聖書や神話を知らんと理解できんアートが多いのでエピソード別にまとめてみる(新約聖書篇15) 〜悪魔の誘惑
「1000日チャレンジ」でアートを学んでいるのだけど、西洋美術って、旧約聖書や新約聖書、ギリシャ神話などをちゃんと知らないと、よく理解できないアート、多すぎません? オマージュなんかも含めて。
それじゃつまらないので、アートをもっと楽しむためにも聖書や神話を最低限かつ表層的でいいから知っときたい、という思いが強くなり、代表的なエピソードとそれについてのアートを整理していこうかと。
聖書や神話を網羅したり解釈したりするつもりは毛頭なく、西洋人には常識っぽいあたりを押さえるだけの連載です。あぁこの際私も知っときたいな、という方はおつきあいください。
旧約聖書篇は全65回で完結しました。こちらをどうぞ。
いまは新約聖書をやってます。ログはこちらにまとめていきます。
このあと、ギリシャ神話。もしかしたらダンテ『神曲』も。
前回、洗礼を受けたイエスだが、その後すぐに洗礼者ヨハネの元を離れて荒野に修行に向かう。
なんかここ数回ヨハネの人生を追ってきたボクとしては、「イエス、冷てえなぁ」と思う。
すぐに去らなくてもいいじゃん。
ヨハネ、ずぅっと孤独だったんだし、話相手になってやってもいいじゃん。
しかもいろいろ話しているうちに、
「え、もしかしてマリアおばさんの !?」
「うそ! マジ? エリサベトおばさんの !?」
とか、お互いが親戚であることがわかって、盛り上がるかもしれないじゃん。
「あー、エリサベトおばさん、亡くなったのかぁ・・・それは残念だったね、ヨハネさん」
「あぁ、ありがとう・・・というか、イエス、あ、イエスって呼びつけにしてもいいかな? なんか同い年だし、急に身近に感じちゃって・・・・・・でさ、イエス、なんでナザレの家を捨ててきたん?」
とか、身の上話もしたいじゃん!
お互いに救世主周りの人材だと直感でわかったんだし、なんならこれから訪れるそれぞれの「きっつい受難」もお見通しなんでしょ?
積もる未来の話でもすればいいじゃんなぁ。
だって、イエス、わざわざ来たんだよね? ヨハネの元に。
そっちから訪ねて来といて、すぐ帰るこたーないわなぁ。。。
というか、オレなら一升瓶くらい手土産に持ってくるね。そして語り明かすね。ついでにケツメイシの「友よ」くらい歌うね。
♫ いいことばかりじゃないこの先のぼくらの毎日に
これだけはずっと言える
本当ありがとう 友よ
ま、こんなこと妄想してぼやいてても仕方ない。
イエスはすぐに荒野に行ってしまうわけだ。
そして、40日間の断食修行に入る。
(この40という数字、旧約聖書から読んできてくれている人にはお馴染みですねw)
で、そのあと、弟子を探す旅に出て、ついに布教活動に入るわけだ。
ここで「今日の1枚」。
イワン・クラムスコイの有名な絵。
もともとボクは内省的な絵が好きなんだけど(絵の前でいろんなことを長く考えられる絵が好き)、この絵はちょっとわざとらしいくらい内省的ではある。
でも、このときイエスはなにを思って断食修行をし、なにを決心して布教活動に入ったのか、とか、いろいろ思いを巡らせられるいい絵だと思う。
で、イエスはこの修行中に、悪魔に絡まれる。
悪魔が現れて「3つの誘惑」を仕掛けるのである。
断食だから空腹で堪らない。
そのイエスに対して、悪魔はこう言う。
「イヒヒヒ、腹へったろう。おまえが神の子なんだったら、石をパンに変えてみろ」
これが1つめの誘惑。
これにイエスは、
「人はパンのみによりて生くるにあらず」
と答え、退ける。
1つめの誘惑に失敗した悪魔は、次にイエスを高い神殿の屋根の上に立たせる。
「イヒヒヒ、怖いか? 怖くないよな? だって神の子だからな、落ちたとしても天使が助けてくれるはずだわなぁ。ほら、それを証明してみせろ、ほれ、飛び降りろ」
これが2つめの誘惑。
これに対しイエスは、
「聖書には、神を試してはならない、と書いてある」
と答え、退ける。
聖書とはもちろん旧約聖書のことね(まだ当時は当然新約聖書はないからね)。
2つめにも失敗した悪魔は、イエスを高い山に連れて行き、この世のすべての国々とその栄華を見せて、こう囁く。
「もしわたしに仕えるなら、これらをすべて進ぜよう」
これが3つめの誘惑。
これに、イエスは、
「サタンよ、退け。
わたしはお前を拝まない。
主なる神のほか、わたしはいかなる神にも仕えない」
悪魔はぎゃーと叫び退散する。
そして荒野に天使たちが現れて、イエスに仕えるようになる。
言うまでもなく、これはイエスの内部に棲む悪魔の囁きだ。
生理的欲求、神を疑う心、信仰心の揺らぎ。
そういうものにイエスは打ち勝った、というこの「プロセス」が、信者にとって、信仰にとって、とても大切なことなのだろうと思う。
では、1つめの誘惑から見ていこう。
「イヒヒヒ、腹へったろう。おまえが神の子だったらば、石をパンに変えてみろ」
「人はパンのみによりて生くるにあらず」
って問答のヤツね。
ジェームズ・ティソさん。
悪魔が「この石をパンに変えてみろ」と問うている。
下の方の絵と比べると、明確には悪魔の姿をしていない。悪魔が化けて、ずるがしこく騙そうとしている、ということだろう。
セバスティアーノ・リッチ。
これも悪魔の姿をしていない。何かの行者がさりげなく現れた、という感じだ。悪魔は巧妙に騙そうとしている。
イエスは右手で天を、左手で地を指さしている。
ティントレット。
