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毎回さりげない神サービス。渋谷『チェントアンニ』 〜アレルギー対応が嬉しかったレストラン

ある日突然アニサキス・アレルギーになり、アナフィラキシー・ショックで死にかけたボクは、その夜を境にほとんどの魚介類が食べられなくなり、今ではダシやエキスも避けて暮らしている
外食が最大の趣味で、鮨や魚が大好きだったボクにとって、もう筆舌に尽くしがたい辛さなのだけど、それでもお腹はすくので、昼に夜にレストランに行く。そして「もう二度と外食したくない」と思うくらい対応に傷ついて帰ったりもする(その体験は「闘アレ生活」シリーズにいろいろ書いています)。

ただ、そんな毎日の中でも「惨めにならずに気持ちよく食べられ、気持ちよく帰れたレストラン」がいくつか存在する。ここでは、そういう「嬉しい思いをしたレストラン」を少しずつ書いていこうと思う。

なお、取り上げた店が、ボクと違う食物アレルギーについても同じように対応してくれるかどうかはわからない。また、たまたま対応が良い店員さんに当たった、ということもあると思う。その辺をご承知おきの上、お読みください。


先日、渋谷『とんQ』でのうれしかった体験について書いた。

そして、たくさんの反応をいただいた(ありがとうございます)。

『とんQ』は、一度目の対応で感動して一気に書いたのだけど、なるほどこういう体験について書いていくことは、それなりにお店側やサービス側の参考になるのかもしれないな、と思って、ちょっと他の店のうれしかった体験も書いていこうと思う。

ボクには、もう1年以上通っているのに「ずっと感動しつづけているお店」がひとつある。

今日はその店、渋谷のイタリアン・レストラン『チェントアンニ(CENTO ANNI)』について書いてみたい。

何がすごいって、その「さりげなさ」である。

食物アレルギーの人への対応において一番うれしいのは、正確かつ厳密にアレルゲンがない食事を出してくれることである。場合によっては数十分で死に至るからね。

そして、その次にうれしいのは、「いかに普通に扱ってもらえるか」だ。この精神的な対応がとても大きい。少なくともボクはそうである。

この店は、もちろんアレルゲンへの意識もちゃんとしているが、なによりその「普通さ」がすごいのである。

この店でボクは一度も惨めな気持ちになったことがない。
この店でボクは一度も(自分がアレルギーであることについての)ストレスを感じたことがない。

だから、ボクは一度も、この店に友人たちと行くのをためらったことがない。心が傷つく恐れがないので、みんなで食事を楽しみに行けるのである。

食物アレルギーをもち、外食が不自由になっている者にとって、こんな気持ちになれる店って本当に少ないのだ。

と、ちょっと持ち上げすぎたけど、回し者ではないよw

まぁこの店でどんなことがあったか、聞いてくれ。

【追記】
いまから登場するサービスの方(シバタさん)は、2019年12月27日でこのお店を辞めてしまうようです。この記事を読んで「会いに行ってみよう」って思った方、ご注意を。



最初にこの『チェントアンニ』を訪れたのはランチだった。

きっかけは友人が去年の11月に facebook にしたこの投稿(友人のみへの投稿なので、投稿者は見せず、本文のみキャプチャーしました)。

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この投稿を読んで「いい店そうだなぁ」と思い、直接その友人に「どこの店なの?」と聞きだして、ある日のランチ時にひとりでふらりと行ってみたのである。

渋谷のセルリアン・タワーの近く。
カジュアルなトラットリアで、個室を含めると50席くらいあるだろうか(写真は店の奥から入口方向を写したもの。お店のサイトより拝借)。

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ボクのアニサキス・アレルギーにとって、イタリアンはわりと安心だ。
魚のダシを使っていることはまずないので、魚介類を使った料理(いまは貝も避けている)やアンチョビ・ソース、隠し味などに気をつけれていればいい。

