ブロッサム・ディアリー『ワンス・アポン・ア・サマータイム』
人生に欠かせないオールタイムベスト音楽をいろいろと紹介していきたいと思います。ジャズ、クラシック、ロック、ポップス、歌謡曲、フォーク、J-Popなど、脈絡なくいろいろと。
ブロッサム・ディアリーとの出会いは新入社員の頃だから、今から35年くらい前。
たまたま買ったジャズの女性ボーカルのオムニバス・アルバムのトップに、彼女の「二人でお茶を(Tea For Two)」が入ってた。
サラ・ヴォーンとかエラ・フィッツジェラルドとかカーメン・マクレエとかアニタ・オデイとかの超絶に歌が上手い大御所たちが揃う中、アルバムのトップバッターにこのなんとも特徴的なはかなげな声・・・
バース(歌の本編前の、歌詞がついた導入部分)を歌うこの声の第一印象は「なんか子どもみたいでヘタクソだなぁ」だった。
いや、もちろん、いま聴くと最高っすよ?
(だからここで取り上げている)
でも、新入社員のころのボクは「なんでこんな声量ない頼りない声の人がトップバッターなのだろう」と思ったわけですね。
でも、だんだん慣れていく。
慣れるに従って、声量すごくて歌も上手い大御所たちとまた違う魅力を感じていく。
聴き慣れると味が出てくる声ってありますよね。
彼女の場合はまさにそれ。
例えばユーミンとハイファイセット。
「卒業写真」とか「中央フリーウェイ」とか「冷たい雨」とか、同じ歌を歌っていて、もちろん、ハイファイセットの方が、もう全然うまい。上手。ほれぼれする。
だけど、結局ユーミンのあのちょっと珍妙というか、特徴的な声の方が聴き飽きないし、慣れれば慣れるほどどんどん味が出て来る。
逆にハイファイセットの歌声って、上手すぎてちょっと飽きる。
それと似てるかな。
サラ・ヴォーンとかエラ・フィッツジェラルドって異様に歌うまいんだけど、なんか聴き続けるに従ってその上手さにちょっと飽きてくる。
ブロッサム・ディアリーにはそれがない。
ジャズ・ボーカリストっぽくないその頼りなさげでか細い声が、聴く側を飽きさせない気がする。
・・・失礼なことにブロッサム・ディアリーをヘタクソ扱いしてるけどw、実際にいくつかCDを買って聴いてみると、意外や意外、なかなかの技巧派だ。
自分の声質をちゃんと自覚して、上手にそれを駆使している。
フレンチ・ポップスみたいな趣で、かるーくスタンダードを歌っていく。
最初は「ん?」って思ったボクも、どんどん好きになっていき、なんか夜の浅い時間に「軽く女性ジャズボーカルでも聴こうかな」ってときは彼女を選ぶことが多くなった。
その中でもこのアルバムは30代40代にとてもよく聴いたなぁ。
選曲がとても良いんだよね、このアルバム。
マイルスのprestige時代の名録音と聴き比べてみたくなってしまう「飾りのついた四輪馬車」「イフ・アイ・ワー・ア・ベル」。
リー・ワイリーとはまた違う味の「マンハッタン」。
実にかわいらしい「ティーチ・ミー・トゥナイト」。
しっとり聴かせる表題曲「ワンス・アポン・ア・サマータイム」。
そして、ボクの初体験曲「二人でお茶を」も1曲目に入っていて、なんだかとっても楽しめるアルバムなのです。
ブロッサム・ディアリー初心者の方は、このアルバムから入るのがオススメだ。
というか、この人、その声からなんとなく想像しにくいけど、ピアノの弾き語りなんだよね。
元々ピアニストで、クラブでカクテル・ピアニストとして歌もちょっとやっていたところをスカウトされてデビューしてる。
たまたまYouTubeで1965年の映像を見つけたんだけど(このころで41歳)、さすがなピアノ。いい感じ。
そして、(声質のせいか、若いイメージしかなかったけど)、かなりお年を召したあとでも、この声でいい感じで歌ってる。
この動画(↑)は1999年のNYCでの収録。
彼女は75歳。この10年後、老衰のためNYCのグリニッジ・ヴィレッジで亡くなる。
あぁ、1999年収録かぁ・・・。
あのころすごくNYCに行ってたなぁ・・・しかも行ったら毎晩のようにジャズ・クラブを回ってた。
なんでブロッサム・ディアリーのライブに行けなかったのだろう。
毎晩、いろんなプログラムをチェックして聴きに行っていたのに、なぜか気がつかなかったな・・・。
観たかったなぁ、会いたかったなぁ、生のブロッサム・ディアリー。
Once Upon A Summertime
Blossom Dearie
1958年録音/Verve
Blossom Dearie (vo, p)
Mundell Lowe (g)
Ray Brown (b)
Ed Thigpen (ds)
※
それにしても「Blossom Dearie」って本名なんだって。
日本名ならさしずめ「可愛 花」さんでしょうかw
※※
この特徴的な声のおかげで、「ビ・バップのベティ・ブープ」(←アニメのベティちゃんですね)と評されたらしいです。
Wikipediaによると、作家のドン・ウィンズロウは、彼女をモデルに、スパイとして活躍する美しいジャズ歌手のヒロインを生み出しているそうな。
※※※
メガネ好きなボクとしては、このアルバムの裏面のこの写真とか、たまりませんw