年経ってもこの上司は気が付かないが、クロシロという言葉をこんなところで使うことが恥ずかしかった。このあときた依頼主の旦那は俺が用意した証拠を見て泣き出した。上司はいつものように慰めたが、旦那は30分ほど話ができないほど泣き続けていた。信じていたのならなんで調査依頼してきてんだよ、と俺は30分旦那を見ていた。
30分後、旦那は相手について調べてくれといった
金のある男だったら慰謝料を請求して別れるというが、相手の男は妻子持ちだった。
旦那は複雑な表情を見せた。いや、俺がたんにわからなかっただけかもしれないが、そのあと旦那は報告書を両手に抱えて事務所を去った。
上司:追加依頼入らなかったね、裁判…離婚はしない方向なのかね?
σ(゚∀゚ )オレ:後からくるんじゃないですか?少し落ち着いて翌日くるほうが多いじゃないですか
上司:じゃ、今度この調査ね。頼んだよ
σ(゚∀゚ )オレ:あ、すいません、ちょっと連休もらっていいですか?
上司:えー…じゃ、これあいつに頼むか。どっか行くのか?
σ(゚∀゚ )オレ:まぁ、、数日お休みもらいます
上司はオッケー、帰ったら携帯に連絡してといった。事務のおばさんは俺を睨んだ。これだから甘やかされてる若いやつは的なものだと思うが、休みはとるし見ないふりをするしかない。お土産を買ってこれば、機嫌は治るが満足気なおばさんを見ると自分が媚をうってるようで、ますます嫌気がさす。
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