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闘アレ生活(15) 〜京都のホテルで打ちのめされる

57歳のある日、いままでアレルギーなどひとつもなかったボクが、突然アニサキス・アレルギーになった。そして、ほとんどすべての魚介類が食べられなくなった。いまは魚系のダシやエキスまで避けている。
そういう生活とはいったいどういう感じなのか、ちょっとだけリアルに知ってもらうために、ちょぼちょぼ書いてくシリーズです。
暗くなる話も多いけど、リアルに知ってもらうのが目的なので、申し訳ありませんがご理解ください。
「闘アレ生活」の過去ログや他記事はこちら


食紀行本とか何冊も書いて、地方の美味しさをみんなに伝えようとしてきたくせに、いまや旅や出張を避けて生きている。

なぜって日本はどこもかしこもサカナが美味しそすぎるから。
街を歩くだけでいちいち落ちこんで、ウツの崖を転げ落ちそうになる。

そのうえ、地方の料理店はどんな料理にでもダシを使いすぎる

食べられるものがとても少ないのだ。哀しいことに。つらいことに。

しかも、旅館は夜も朝も魚とダシだらけだし、ホテルだって朝食ビュッフェでたいてい「つらい目」に遭う。

だから、宿泊とかしたくない
さっさと東京の家に逃げ帰って、ふとんをかぶって寝てしまいたい。

・・・地方での宿泊、大好きだったんだけどな。

夜中に街を彷徨って、おばあちゃんがひとりでやっているようなカウンター居酒屋を探して、美味しい手作りの肴とともに、ぼんやり熱燗とか飲むの、大好きだった。

でも、もういろいろ無理だ。

楽しいことなんか何もない。


昨晩も宿泊はできれば避けたかった。

でも、京都で夜に講演があり、主催者の方がとってくださったホテルに泊まることになった。(ちなみに昨晩は非常に楽しい夜でした。ありがとうございました)


京都は鬼門だ。

鬼のようなダシ文化だからである。

夜、街中を歩くのすらつらい。
割烹とかの美味しい記憶がたくさん蘇ってきて身悶えする。

そういえば、なんか記憶を消してくれる「記憶屋」ってのがいるんだって?(『記憶屋」っていう映画の話だけどな)

頼む。
オレの美味しい記憶を全消去してくれ。 


え?
京都は肉もおいしいから、魚介がダメでもなんとかならないって?

そうね。京都は肉もうまい。
でもね、ほんと、肉料理でもダシを隠し味にするのが京都なのだ。

どこにダシを使っているか、油断ができない。
それが京都。


今回もそうだった。
予想を超えたよ、京都。



とっていただいたホテルは格式高いホテルだった。

ボクは、58歳のくせに「朝、お腹がすいて目が覚める」というくらい食欲が衰えていない。

今朝も早朝にお腹がすいて目が覚めてしまい、朝食会場が開くのを待って、いそいそと向かった。

朝食ビュッフェは、わりと傷つく。
たくさん美味しそうなものが並んでいるくせに、食べられるものが少ないことも多く、朝からどんより落ちこんだりする。

でも、格式高い高級ホテルだ。
しかも国際観光都市である京都だ。
海外からヴィーガンやベジタリアンの人も多く訪れる。
普通のホテルよりは、食べられるものが多いのではないか、と期待した。


和食会場と洋食会場。
アレルギーになる前だったら、100%和食会場を選ぶくらい和食好きなのだが、仕方ないから洋食会場へ。

高級ホテルなので、案内からなにからしっかりしている。


一応、ビュッフェにどんな料理が置いてあるか、最初に見回った。

洋食ビュッフェではあるが、和食のお惣菜やご飯や味噌汁なんかも置いてある。どれも美味しそうだ。

でも和食系はダシを使っているリスクが高いしな・・・。

まぁオムレツとか、ソーセージとか、パスタとかいろいろあるし、サラダバーもある。

なんとかなるか。


とはいえ、一応確認しよう、と、ちょうど通りかかったサービスの方に訊いてみた。

「お忙しいところすいません、サカナ系のアレルギーがありまして、わりと厳密に避けているんです。魚介類そのものだけでなく、ダシもエキスも避けています。」

「・・・焼いたものや煮たものでもダメでしょうか?」

「はい、カマボコとかの練り物もダメです」

「ダシやエキスもですか」

「はい。すいませんがそうなんです。
 で、このビュッフェの中で、ボクが食べられるものはどれでしょう。ご面倒ですが、お教えいただけませんか」

「は、はい。大切なことですので、厨房や責任者に確認してまいります。少々お待ちいただけますか?」

「はい・・・あ、サラダバーは大丈夫ですよね? ドレッシング使わなければ大丈夫ですよね? サラダ、先にとって待ってます」

「あ、左様でございますね。ドレッシングはお待ちください。あ、それと、トングを消毒してまいります! 少しお待ちください!」

と、走って行ってトングを消毒してくれた。

コンタミネーションを避けてくれたのだな。
他のお客さんがサラダのトングで魚に触っちゃうこともあり得るからね。
うん、さすがにとても丁寧な対応だ。

目の前にオムレツ・スタンドがある。
若いシェフが目の前でオムレツを作ってくれるアレである。

「まぁオムレツも大丈夫だろう」とは思ったけど、とりあえずサービスの人が戻ってくるのを待った。

待って良かった。


ここで一応、このビュッフェのメニューを書いてみる。
あとでメニュー表(アレルギー表示)を「念のため差し上げます」といただいたので、それを書き写してみる。

なかなか充実していて美味しそうなビュッフェである。

コール(冷たい料理)