最悪、ポモドーロやアーリオ・オーリオ、ペペロンチーノなどを頼めばいいから逃げ道もある。
だから、店頭ではなく、テーブルにまず座って落ち着いてこちらの状況を伝えればいい。忙しいランチ時の店頭で他の客たちに不審がられながらクレーマーみたいな聞き取りをしなくて済むのである(ホッ)。

なので、テーブルにつき、お水を持ってきた店員さんにこう伝えた。

「すいません、サカナ系のアレルギーがありまして、魚介類すべて、貝も含めて食べられないんです。ダシやエキスもNGです。
メニューにある中で、ボクが食べられないものはどれでしょうか?」

ボクのテーブルについたのは、2ヶ月後くらいに名前がわかるのだが、シバタさんというまだ若い女性だった。

で、このサービスの人、厨房に聞きに行かない。

普通は「ちょっとお待ちください。キッチンに聞いて参ります」とか言ってテーブルを離れるのだが、彼女はもう完全に料理内容と食材が頭に入っているのが誰でもわかるくらい間髪入れず、スラスラと教えてくれた

「はい・・・はい、わかりました。では、お客さまにお楽しみいただけるのは、コレとコレと、コレになりますね。コレなんか、おいしいと思います」


この言葉の中に「神なポイント」が3つある。
食物アレルギーの人じゃないとわからないと思うけど、いったん考えてみて欲しい。





では、あっさりひとつ目の答えから。


まず、上でも書いたが、キッチンに聞きに行かずすぐ答えてくれたこと

キッチンに聞きに行かれるのは(人に寄っては何度も聞きに行く)、それなりに惨めになるというか、忙しいランチ時に迷惑かけている気がして心が折れかけるものなのだ。それがない。

もちろん、知ったかぶりは困る。命に関わるから。
ただ、彼女の場合、もう聞いていてすぐわかるくらい食材や料理方法を熟知している様が伝わってきた。

次、ふたつ目。
ネガではなくポジに答えてくれたこと。

「コレとコレが食べられません、お出しできません」ではなく、「お楽しみいただけるのはコレとコレ」、という説明の仕方が神。

この時点でこちらとしては「アレルギーで仕方なくコレを食べるのではなくて、楽しむためにコレを食べられるんだ!」ってなって、ふっと気持ちがアガる。

ささいなことだけど、これがどれだけ食事前の気持ちを明るくしてくれることか・・・。

これ、意外と難しい技で、誠実になればなるほど「これはお出しできないし、これも危険だし」と、頭の中で「引き算」していってしまう。
それを瞬間的に「コレとコレは大丈夫」と「足し算」に変換していくのは相当難しい技。

でも、これが実に客の気持ちを明るくさせてくれる。

そして、最後のみっつ目。
そこに追い打ちをかける「追いリコメンド」
「コレなんか、おいしいと思います」というにこやかな笑顔が神。

アナフィラキシーで死ぬリスクがあるので、メニューを見ながら「食べられるか食べられないか」でネガティブ・チェックしているボクを、そのオススメと笑顔によって「おいしいものを食べるんだ」という軸に戻してくれる

これ、アレルギーがない人にはわかりにくいよね。
でも超うれしいのだ。

アレルギーの人はメニューをネガティブに見ているので(そのこと自体が食べ好きなボクとしては相当哀しいのだけど)、それをこういった言葉でさりげなくポジティブに戻してくれるのは本当に助かるのである。

あぁ、そう、外食の楽しさってこうだったよなぁ、って久しぶりに思い出した感覚・・・。


短い言葉の中に神3つ。
もう、この時点で気持ちがアガっているので、このひとりランチは実においしいひとときとなった。

いや、ほんと、サービスは大きく味に影響を与える。
昔、「ジバラン」というレストランガイドを主宰しているとき、サービスをかなり重視したんだけど、そのときの方針をあらためて確認した気分だった。

ちなみに、「シミとり」で感動した友人にその彼女の容貌を伝えたら、「あ、そうそう、その人です!」と。

なるほど。やっぱりこの人だったか・・・。


で、この人の神さ加減は、次に約2ヶ月後に行ったとき、最高潮を迎える

また、ランチに行ったのだ。
仕事が立て込んでいたこともあり、2ヶ月ぶりだった。


渋谷といってもセルリアン・タワー近くなので、渋谷の中では落ち着いた地区ではあるが、それでも渋谷である。渋谷のイタリアンである。大勢の客が訪れる。

そんな中での2回目のランチ訪問だ。
ボクのことなんか覚えているわけないと思うじゃん?

