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【アート&イート #3】 「アナザーエナジー展」からの、六本木『鳥長』で焼き鳥 @森美術館(東京・六本木)

ぶらりと美術館に寄って、周辺の店でうまいもんを食べる。
楽しく豊かなことだけど、ボクにとっては、どこかリハビリに近いこと。

2018年3月のある晩に、魚介類すべて(ダシやエキスに至るまで)食べられなくなるアニサキスアレルギーに突然なった。それ以来、食べ旅の本を何冊も出したりレストランガイドを主宰するくらいは生き甲斐にしていた「食と旅」が、逆に苦痛になってしまった。
鮨や和食や汁物や麺類、そして魚全般がホント大好きだったからなぁ…。旅に至っては魚やダシを失うとかなりの快楽を失ってしまう。

食べられるものはもちろん沢山ある。野菜も肉もとても美味しい。
でも、「できなくなったこと」にどうしても目が向いてしまい、友人と食事に行くことも、地方や外国に旅に出ることも、つらすぎてほとんどしなくなってしまった。新規店も年に300軒は開拓してたのに、いまは年1,2軒という始末。(※セキュリティ設定で上記リンクに飛べない場合はこちらURLをコピーして飛んでください:http://www.satonao.com/list.html )

でも、ずっと「食と旅」から目をそらして生きていくわけにもいかない。あんなに好きだったんだから、きっとまだ人生の楽しみであるはずだし、なるはずだ。

3年かけて美術検定1級も受かったことだし(2021年)、「美術館巡り」を目的に、「レストラン巡り」を無理矢理組み合わせて、もう一度、東京や地方を旅してみよう。レストランにも行ってみよう。魚や和食以外を美味しく食べて、楽しんでみよう。

アート&イート。
そんな、超個人的「リハビリ・エッセイ」です。
(過去ログはこちらから)


「アート&イート」。
第3回は「アナザーエナジー展」。
(※1月16日まで。興味ある人は急いで!)

ところでアナザーエナジーって、何のエナジーだろう?

・・・って考えているうちに頭から離れなくなったのは、甲斐バンドの「ビューティフル・エナジー」(なぜだw)
サビに向かって盛り上がっていくところとか、なかなかいい曲。

※ 正確な題名は「ビューティフル・エネルギー」だけど、歌の中では「エナジー」って歌ってる。まだあの頃(1980年発売)は「エナジー」って言っても世間的に通じにくかったんだよ。ホントに。

※※ つか、Energyが「エネルギー」から「エナジー」に少しずつ移行しているんだったら、そろそろAllergyも「アレルギー」から「アラジー」になってってもいいなぁ。英語だとアレルギーでは伝わらないから、普段からアラジーと言い馴れておいた方が、海外で緊急のときに安全なんだよね。

ま、それはそれとして「アナザーエナジー」て何のエナジーだ?

副題にちゃんと書いてある。

Power to Continue Challenging.
挑戦しつづける力

そう、それを「アナザーエナジー」と位置づけて展示しているのである。

・・・いや、まだわからないよね。何のアナザーなのか。

サイトの解説を短く略すと、こんな感じかな。

「アナザーエナジー展」では、今なお世界各地で挑戦を続ける70代以上の女性アーティスト16名(71歳から105歳まで)に注目し、その、絵画、映像、彫刻、大規模インスタレーションにパフォーマンスなどの多彩で力強い作品約130点を通して、彼女たちを突き動かす特別な力「アナザーエナジー」とは何かを考えます。
世界が未曾有の事態にある今、これら16名のアーティストたちが確固たる自らの信念を貫き生涯をかけて歩み続けている姿は、私たちに困難を乗り越え、未来に向けて挑戦するための力を与えてくれることでしょう。


偶然ではあるけれど、前回の『グランマ・モーゼス展』に続き、今回も高齢女性アーティストの美術展だ。

71歳から105歳までの女性アーティスト16名に注目し、彼女たちを突き動かす特別な力「アナザーエナジー」とは何か、を考える企画展。

アナザー、ってことは、元々のエナジーがあるはずだよね。
それは「作品を作る(創作の)エナジー」なのだろう。

この美術展で焦点を当てられるのは、その「作品におけるエナジー」とは違うもうひとつのエナジー、すなわち、「女性で高齢という時代的に不利な立場に置かれながら、美術館やマーケットにそれほど評価されてこなかったとしても、信じる道を50年以上諦めずに歩み続けてきたエナジーとは、いったい何なのか」ということなのだ。

