失踪

リュックひとつぶら下げて見たこともない道を歩いてた

このままどこか、遠くへ行こうと もがき苦しんでいたはずの抜け殻を思い出す必要もないくらい どこか、遠く

歩いていると背の高い植物が夜の怪獣みたく風に揺れていた

私は怖くなってきて もつれた足のせいで躓いた

せっかく出た家が恋しくなるのは

行き場がないこと、私は知ってたからだ

昔、友人が観たという「つまらない映画」のエンドマークみたい。

自分は自分でしかない。だってさ。そんなの、知ってる、って怒ってた友人。

確かにね。つまんない、終わり方。

私も、そう思う

もしもこのまま、もう少しだけ歩いて行った先に

無意味!全部無駄!っていつも怒ってるあいつの顔が無くなって 寂しいなって私が思うとしたら

生ぬるい夏の風みたいにそんなこと振り返った

でも 今は冬で 溶けない家族同士の愛情みたいな冬で ずっと死ぬまで、私は私のままなら

たとえばこの目の前にある

豪華な女性の胸元に輝くジュエリーネックレスのように広がる夜景 とか

真っ暗闇なんて言葉がぴったりの空と

死に急ぎたくなるような川の水面とか

そういうのだけは誰にも無駄だなんて言われたって

私だけは持って帰れるな なんて

結局そのあとリュックぶらぶら 帰らないといけない場所に行き着いたけど

ため息と共には逃げない 気持ちは逃げなかった

どうすればいいのか

どこに歩いていけばいいのか

迷子になって

でも迷子になるの、嫌いじゃない

そんなの無益だ!もっと現実的になってくれ、という割には あいつは私を見たくもないらしい

知らなくたっていい技術の知識とか 掃除の上手い方法とか 猫の世話の仕方とか

仕事してたって 知らない人の方が多く居たらあいつも黙るんだろうか

もうわからないよ 離して欲しい手ばかりだどんな人間で居たって良いって、言ってくれる人なんて居ない あいつだって口先ですら言わないじゃないか

私が何をどう思ったって 現実的じゃないから却下 なんて 悲しい 寂しい 嘘なんかついてない 嘘なんか もっとつきたい 嘘がつきたい 見透かしてるつもりで歪ませた表情が憎い

私は私を要らないあいつが嫌い

私は私を必要だって言いながら殺すあいつが嫌い

もう居なくなっちゃおうか

やっぱりリュックも持たずに歩いて行こうか

でもどこへ?

失踪なんて大袈裟 できないくせにしてみたい

子供みたいってまた言われるね、なんて自虐したって あいつはそうだよお前は子供以下だってまた怒るだけ

もう嫌なの わかって