くり返すが、一見さんも多く、いろんな人が30〜40分くらいで食べ終わるランチである。
2ヶ月ぶりだから、あれから(1日50人来るとしても)3000人は来ているはずだ。
しかもたった2回目の訪問なのだ。

テーブルに座るまでは普通だった。

で、彼女が寄ってきて(「あぁ前と同じサービスの人だなぁ」とは思った)、メニューを広げ、おもむろにこう言ったのだ。

「いらっしゃいませ。今日、お客さまにランチで楽しんでいただけるものは、コレとコレと、コレですね。コチラはアンチョビを使っているのでお楽しみいただけないのですが、コレなんか、オススメです」

・・・・・・!!!!

なななんと!
覚えていてくれたのか!


しかも、「なんとなく顔を覚えている」とか言うのではなく、しっかりアレルギーの内容まで覚えていてくれていた

まぁ珍しいアレルギーなので印象的だったのかもしれないし、ボクの容貌(スキンヘッドにヒゲ)がインパクト強かったのかもしれないw

でも、それにしても、2ヶ月前のランチですよ奥さん!

ボクは絶句し、「・・・あ、ありがとう」くらいしか返せなかった。

ただ、とても感動して、出るときにお名前を聞いた。
シバタさんという名前だった。
そして、シバタさんはボクの名前も聞き、お互いにそれからは名前で呼び合うようになった。

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神サービスの話はまだ続く。


あまりに感動したので、その2週間後くらいだったか、友人たち6人くらいと初めて夜に訪れたのだ。

ボクはもうシバタさんの名前を知っている。
ちょっと常連っぽい感じで、「こんばんはー」って感じで入店した(まだ3回目なのだけどねw)。

テーブルについて、メニューを見る。

このときの「さりげなさ」がまた神だったのだ。

ボクは面倒くさいアレルギーがあるわけだけど、友人たちにはボクに気を遣わず自由にメニューを選んで欲しいわけ。

食物アレルギーある人しかわからないかもだけど、同行者に気を遣いまくられるとそれはそれでダメージを受けるものなのだ。

たとえば友人が「これ、佐藤さん、食べられるんですか?」とか「これはどうですか?」とか、悪気なく聞いてくる。わかる。そりゃ聞くよね。

でも、こちらとしては、そう聞かれて「お、その料理おいしそうだなぁ」と思った時点で、「もし食べられなかったら哀しいな」という気持ちと「ボクが食べられなかったらみんなも遠慮するよな。それはそれでイヤだな」という気持ちが出てくる

そういうのが何回か重なると、それが引き金になって「自分の状況に対する悲観」が起こり、翌朝ベッドから起き上がれなくなっていたりする(←いわゆるウツの初期症状だ)。

これは、アレルギーになって1年半以上奮闘しているのだけど、いまだに無理だ。馴れないし、傷つきやすさも初期と変わらない。いや、より深くなってきている。

だから、本来楽しい時間であるはずのメニュー選びの時間が、ボクにとってはビクビクする時間になってしまっているのである。
(そう、あんなにレストランは得意分野だったのに、いまやビクビクする場所なのだ・・・泣)