その辺については、企画者であり森美術館館長の片岡真実さん(ボクと同じJ-WAVE番組審議会の審議委員でもある)のインタビューを聴いていただくのが早いかもしれない。

テレビ朝日がまとめた映像なので、20分とちょっと長いけどちゃんとしている。面白いので、ぜひ見てください。

お忙しい人は、9分41秒あたりから。


逆に言うと、「作品を作るエナジー」より、「ずっと続けてきたエナジーとは何なのか」を考えながら見て欲しい、という美術展なんだな。

でも、そのことの共有があまりなされないまま、美術展はさりげなく始まってしまう。

ボクはそのことが残念だった。
もっと美術展の入口で、しつこいくらいその「意図」を知らせるべきだと思う。

観客はどうしても作品に目を奪われ、アナザーエナジーについて深く思考する間もなく見終わってしまう。

そういう意味では「複数回行けばいいじゃん?」ということかもしれないけど、そんな暇もない人は多い。うーん、それを考えるための美術展なのだから、もう少し強めにそこをアピールしてほしかったなぁ。。。


ということで、会場に入っていこう。

フィリダ・バーロウの新作《アンダーカバー 2》 彼女は77歳。解説はこちら

入ってすぐこれ(↑)なのは、もちろんインパクトはあるのだけど、この作品自体のエナジーが強すぎることもあって、「アナザーエナジー」というテーマが少し漠然化されてしまう、と、ボクは感じたなぁ。

くり返しになるけど、伝えたいテーマがはっきりした美術展の場合、観客との意識合わせがとても大事だと思っていて、特にこの美術展は「挑戦しつづける力」という目に見えにくいものに焦点を当てている。

そこの共有がもっともっと入口の部屋や展示でなされていたらよかったなぁ、と思う。

実際ボクは、この辺から「作品の力」に引きずられ、アナザーエナジーという問題意識は二の次になっていった。


いくつも刺激的な作品があったが、たとえばこの部屋(↓)に置かれている作品群。

これらが100歳を越えた女性アーティスト(←エイジズムとジェンダーの両方の意識が入った言葉ではあるが)の展示だと、あなたは思えるだろうか?

中央の作品はカルメン・ヘレラ《赤い直角》 作品解説はこちら

この部屋(↑)はカルメン・ヘレラの作品郡。
彼女、なんと今年で107歳である。

前回のグランマ・モーゼス(101歳まで描き続けた)と時代が少し違うとは言え、その瑞々しいアップデートに驚かされる。

これ(↓)もカルメン・ヘレラ。
今回とても気に入った作品のひとつ。
題名は『京都(緑)』である。
ちょっと照明の影が入っててわかりにくいが、鳥居型の作品だ。
(作品名プレートの位置がいい距離感で離れてて、作品の静謐性を壊してなくていいなと思った)

カルメン・ヘレラ《京都(緑)》 カルメン・ヘレラは禅に関心があるらしい。


これ(↓)はアンナ・ボギギアン(75歳)の作品。
富岡製糸場をモチーフにした新作。
天井から垂らした絹糸と合板の素朴な絵で少女たちの重労働と国家の姿、その製糸業がトヨタまでつながっていること、などを表現。

アンナ・ボギギアン《シルクロード》 作品解説はこちら。左はボク。自撮りw


これ(↓)も気になったなぁ。
インドのアーティスト、アルピタ・シン(84歳)の作品。

アルピタ・シン《凝視》


今回、一番気に入った作品は、ミリアム・カーンのこれ(↓)。
沈んでいっている人たちの絶望感と窒息感がすごく伝わってくる。絵の左側には引っ掻き傷みたいのもあり、それも強い印象を残す。

