オールドシネマパラダイス
大学生の時、映画館でバイトをしていた。
無免許で、ムボウにも映写機を回していた。
アーク式という旧型で、
線香のお化けみたいな炭素棒を
2本横に1列にして、
その隙間がスパークすることで
光を出していた。(マグネシウムかな?)
これがどんどん灰になっていくので、
何度も何度も取り替えなければならない。
キモチもどんどんハイになっていく。
隙間が広がると画面が暗くなる。
くっつきすぎると危険。ぼーっとしていて、
画面が真っ暗になってしまうことなんか
しょっちゅうだった。
これと平行して
やらなきゃならないのがフィルム交換。
映写機は2台あって、
一個が映写している間にもう一個をセットする。
20分くらいで1巻が終わるので、休む暇もない。
終わったのは巻き戻す。これがまた手動。
歯車みたいのに引っかけて手で回す。
一番恐いのがフィルムの移動の時、
ヘタに横にして持つと、真ん中が抜けてしまう。
タマネギの輪切りを
想像していただくとわかりやすい。
真ん中が抜けるともう
ぐちゃぐちゃになってしまって、1巻の終わり。
(ここから来たのか?)
だれもが一度はやるという。
ボクも最初の頃やった。
それでなくても、もう修羅場である。
はじめの頃は、なにがなんだかわからない。
一度フィルムの順番を間違えて、
死んだはずのヒトが、後半また現れたという
…うそみたいなホントの話。
それでもだれも文句言いにもこなかった。
のどかな場末の映画館ではあった。
フィルムのセッティングも、高等技術。
フィルムの通る道筋というのがあって、
迷路のようなところを
通していかなくてはならない。
慣れればなんてことはないのだが、
時間に追われているともうたいへん。
一番重要なのがレンズの前のところ。
映画はご存じのように、1秒間に24コマ。
ちょっとづつ動いている写真を
連続して映すことで動いているように見える。
映写機もうまい具合に、
ちょっとづつ動いては一瞬止まり、
その残像で動きを見せるしくみである。だから
フィルムのセットをずれた状態でしてしまうと、
ずれたまんまの絵が流れてしまう。
(画面の真ん中に線が入ってしまう状態ですね)
これがうまくできなくて
何度も何度もやりなおしてると時間がなくなり、
見る間に線香のお化けはどんどん減ってくる。
あせる。つかれる。
時給400円でした。(…泪)
その映画館は、いわゆる名画座というやつで、
相当古い映画をかけていた。
たまにはポルノもやっていた。
慣れとはおそろしいもので、
はじめのうちはHな映画をただで見られる、
なんて喜んでいたが、
すぐになーんとも思わなくなった。
刺激とは「たま」にあるから刺激なわけで、
毎日だと普通になってしまう。
しかし、本当の失敗というモノは、慣れてきて、
この緊張感がなくなったころにやっちゃうもの。
事件はそんなある日、起こった。
いつものように
なんとはなしにスクリーンを見ていると、
画面が急に「くしゃくしゃ」と
縮むように見えた。
あわてて映写機を見ると、白い煙が出ている。
フィルムを送る部分がひっかかって、
同じコマにずっと光が当たったため、
フィルムが溶けだしたのだ。
「うわっ!燃える!!」
もうパニックである。
とにかく映写機のスウィッチを切る。
館内は真っ暗である。
そんなことにかまっている場合ではない。
フィルムをはずす。うわー。しっかり溶けている。
あやうく火事になることだけはさけられた。
とにかく恐かった。
まるでニューシネマパラダイスそのままである。
(この映画を見るよりもずっと前のできこと)
とりあえず、つぎの巻を映す。
ストーリーは飛んでしまうがしょうがない。
溶けてしまった部分を切って前後をつなぐ。
次回の上映ではセリフの途中で
場面が変わってしまうことになる。
まあ、しょうがない。いいかげんなもんだ。
そんないいかげんな映写技師生活だったが、
楽しかった。
「スタア劇場」という、
その映画館は今はもうない。
今ではどの映画館でも、
もっと進んだシステムで、
映写しているはずなので、
危険はどんどん減っていると思うが、
今でも古い映画で、たまに画面の隅に
切り替えのタイミングを示す●が見えると、
すごくなつかしいキモチになる。
(この●は、2回出る。
1回めでもう片方の映写機を回し始め、
2回目で切り替える仕組み)