電話のベル

籠に鳥しずまり床に蟻這いてベル鳴り出ずる前の電話機 藤井マサミ

『鳥よりも』

 昔、テレビに、ちょっとだけ時間を戻せるボタンがある製品があった。スポーツ番組などで、ゴールが決まった時、そのボタンを押すと、ちょっと前のシーンからもう一度視聴できたようだ。
 電話のベルが鳴って、ハッとして、その直後の風景が記憶に焼き付くというのなら、理にかなう。けれども、ベルが鳴り出す前の光景が描かれているのが面白い。まるで、ベルが鳴ることを知っていたかのように。不思議で魅力的だ。
 記憶にも、ちょっとだけ時間を戻せる機能があるのかもしれない。