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カーリー・サイモン 「トーチ」
人生に欠かせないオールタイムベストな音楽アルバムをいろいろと紹介していきたいと思います。ジャズ、クラシック、ロック、ポップス、歌謡曲、フォーク、J-Popなど、脈絡なくいろいろと。
突然ですが、1984年に薬師丸ひろ子が歌ってヒットした『元気を出して』(竹内まりや作詞作曲)って、このアルバムがきっかけで作られた曲だって知ってました?
♪ 涙など見せない 強気なあなたを
そんなに悲しませた人は誰なの?
終わりを告げた恋に すがるのはやめにして
ふりだしから また始めればいい
竹内まりやは、カーリー・サイモンがジェイムス・テイラーと離婚した直後に出したこのアルバム「トーチ」を聴いて、その痛々しさを励ましたくなってこの曲を作ったというのです。
この記事でもはっきりそう言っています。
竹内 私はカーリー・サイモンとジェームス・テイラーの夫婦がすごく好きだったんですが、カーリーが離婚後に「TORCH」っていう失恋の曲ばかりを集めたアルバムを出したときに、傷心した彼女を励ますように、失恋した女の子を励ます歌を作りたいと思ったのがきっかけですね。その頃ちょうどひろ子ちゃんからのオファーがあって、天使のようなひろ子ちゃんのあの声ならまさにそのテーマにぴったりだと思って、一気に書きましたね。
もともとTORCHというのはTORCH SONGのこと。
トーチ・ソング、つまり片思いだったり失恋だったりの痛みを歌った歌。昔はトーチ・シンガーっていって、トーチ・ソング専門の歌手がいたくらい、ジャンルとして確立されていたんですね。
で、カーリー・サイモン。
アメリカン・ポップスを代表する女性歌手だった彼女が、がらっと趣を変えて痛々しいくらいジャジーなトーチ・ソング集を出したんです。おしどり夫婦と言われたあのジェイムス・テイラーと別れた直後に。
うーん・・・たしかに「♪ 涙など見せない 強気な」カーリー・サイモンがまさかこんなアルバムを…。
背景を知ると、かなり泣けるアルバムなのです。
しかも、失恋したての彼女が、その想いの全てを込めて歌ったアルバム。ほんと壮絶と言ってもいいし、こんなアルバムめったにないです。
スタンダードが中心の選曲なんだけど、たとえば冒頭の「Blue of Blue」はカーリー自身の補作詞でこのような意味の言葉が歌われています(またこの曲でのディヴィッド・サンボーンのアルトサックスが泣かせるんだな)。
♪ 希望なんてありゃしない
明るい明日も来るべき最後の望みも
微笑んではくれなかった
(中略)
蹴っ飛ばしてみて、何も感じやしないわ
感覚がなくなってしまったの
以前にあったものはすべてなくなってしまった
(中略)
急に去ってしまったあなた
大胆にも私を捨てたあなた
でも私はそんな報いを受けて当然かもしれないわね
あなたを独占できると思う方がおかしいわね
--山本さゆり氏の対訳より引用--
なんて、壮絶な・・・
あの、強気でやんちゃでタカビーなカーリー・サイモンが!
ボクは彼女を通してジェイムス・テイラーを知り、両方のアーチストをこよなく愛していたんです。もちろんその夫婦関係も理想的だと思ってた。
だからこそ、なんというか、このアルバムは本当につらいものがありました。竹内まりやじゃないけど、元気をだして、って肩たたきたくなる…。
やっぱりカーリー・サイモンは「You're so vain」みたいなハスッパな歌が似合うし(「You're so vain」はミック・ジャガーがバックコーラスについていて、ハスッパさをより盛り上げている)、なんというか大胆で挑発的で無邪気で大味で胸ポチ(わかる人だけわかればよろしい)なところが良かったんだけど。
とはいえ、このトーチ・ソング集は一時のボクのフェイバリットでした。
「Blue of Blue」以外にも、カーリーが作詞作曲した佳曲「From the Heart」を筆頭に「I'll be Around」「Body and Soul」「Hurt」など、もう聴いていられないような熱唱の嵐。いったい何回聴いたことか…。
それまでは、彼女のアルバムでは圧倒的に「ノー・シークレッツ」が好きだったんだけど、これが出てからはこっちの方をよく聴くようになりました。ジャズ・ボーカル専門の歌手たちみたいに上手すぎない歌いっぷりも大好きだったな。
難を言えば、録音がちょっと平たい。せっかく演奏も歌もいいのに、惜しい。
ポップス歌手カーリー・サイモンが出したこのジャズ・ボーカルアルバムの成功に刺激を受けたのか、リンダ・ロンシュタットがこの2年後にジャズボーカル三部作の一「ホワッツ・ニュー」を出すんだけど、まぁこの三部作についてはまたそのうち書くと思います。
わりと好きなんですよ、ポップス歌手が出しているジャズ・ボーカル・アルバム。
上手すぎなくて、ちょっと謙虚で。
うますぎるジャズ・シンガー達だと胸焼けしそうなとき、特にいい。
リンダ・ロンシュタットをはじめとしてシーナ・イーストンとかシビル・シェパードとかメリサ・マンチェスターとか……。
あ、そういえば、カーリー・サイモンもこれに味をしめたのか、このあと1990年に「マイ・ロマンス」というスタンダード・アルバム、1997年には「フィルム・ノワール」という映画音楽ボーカルアルバムを出したりしています。
なかなかいいですよ。
カーリー・サイモンの「リリー・マルレーン」とか、ちょっと聴いてみたくない?
TORCH
Carly Simon
1981年発売/Warner Bros. Records
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