カラフルお野菜のピクルス
キャロットラペ(オレンジ風味)
京生麩の田楽2種(柚味噌仕立て)
ポークと豆腐のサラダ仕立て
エジプト豆のマリネ
万願寺唐辛子と茄子の焼き浸し
明太子の“ゼンパスタ”
シーフードパスタのインサラータ
おぼろ豆腐
もりの漬物(6種)
和総菜
出汁巻き玉子
サラダ各種(7種)
コーンフレーク
グラノーラ
フレッシュフルーツ(3種)
コンポート(2種)

ホット(温かい料理)

オムレツ(スタンド)
クランペット(イギリス風パンケーキ)
鶏肉の西京焼き
ボンレスハム

エッグスラット
ポトフ 〜洋風おでん マスタード添え
彩り野菜のバーニャカウダ 6種のソース
水菜とじゃこの梅肉パスタ
ハッシュポテト
ベーコン
ソーセージ
クラムチャウダー
そば実香るお粥さん

ライス
味噌汁
パン類(10種)
デザート類(5種)


さて、みなさん、これだけあって、ボクが食べられるものはいくつあると思いますか?

下にスクロールする前に少し考えてみてください。

鯖とか明太子とかじゃことか味噌汁とかがダメなのはわかる。
出汁巻き玉子や和総菜もあぶないだろうね。

で、いったいいくつあると思う??



話を戻そう。

かなり待たされて、ようやく戻ってきてくれた。
別のサービスの女性の方だった。

「長いことお待たせして申し訳ありません。
 まず、冷たいお料理のチェックが済みまして、以上のものがお客様が食べられるものになります。」


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・・・・・ぇ? 


そ、それだけ?


というか、ドレッシング全滅?(全部ダメとのこと)、醤油全滅?(全部ダシ醤油だとのこと)

いや、豆腐そのままって何もつけずに食べるの?

「お塩をお持ちいたします」

「は、はあ・・・ありがとう」


・・・まぁ仕方ない。
きっとエキスや添加物の可能性まで考えての排除なのだろう。
とりあえずオリーブオイルももらい、それでサラダを食べながら、温かい料理の結果を待つ。


これがなかなか結果が出てこない。

というか、ヴィーガンとかベジタリアンの客とかに馴れてないのかな。京都のど真ん中の高級ホテルなんだけどな。

「長らくお待たせして申し訳ありません。
 温かいお料理のチェックが終わりました。
 お食べいただけるもの、さきほどのメモの裏に書かせていただきますね」


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ぇえ!

ぇええええ!


そ、それだけすか・・・・・・そ、そうすか・・・・・・



パンケーキとハムとバーニャカウダ?

というか、バーニャカウダのソースがダメだったら、それ、単なる野菜じゃん。

「はい・・・申し訳ありません」

いやいやいや、オムレツは?
オムレツ・スタンド! 目の前で作ってくれるのなら大丈夫でしょ?

「それが、卵をすべてダシで溶いてありまして」

「・・・・(よ、余計なことを)
 ソ、ソーセージやベーコンは?」

「申し訳ありません」

「・・・マジ?」

「あ、ごはんやパン、それとシリアルはお食べいただけます!」

「・・・・・・」


いやw
さすがにオーバーに書いていると思うでしょ。
そんなとこまでダシやエキスなんか使うはずないって思うよね。

でも、証拠代わりに、あとでもらったメニュー表の一部をお見せしよう。

ほとんどのメニューに厨房によるバツがついている。
(まぁ添加物などを含めて確認できないから念のためNGにしているものも含まれているとは思うが)

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いや〜マジか。

サラダとニンジンと豆腐とボンレスハムとフルーツ。

しかも味つけなし。


「ま、高級ホテルだし大丈夫だろ」という期待があって油断していた分、ぐっさり深く心を切られた。

こういうの、あなたが思うよりずっと傷つくのだ。


あぁ・・・なんなんだオレの人生。




というか、これ、確認せずに「まぁ大丈夫だろ」ってオムレツやベーコンやソーセージとか食べてたら危なかったじゃん!


いやー京都のダシ文化おそるべし、とか言っている場合ではなくて、これ、危なすぎるよ・・・

つか、ヴィーガンの人とかベジタリアンとか来ないの??
こんなに魚介由来のお料理ばかり並べて本当に大丈夫??




・・・まぁ、あれだ。

つらいことになるかもしれない、って知りながら朝食ビュッフェに行ったオレが悪い。

コーヒーとクロワッサンとかで済ませようとしないオレが悪い。

朝から腹が減るオレが悪い。



もう旅なんてしたくない。




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さとなお(佐藤尚之)
古めの喫茶店(ただし禁煙)で文章を書くのが好きです。いただいたサポートは美味しいコーヒー代に使わせていただき、ゆっくりと文章を練りたいと思います。ありがとうございます。