リー・ワイリー「ナイト・イン・マンハッタン」
人生に欠かせないオールタイムベストな音楽アルバムをいろいろと紹介していきたいと思います。ジャズ、クラシック、ロック、ポップス、歌謡曲、フォーク、J-Popなど、脈絡なくいろいろと。
最初から言い切りますが、これはジャズ・ボーカルの名盤です。
モノラルだし、ノイズもかなり目立つ音盤だけど、本当に名盤です。
なぜ名盤か。
このアルバムは音楽の持つ素晴らしい魔力を体験させてくれるからです。
それはタイムスリップという魔力。
このCDの1曲目、「マンハッタン」を聴くとただちに50年代のニューヨークにタイムスリップ出来ます。しかも確実に。こんな即効魔力、音楽以外は持っていません。素晴らしい時間旅行。
もちろん50年代のニューヨークなんてボクは知らないのだけど、皮膚感でわかるんですね、この曲を聴いていると。
たとえばクラウス指揮のウィンナーワルツを聴くと、当時の舞踏会が見てもいないのに目の前に蘇るようなものです。
クラウス以外は駄目。クラウス以外では蘇らない。
それと同じようにリー・ワイリーのこの名盤以外は50年代のニューヨークに連れて行ってはくれません(少なくともボクにとっては)。
……余談ですが、ボクの知り合いにこのアルバムの1曲目「マンハッタン」の前奏をピアノで弾ける女の子がいました。もうそれだけで惚れちゃいました(厳密に言うともちろんそれだけじゃないけれど)。これも「音楽の魔力」なのでしょうか……
ボーカルのリー・ワイリーは他にもたくさんアルバムを残していますが、これが一番だと思います。
彼女の都会的センスが一番醸し出されているアルバムなんですよね。
かなりの美人ですが(しかも洗練の極みと呼ばれた)、このジャケットには横顔しか写っていません。当時のポートレート風ジャケットの風潮からしたらかなり新しいデザインなのだと思います。
このジャケットも当時のニューヨークを感じさせてくれる要因の一つです。
彼女の魅力は、しかし、その「はすっぱさ」にあります。
洗練の極みながらも「はすっぱ」。
そんな悪女的雰囲気が逆に当時のニューヨーク社交界を感じさせるのでしょう。夜ごと蝶のように遊び歩いていそうな大人の美女……。
ただ、当時、ジャズボーカリストといったらほとんどが黒人だったので、白人の彼女としてはそう演出しないと目立たなかった、という舞台裏もあったかもしれません。
というか、スコット・フィッツジェラルドとゼルダ夫妻が夜ごと遊びまくったジャズ・エイジのころのニューヨーク、つまり1920年代のイノセントなニューヨークの匂いも、このアルバムから少しします。
ジャズ・エイジのアメリカ小説が好きなボクは、だから特にこのアルバムに惹かれるのかもしれません。
このCDを聴くときはちょっとお酒が欲しくなります。
シャンパンの方が合うという方もいらっしゃるでしょうが、ボクはバーボンかな。
香りが豊かで柔らかい‘Maker's Mark’あたりを用意して。
さて今宵、1950年代のニューヨークへ。
Night in Manhattan
Lee Wiley
1950年録音/CBSソニー
featuring :
Boggy Hackett (tp)
Stan Freeman (p)
Joe Bushkin (p.cleste)
Cy Walter (p)