ある友人から亡くなる前に頼まれたこと
以前、ある友人の「死」に立ち会ったことがある。
突然亡くなったわけではなく、一年以上の闘病期間があった。
その間も、病室でよく会った。
彼とはいろんな話をした。
余命がわかっている病気でもあったので、「死」のこととかも存分に話した。
こんなこととかね。
先月、ある違う友人からこんなことを訊かれた。
「親が亡くなりそうなんです。たしか以前、さとなおさん、ご友人を亡くされて、そのときわりとその方と話されていましたよね。そういうとき気をつけることはなんですか? 聞いておかないといけないこととか、ありましたか?」
たぶん情緒的なことを訊かれているんだろう、と思いつつ、この質問を聞いてすぐ、なぜか鮮やかに思い出したのは、亡くなった友人とのこんな会話だった。
さとなおくんさ。
もし僕がこのまま退院できずに死んだら、ちょっと「して欲しいこと」があるんだ。
・・・なんだろう?
真面目な顔だ。重要な話っぽい。
ちょっと身構える。
あのさ、パスワードを教えておくからさ、パソコンの中にあるエロ写真コレクションを消去してくれないかな?
まったく笑ってない。
だからこっちも笑えない。
マジだ。マジなんだな。
ボクも笑顔ひとつ見せず、応える。
わかりました。
エロ写真コレクションがあるディレクトリーも教えといてくれますか。
うん、メモしてくれる?
・・・はい、お待たせしました。
○○の中に△△というフォルダが作ってあって、□□という書類がずぅっと続く中に×××というさりげないフォルダがある。それ、中身を見ずに消してくれる?
・・・考えましたね。
ええと、×××ですね。はい、了解です。
絶対、確実、100%消しますし、中身も絶対見ません。
ご家族に気がつかれないように処理します。
まかせてください。
この間、ふたりとも笑顔なし。
人格をかけた真剣なやりとりw
いや、大事なことなのだ。
彼は「これでひとつ憂いがなくなった」と、ふっとため息をついた。
そしてボクは光栄に思っていた。
これを任されるって、一番光栄なことだよね?
というか、みなさん。
この話の教訓はエロ写真コレクションのことではもちろんない。
あなたもいつ死ぬかわからないんだから、パソコン、スマホなどのパスワードを、絶対に信頼できる友人に教えておいた方がいいよ。
パソコンやスマホを開けられないと、残された人たちが困ることが山ほどある。でも、家族に開けられるのはちょっと・・・という人もいるよね?
もし、消したいフォルダがあるなら、それも頼んでおいた方がいい。
消して欲しい履歴があるなら、それも頼んでおいた方がいい。
(いまどきデータは復元されちゃうけど、でもご家族が復元を求めてくる確率はずっと低いだろう)
デジタルデータだけでなく、甘酸っぱい思い出が詰まったダンボール箱なんかの処理も、友人に「見ないでね」と釘を刺して頼んでおいた方がいい。
そういうときは、家族よりも「誠実に対応してくれそうな友人(親友とは限らない)」のほうが実は頼りになったりするのである。
「・・・わかりました。パスワードですね。確かに」
その友人は(期待した答えとは違ったのだとは思うけど)、納得して帰って行った。
あとで聞いたけど、このことはそれなりに役に立ったようだ。
ちなみに、その闘病した友人は、その後、一時帰宅が許されたときがあり、自分できちんと消したそうである。
ちなみのちなみに、このことはご家族とも笑い話になっている。別に秘密暴露ではないので、念のため。
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