「天使ってなに? 悪魔ってなに?」の回でもやったけど、実はサタン=悪魔ではない。サタンはルシファーが堕ちたものだ。地獄で、天使ルシファーは、竜や蛇の化身とされる「サタン」に堕落し、他の反逆天使たちは「悪魔」に堕落するわけだ。
イエスははっきりと相手を「サタン」と呼んでいるので、これはルシファーなんだな。
そう思ってこの絵を見ると、ちょっと天使だったころの面影がある気がする。
ヴェロネーゼ。
左側はイエスの洗礼を描いていて、右側でサタンがイエスに「石をパンに変えてみろ」と言っている。
フアン・デ・フランデス。
これはとてもわかりやすくサタンだね。角もあるし。
左上には山上のイエス(3つめの誘惑)、右奥には教会の上のイエス(2つめの誘惑)。
ルーベンス。
下からのアングルからすると天上絵かな。
次。
2つめの誘惑。
悪魔が高い神殿の屋根の上にイエスを立たせて「イヒヒヒ、怖いか? 怖くないよな? だって神の子だからな、落ちたとしても天使が助けてくれるはずだわなぁ。ほら、それを証明してみせろ、ほれ、飛び降りろ」というヤツですね。
ボッティチェリ。
中央上にはわかりやすく神殿の上にいるイエスと悪魔。
というか、これ、全部描いているな。
左上奥には石を持った悪魔。右奥には山上で誘惑し退けられる悪魔。
ただ、他の場面はまだ理解しきれてないので、また追記します。
ボッティチェリって、モーセのときにもこういう「まとめ絵画」でモーセの生涯を描いていたよね。得意なんだな。
この2つめのはあまり絵がないんだよね。
さっさと3つめの誘惑に行こう。
イエスを高い山に連れて行き、この世のすべての国々とその栄華を見せて、「もしわたしに仕えるなら、これらをすべて進ぜよう」と囁くやつ。
イエスは、「サタンよ、退け。わたしはお前を拝まない。主なる神のほか、わたしはいかなる神にも仕えない」とサタンを退ける。
フェリックス=ジョゼフ・バリアス。
サタンが山上から国々の栄華を見せる。
アリ・シェフェール。
堕天使らしく、翼がある。
「これをすべて、お前に与えよう」というポーズが、なんかミュージカルっぽいよねw イエスの輝くばかりの明るさとの対比。
ドゥッチオ。
国々の栄華がわかりやすく描かれているねw
これが「栄華のイメージ」ってことか。
ランブール兄弟。
こりゃ面白いなw 山の上のイエスとサタン。
手前にどでかっく「栄華の象徴」が描かれている。
そして、右下のほうに行くとライオンに追われた何かがいる。
なんだろう??
なんか謎の生物・・・サタンじゃないしなぁ・・・なんじゃ??
きっと何かしらの意味が込められているはずなんだけど・・・。
ボッティチェリから2枚目。
サタンがぎゃーって落ちていくんだけど、イエスの後ろではもう天使たちがテーブルクロス広げてなんか打ち上げでも用意している感じw
この3天使は、きっと大天使ラファエルと大天使ガブリエルと大天使ミカエルだろう(トビアスの時といっしょかと)。
フラ・アンジェリコ。
上でサタンを退けて、下では天使たちに仕えられるイエス。
いや、仕えられ過ぎだろw ご馳走とかパンとかw
ギュスターヴ・ドレさん。
このイエス、そっぽ向いて自分の内面と闘っているように見えるところが好き。
カラッチ。
「荒野で天使たちの奉仕を受けるキリスト」という題名。
奉仕・・・。いや、急に接待されすぎだよなぁ・・・。
イエスの視線の先(左上)には、黒雲とともに退散していくサタンの姿。
ジェームズ・ティソさんから2枚目。
これはイエスが寝ている間になんかいろいろ誘惑されている象徴的な絵だろうか。怖い絵。
ちなみに。
マーティン・スコセッシの映画「最後の誘惑」の「誘惑」は、この3つの誘惑の延長だろう。
つまり、この映画を観る西洋人は、Temptationという言葉でこの「3つの誘惑」のことを想起しているはずだ。
サントラをピーター・ガブリエルが出している。
ということで、今回もオシマイ。
こうしてイエスは修行を終えたあと、いよいよ「公生涯」、つまり布教生活に入っていく。そしてこの3年後に十字架にかけられる。
次回は、その前に、洗礼者ヨハネの最期を取り上げたい。
超有名な「サロメ」のエピソードだ。
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この新約聖書のシリーズのログはこちらにまとめて行きます。
ちなみに旧約聖書篇は完結していて、こちら。
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間違いなどのご指摘は歓迎ですが、聖書についての解釈の議論をするつもりはありません。あくまでも「アートを楽しむために聖書の表層を知っていく」のが目的なので、すいません。
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この記事で参考・参照しているのは、『ビジュアル図解 聖書と名画』『キリスト教と聖書でたどる世界の名画』『聖書―Color Bible』『巨匠が描いた聖書』『新約聖書を美術で読む』『名画でたどる聖人たち』『アート・バイブル』『アート・バイブル2』『聖書物語 新約篇』『絵画で読む聖書』『中野京子と読み解く名画の謎 旧約・新約聖書篇』 『天使と悪魔の絵画史』『天使のひきだし』『悪魔のダンス』『マリアのウィンク』『図解聖書』『鑑賞のためのキリスト教事典』『西洋・日本美術史の基本』『続 西洋・日本美術史の基本』、そしてネット上のいろいろな記事です。
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