・・・ちょっと心の中の説明が長くなったが、話を続けよう。

シバタさんは、その辺もぬかりなく、ボクに気にさせない。
そこがだ。

「では、メニューの説明をさせていただきますね」と、まず、"友人たち主役で" ひと通りメニューの説明をする。もちろん魚を使ったメニューもおいしそうに説明する。

その後、ボクの近くにさりげなく寄ってきて、小さめの声でさらっとこう言うのだ。

「佐藤さまは、○○と○○以外はお楽しみいただけます。大皿でみなさんでシェアする場合は、佐藤さまだけこちらでプレートに取り分けてお持ちしますね」


こういう対応、ほんと助かる。

まず、友人たちを主役として説明してくれたこと。
この時点で「アレルギーの人の気持ちをわかってくれているな」と思う。

自分がいることでみんなの「メニュー選び」という楽しい時間がなんとなく盛り下がるのが本当にイヤなのだ。

その上で、さりげないボクへの気遣い。
しかも、みんなでシェアする場合、イタリアンの「前菜盛り合わせの大皿」とか、アレルギーで食べられるもの食べられないものがわかりにくくなるんだけど、それはボク用にプレートにして取り分けて持ってきてくれると言う。ありがたい。

しかも、である。

そのプレートが来てまた驚くのだが、ボクが食べられない分の代替物を加えてくれているのだ。

つまり、みんなは大皿で来た「前菜盛り合わせ」でボクが食べられない魚介類も食べている。それは逆にうれしい。ボクに気を遣わず楽しんで欲しい。

でも、そうなると、ボク用に取り分けられたプレートは、魚介類分の料理が減るわけじゃん? 

でもシバタさんは、その分を減らさず、オーダーしなかった料理を特別に加えてくれているわけ。

それがまた美味しそうで、友人たちからちょっとうらやましがられたりするのだ。「佐藤さんのそれ、むちゃくちゃうまそうじゃないですか」って。

こういうのが、なんかうれしい。

なんというか、こういう食事の楽しさをアレルギーになって以来失ってしまっていたので、こんなことでも涙が出るくらいうれしかったりするのだ。

もちろん、そういう対応はパスタでも、メインでもくり返された。
もう大舟に乗った気分で、ボクはシバタさんに身を任せ、友人たちとの会話と食事を楽しんだのである。

・・・何ヶ月ぶりかな、こんなにダメージ受けずにレストランを出られるの。


それからも夜に昼にちょくちょくと『チェントアンニ』には出かけた。

そして、また、うれしいことがあった。

初めて行ってから半年後くらいだろうか、なんとシバタさんは若くして「店長」に昇格していた

オーナー側も彼女のサービスの凄さをよくわかっていたんだな。
決して高級レストランのそれではないけれど、ホントさりげなく、お客さんを気持ちよくしてくれるあのサービス・・・。

年齢的に考えても、抜擢に近いと思う。

良かったね、シバタさん。
でも、あなたにはその価値が充分にあると思います。
だって、お客さんのことをいつも考えていないと、あんな対応できないもん。

いつもホントにありがとう。

【重要な追記】
シバタさん(その後、柴田美苗さんというフルネームが判明)、2019年12月27日に『チェントアンニ』を辞めてしまうそうです。残念。またどっかで会えるといいのだけど。。。


チェントアンニ (CENTO ANNI)渋谷本店
東京都渋谷区桜丘町30-15 ビバリーヒルズ102
03-5482-7200
アクセス



チェントアンニ(CENTO ANNI)は、イタリア語で「100年」という意味。
シチリアでは、家族が100年幸せに過ごせるようにという願いを込めて「チェント アンニ!」と乾杯をすると言う。

※※
サービスのことばかり書いて、料理の味については言及しなかったけど、もちろんちゃんとおいしい。気遣いに優れたレストランでおいしくない店なんてほぼ存在しない。
ちなみに、ひよこ豆のペーストのフリット「パネッレ」が名物。
ワインの品揃えもとてもよいです(ワイン・セレクトもいつもシバタさんに任せっきりだけど)。



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さとなお(佐藤尚之)
古めの喫茶店(ただし禁煙)で文章を書くのが好きです。いただいたサポートは美味しいコーヒー代に使わせていただき、ゆっくりと文章を練りたいと思います。ありがとうございます。