作品解説はこちらにあるが、この解説ページの上部に載っている男女の絵もとても印象的だったなぁ。男がとても壊れやすい存在に見えてくる逆転性。

ミリアム・カーン 《美しいブルー》


あー、これ(↓)も気に入った。
宮本和子(79歳)の作品。

宮本和子 《End》

endを描き続けただけの作品。
宮本和子の作品はもっと他にも刺激的なのがあったのだけど、なんかこれに魅入られた。


で、この美術展のラスト、大トリを飾るのがご存じ三島喜美代(89歳)である。

上記の片岡真実さんのインタビューでもあったけど、意識してここに配置したんだなぁと感じさせるインパクトがあった。

この辺の作品(↓)は有名ですよね。
使い捨てられゴミになっていく「情報」を可視化した作品。ゴミ箱から溢れている新聞紙も、奥の新聞の束もすべて陶器でできている。

実際に見たら驚くクオリティ。

奥の新聞の束は《作品 92-N》 作品解説はこちら。左の方々は一般のお客さん。
これも陶器でひとつひとつ作っているんだから信じられない・・・。


アーティストの紹介文の横にそのインタビュー映像がモニター展示されているのだけど、その三島喜美代さんのがとてもパワフルで良かったので、ここにもリンクしときますね。


さて、最後の三島喜美代さんの展示をみて、インタビュー映像を見てから、ようやく気がついた。

なんと、「アナザーエナジー」の答えが上にリンクしたインタビュー映像それぞれに示されているのだった、と。

そういえば、全アーティストがそれぞれにインタビューされてたわ・・・。

急いで最初の方に戻って、気になったアーティストの映像を見た。

映像ではいくつかの質問を各アーティストに投げかけていた。
それぞれに違うのだけど、だいたい共通している質問はこれら。

  • 挑戦し続けることができた理由はなんですか?

  • アートと社会の関係性とは?

  • あなたにとって年齢は何を意味しますか?

  • 若い世代のアーティストへのアドバイスはありますか?

サイトでも見つけたので、いま家でまたゆっくり見直しているところ。気になる方は見てみてください。ここにあります。

このインタビュー映像を見て、そのうえで「アナザーエナジー」を意識しながら作品をゆっくり見たら、またきっと違ったなぁ・・・。


ということで、わりとたっぷり時間をかけて「アナザーエナジー展」を見たんだけど、帰りにミュージアムショップに寄ったら、その横の小部屋で増田セバスチャンの個展をやっていた。

これはラッキー!(すいません、1月10日までなので、この投稿の時点では終了しています)

なんというか、ボクを異化させてくれるものとして、増田セバスチャンの作品とか意外と好きなんだよなぁ。
この小さな個展のページがあったので、リンクしておきますね。



さて、アートの後は「イート」である。

今回は六本木にある森美術館だったので、イートの店としては選択肢は多い(アニサキスアレルギーなのでものすごく狭まるが、それでもまぁいろいろ選べる)。

で、迷った挙げ句、「長く続いている店だから」という理由で『鳥長』を選んだ。

そう、これも「アナザーエナジー」だからね。
続ける力、だ。

1964年開店の渋い渋い店。

立地はすごい。
六本木のミッドタウン正面だ。

そんな立地にありながら、地下に降りて店に入ると、その静けさと昭和な雰囲気にちょっと驚くだろう。

そのうえ、照明が全体に暗い。
ボクはそれが落ち着くんだなぁ。外の煌びやかさから異世界に迷い込んだようなその暗さに、とても落ち着ける。


アレルギー的にも問題なく、いい意味で放っておいてくれる店なので、静かに熱燗飲みながら、ゆっくり図録を読み直した。

図録を読みながら一杯

ここの焼き鳥は、とってもベーシックというか、安心できるいいお味。ひとりでも落ち着くし、良い店だ。カウンターしかないので宴会客もいない。

昭和から平成になり、令和になり。
六本木のこの立地なら、もっともっと「若者ウケ」「業界人ウケ」するようなバブリーな焼き鳥店だって可能だったと思うのだけど、でも、1964年からずっとこの「昭和感」を残し続けているエナジー。
それはなんなんだろうなぁ。。。

アナザーエナジーかぁ。

ボクは今年61歳になるわけだけど、そしてそれなりに突っ走ってきたわけだけど、ここからの数十年、何が人生を引っ張るエナジーになり得るのか、自分に問いかけるいい機会になったなと思う。

ボクをかき立てるアナザーエナジー・・・それは何なのか。


そんなことを考えつつ、ほろ酔いになって地下鉄で帰ったですね。
「アート&イート」第3回、これで終わります。

森美術館の「アナザーエナジー展」はなんと今週末、1月16日までだ。
行けるヒトは、是非。

ええと、第4回はまだわからないけど、三菱一号館の「印象派・光の系譜展か、府中市美術館の「池内晶子展のどちらかに行こうと思ってます。

それでは、また。

※ 第4回は、結局、『奇想のモード』展に行きました。
こちら(↓)からどうぞ。


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古めの喫茶店(ただし禁煙)で文章を書くのが好きです。いただいたサポートは美味しいコーヒー代に使わせていただき、ゆっくりと文章を練りたいと思います。ありがとうございます。