【アート&イート #2】 「グランマ・モーゼス展」からの、用賀『山本屋』で焼き鳥 @世田谷美術館(東京・用賀)
76歳から本格的に絵筆をとって、国民的人気画家になった女性がいる。
101歳で亡くなるまでに約1600点もの絵を描き、89歳の時には当時のトルーマン大統領にホワイトハウスに招待されるほどの有名人となった。
アメリカ人で彼女を知らない人はいない(らしい)。
それが今回の主役、グランマ・モーゼス。
グランマとは、もちろん「おばあちゃん」の意。
モーゼスおばあちゃん。
もともとは無名な田舎の農婦。
70歳で夫を亡くし、76歳をすぎて本格的に絵を描きはじめ、3年後にあるコレクターに発見されて80歳で初めてニューヨークで個展を開き、この個展に大手デパートが注目して売りに出したところ超人気となった人。そして101歳で亡くなる寸前まで絵筆を取り続け、農婦でも居続けた人。
その人の「生誕160年記念」の展覧会が開かれているので、「アート&イート」第2回は、世田谷美術館へ「グランマ・モーゼス展」を見に行ってきた。
いや、あらためてだけど、すごいよね。
76歳で描き始めて、芸術的にも商業的にも成功を収めたおばあちゃん(死ぬまで農婦としての生活は変えなかったらしいけど)。
彼女の存在は知っていたけど、「人生100年時代」的な現代文脈でちゃんとその人生と作品を見てみたいな、と思いながら用賀駅を降りて美術館に向かっていった。
というか、世田谷美術館(通はセタビと略すらしい)がある用賀ってなんだか素敵な街だったなぁ。
用賀駅から美術館まで1.5kmくらい歩くんだけど、街の感じも遊歩道の感じも、なんか地に足が付いててとてもいい感じ。二子玉川駅と桜新町駅というイケイケに挟まれてちょっと地味めなイメージが漂う用賀だけど、ちゃんと歩くととても落ち着くいい街だった。
特に、駅から世田谷美術館へ向かう「用賀プロムナード『いらか道』」はとても素敵だったなぁ。
なんつうか「アートを見に行く序章」として、なんとも素晴らしいのだ。とてもアート気分が高まる道。
紹介しているサイトや卒論の題材にもされていたのでリンクしておこう。
で、街のいたるところに大小の看板が出ている。
用賀の街に世田谷美術館がいかに溶け込んでいるかがわかるなぁ。美術館が機能している街。いい街だ。
空が広くて緑も豊富な芝生の公園、砧公園を通り過ぎると、もうそこは世田谷美術館。
数日前の雪が残っていて、グランマ・モーゼスの看板の絵とも奇跡的なシンクロ。俄然ムードが盛り上がる。
では、どんな展示だったか、見てみよう。
まずは世田谷美術館が作った3分ほどの動画で見てみてください。
とはいえ、これ(↑)、音がないので、同じ展覧会を静岡でやったものの解説動画も見てみてね。こちら(↓)は1分ちょい。
他にも「グランマ・モーゼス」でYouTube検索すると、いろんな解説動画が出てくるので、興味ある方は見てみてください。
で、おばあちゃん。
今回、グランマ・モーゼスの絵をまとめて見て思ったことは、「まぁこれは受けるよなぁ」というシンプルな感嘆。
何に対してか、というと、当時(1940年〜60年頃)の、バリバリの成長期だったアメリカ社会に。
「老人なのに子供のような絵」「農婦なのにアート」みたいな文脈ももちろんあるんだけど、
「国として商業的大成長期なのにプリミティブ」
というのが、当時のアメリカ社会に「忘れていた大切にすべき何か」を思い出させたのだろうし、アメリカンドリーム的にみんな「成功したい!」と息巻いているのに、その欲のない地道な生き方もとても新鮮に映ったのではないかな。
彼女は死ぬまで絵を描き続けたのだけど、象徴的だなぁと思うのは、彼女が亡くなる1961年(ボクの生まれ年!)にアンディ・ウォーホルは例の「キャンベル・スープ缶」を描いているんだよね。
そう、言うなればポップアート誕生の年。
その対極的なアートとして、グランマ・モーゼスは「象徴的にそこに在った」のではないかなぁ。
そして、そういうアメリカの激しい変化と進化についていけない人はたくさんたくさんいただろうと思うのだけど(特に地方に)、彼女の存在はそんな人たちの救いにもなったのではないだろうか。
絵としても、うまく描こうとしていないし、うまくなろうともしていない(ように見える)。ついでに言うと、遠近感もあってないし、人物の大小も機関車や七面鳥の縮尺も、全くあってない。
