ふるさと

ふるさとはふたつもいらず自転車も庭もルーペも親も時計も 土井礼一郎

『義弟全史』

 「ふたつもいらず」と言われているのに、なぜか、山の向こうに左右反転してコピーされたふるさとが、頭のなかに浮かんでしまう。いやいや、ふるさとは一つだからこそ、ふるさとなのだろう。あたたかい、懐かしいだけではない。逃れがたさや、かなしみも、そこにはある。
 時計が一つでいいのは、時間は一つだからだろう。時差はあっても、1秒、1分、1時間は、世界共通だ。いや、そんなことはない。チャイムが鳴るぞと思って、時計を見ると、時計の針が永遠のように動かなくなる時がある。
 自転車については、二台あると、視界が変わって面白いかもしれない。