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【2025.1.16】 直観脳-脳科学がつきとめた「ひらめき」「判断力」の強化法

著者

岩立康男

1957年生まれ。千葉大学脳神経外科学元教授、現在は東千葉メディカルセンター・センター長。千葉大学医学部卒業後、脳神経外科の臨床と研究を行う。主な著書に『忘れる脳力』(朝日新聞出版)がある。

「直観」というと、ともすると論理と対立するもので、根拠も説得力もないとみられがち。しかし、最新の研究によれば、脳の高度な思考から生まれるのが、直観だという。

直観とは

新しい事業に着手する時には、常にリスクを伴う。様々なデータを集めても、それらは全て過去のもの。未来がどうなるかは、誰にもわからない。

それでは、その事業を「やる」のか「やらない」のか、どのようにして決めているのか? 

その時、脳内では「直観」が働いている。

ここで言う「直観」とは自分の経験知や知識によってもたらされるものを指し、感覚によって瞬時に判断する場合に使う「直感」とは違うもの。

脳は、言葉にできない新旧様々な記憶と新たに得られた情報(データ)をつなぎ合わせて、無意識の中で思考して判断している。


直観はどこから生まれているのか

記憶の中には「言葉として蓄える」記憶と「言葉にしにくい」記憶がある。一般的に論理的といわれる決定は、前者をもとになされたもの。

一方で、色々な世の中の出来事の持つ意味合いを理解して脳の中に蓄えていくことは、言葉として取り出しにくい記憶である。そして、記憶の量として圧倒的に多いのが、この「言葉にしにくい記憶」である。

こういった記憶の多くは無意識の中に蓄えられ、年を重ねるごとに増えていく。これが、「年の功」「経験値」といわれるもの。

つまり、直観とは無意識の中に蓄えられた記憶・経験値から、無意識の中で思考して生まれてくるものだ。記憶は脳の広い範囲に収められているので、全ての経験値を活用するために、脳を広く使うことが、優れた直観に結びつく

集中しない

どうすれば脳を広く使えるのか? 
そのためには、「集中しないこと」が重要になる。

脳の2大システム「集中系」と「分散系」

脳には、「集中系」と「分散系」という2大システムがある。色々な課題をこなすうえで、意識を集中させている時に活性化するのが「集中系」の脳領域であり、前頭葉や頭頂葉の外側大脳皮質が中心となって活性化している。

一方、「分散系」は、大脳の広い領域を均等に活性化するためのシステムで、作業に集中している時には必ず抑制されているため、「脳を広く使おうとする時には、何かの作業に集中していてはいけない」。

分散系の重要な働き

分散系は、ぼーっと景色を眺めている時や、散歩、入浴中、睡眠などにおいて活性化する。

では、その時、分散系は何をしているのか?

分散系の重要な働きは、「記憶の統合と整理」

分散系は、今自分が経験していることを、過去に築き上げた自分の記憶・歴史の中に矛盾なく組み込み、記憶を編集する上で重要な役割を果たす。

分散系が働いている時は、脳の広い部位が活性化することによって、思わぬ記憶同士が結びついて、新たなものの見方や新たな発想が生まれてくる可能性が高くなる。これこそが「考える」ということであり、その過程は無意識の中で行われ、「直観」として姿を現すことになる。

論理的思考を超える

「考えて、理解する」ことの重要性

直観的思考では複雑な物事は複雑なまま理解し、記憶のネットワークにつなげることで、新しい解釈、新しい思考を生み出していく。

論理的思考だけに頼って問いや主張を常に言語化して単純化していると、自分の経験知のネットワークにすんなりと組み込まれにくくなる。

言語化することなく複雑なものを複雑なまま捉え、それをもとに考えることによって、はじめて物事や課題を本質的に理解することにつながり、ネットワークに組み込まれやすくなる

この「考えて、理解する」ことこそが重要。

理解したことであれば脳内にしっかりと記憶され、その後で思考する時に多くの情報を引き付ける。深く考える時の基準点となってくれる。

直観力を磨く

「なぜ」の問いを立てる

脳に蓄えられる記憶の量は有限なので、何を記憶に残しておくか判断しなければならない。

情報の枝葉を切り落とし、その本質を常に見るように努力すること。

何が本質か? 

という問いに対する正解はもちろん簡単にはわからないが、毎日経験する情報から、常に「なぜ?」という問いかけをして考えることが重要なのである。

その際には、具体的なことでも良いが、抽象化した問いの方が思考を深める上で有効な場合が多い。考えて、考えて、その結果腑に落ちたことは本質に近く、記憶のネットワークに残りやすい。

問いを立てることの重要性はそこにある。思考の前提や課題に対して常に疑いの目を向けて問いを発していくことが、優れた直観につながる。


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