それでもいいんだ。
うまくできなくていいんだ。
ドリームもサクセスもいらないんだ。
大切な何かは、きっとここにある。
そんな想いを、多くのアメリカ人に抱かせたのではないかなぁ。
ある意味、「大草原の小さな家」的な文脈で。
名曲「カントリーロード」的な文脈で(グランマは歌詞に出てくるシェナンドウ渓谷に住んでもいたし)。
とか。
いろいろ思いながら展示を見てた。
ただ、ボク、いわゆるルソー的な「素朴派」みたいの、あんまり好きじゃないんですよね。ピンと来ない。
同じように、当時のアメリカ社会に受けるのはわかるけど、個人的にはピンと来なかったなぁ。日本の「今」の文脈には乗りにくいというか・・。
そういう意味では、この展示の数日後に出かけた「アナザーエナジー展(森美術館)」も「超高齢女性たち16人のアート」を展示していたわけだけど、そちらのほうが現代文脈としてすっきり納得できたし、感動もしたなぁ。
(※次回に書きます)
という感じで「グランマ・モーゼス展」を見終えて、そのまま2階に上がって『ART/MUSIC』という展示も見た。
これ、地味だけどとてもいい展示で(横尾忠則やバスキアやルソーとかもあったから地味とは言えないか)、わりと時間つかってゆっくり見たなぁ。
世田谷美術館、アットホームで親切でとてもいい美術館なのだけど、サイト上の情報が少なめなのが残念。
あ、あと、世田谷美術館、展示が撮影禁止なんだよね。モーゼスのような企画展だけでなく、普通の所蔵品の展示も。
これは早く改善してほしいなぁ。
ということで、グランマ・モーゼス展もART/MUSIC展も写真なしです。残念。
「ART/MUSIC展」については、PDFが2枚だけ公開されていたので、そこにリンクしておきます。興味ある方はどうぞ。
展示の中で新たに知ったのは、これ。
そう、ユーミンの「流線形'80」のジャケットが矢吹申彦さんだということ。
いや、そう知っている人にとっては常識なんだろうけど、ボクはこのジャケット、誰が描いたかなんて意識しないで聴いていたなぁ。
このあと、用賀駅前に移動して、ひとりで熱燗飲みながら、グランマの図録や「ART/MUSIC」の小冊子とかを見てたのだけど、その矢吹申彦さんのページがこちら(↓)。
ということで、アートの次は「イート」ですね。
「用賀の街って素敵だなぁ」とふたたび思いながら、今度は違う道を歩いて用賀駅前に戻り、今晩は焼き鳥店を選んだ。
用賀駅前にあるけど、看板がなくて入口の階段がわかりにくい店『山本屋』。
グランマ・モーゼス展のあとなので、なんか「その地域に愛されている店がグランマ・モーゼスっぽいなぁ」と思って、サイトでいろいろ調べてここにした。
選んで正解。
17時開店とともに地元の人であっという間に埋まった(予約しといて良かった)。
常連さんもちらほらいていい雰囲気。
常連さんがいる地元の店って、たまに排他的なことあるじゃん?
この店はそんなことまったくなくて、店長(だと思う。焼き場にずっと立ってる人)が、要所要所で話しかけてくれる。
「佐藤さん、店、わかりにくかったでしょう。電話ですいませんでした」
「佐藤さん、熱燗好きなんですね」
「佐藤さん、用賀に住んでるんですか?」
と、名前で呼んでから、話しかけてくれるのだ(予約時に名前を告げている)。
うれしいなぁ。。
名前を呼ぶって大事だよね。これ意外と難しい技なうえに、一見で心細いひとり客にとっては本当にうれしいこと。
あぁ、なんかグランマ・モーゼス展のあとにこの店を選んで良かったなぁ、と、うれしくなった。なんか、その真面目でまっすぐな感じが、美術展とつながっている気がして、とても。
1時間半ほどゆっくりして、気持ちよく帰途についた夜でした。
(あ、アレルギーのこともきちんと理解してくれて、スムーズでした)
ということで、第2回目の「アート&イート」もこれで終了。
次回は森美術館の『アナザーエナジー展』について書こうと思います。
(アナザーエナジー展、なんと1月16日まで。急いで書きます! というか、いい美術展だったので、すぐウェブ予約したほうがいいと思う)
※ 次回記事は、こちら(↓)。
アート&イートをまとめたマガジンはこちら(↓)。
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