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年金50万円の壁。働いて年金全額停止なら繰下げ増額もなし

社会保障審議会年金部会で「年金制度改正の検討事項」がまとまり、働くシニアの年金を減額する「在職老齢年金」50万円の壁の見直しについて3つの見直し案が示されました。
その内容については、こちらの記事で紹介し、3つの案の中では案1「在職老齢年金制度の廃止」に賛成であることとその理由について書きました。
今回は、この制度の廃止に賛成する理由について、少し補足したいと思います。


働いて年金停止された部分は繰り下げても増額されない

「働いたことによって停止された年金は繰下げ受給の増額対象になりません」ということを知っている人はどれくらいいるのでしょうか。
う~ん、この書き方でうまく伝わっているかどうか心もとないです。
年金審議会年金部会の資料の図で説明してみたいと思います。

出所:第21回社会保障審議会年金部会 11月25日 資料2より

この図もかなりわかりにくいです。なのでAさんの例(筆者創作)として説明したいと思います。

Aさんは65歳で繰下げ受給を選択して、70歳で退職。繰下げしなければ、在職によって老齢厚生年金が4割(図から想定)減額されるはずでした。

在職して年金停止された人は繰下げによる増額も減る

65歳になるけど、まだ働くから老齢厚生年金が一部支給停止になりそう。
(繰下受給にすれば年金増額になるよね?)←Aさんの心の声、以下同。
 ↓
老齢厚生年金を繰下げ受給することにして請求しない。
 65歳からの老齢厚生年金の受給額は0円。
Aさんがもし繰下げを選択しないで在職老齢年金を受ければ年金は4割停止されて6割受給されますが、繰下げを選択したので0円です。
 ↓
70歳で退職する。
(退職したから老齢厚生年金の請求しよう!)
 ↓
70歳で老齢厚生年金を繰下げ請求する。
(繰下げしたから年金増えてるぞ。楽しみ〜!)
5年間繰り下げたので、
繰下げ増額率=0.7%✖️60月=42%
増額年金額=在職老齢年金(元の年金額の6割)✖️42%=元の年金額の25.2%(あ‥繰下げ増額率は42%だけど、年金は42%増えないんだ‥)

在職老齢年金で全額支給停止になる人は繰下げ制度のメリットなし

老齢厚生年金年金の受給開始を遅らせる繰下げ受給を選択すると、繰り下げた月数に応じて1ヵ月当たり0.7%年金額を増額することができます。
この繰下げ制度を在職老齢年金で年金が減額される人が利用すると、元の年金額ではなく、在職によって減額された(であろう)年金額をもとに繰下げ増額年金が計算されます。
Aさんの場合は、繰下げによって42%年金額を増やすことができますが、Aさんは在職老齢年金制度によって年金額が4割停止されている前提なので、繰下げによる増額も元の年金額の6割✖️42%になります。しかも、繰り下げている65歳〜70歳になるまでの5年間は老齢厚生年金額はずっと0円です。
もし仮にAさんが在職老齢年金によって年金が全額支給停止され0円だったとしたら繰下げ増額も0円になる計算です。
その場合、Aさんにとって繰下げ制度の恩恵もO円ということになります。

制度が複雑すぎてベストな選択肢がわからない

Aさんが繰下げ制度を検討する際には、65歳前に自分の年金額が在職によってどれくらい減額されるのかを知っておく必要があるでしょう。
ねんきんネットや日本年金機構から提供されているさまざまな広報ツールである程度の情報を得られます。
しかし、この在職老齢年金と繰下げ制度の自分の年金への影響を理解し、ベストな選択肢を見極めるのは容易なことではありません。
制度の複雑さに個人が選択の検討をあきらめてしまうのでは、選択肢を増やした意味がありません。
そもそも在職老齢年金制度で年金が全額停止になってしまう人には繰下げ制度の選択肢そのものがないのです。

個人にとって選択が容易なシンプルな制度であってほしい

老齢厚生年金の額は、その人が現役時代に支払った厚生年金保険料の額に比例した額になります。
在職老齢年金制度は、その老齢厚生年金額と給与額(総報酬月額相当額)に応じて年金額が支給停止される仕組みです。
支払った保険料に応じて年金額が支払われると期待していたのに、支払った保険料に応じた年金額(と給与)に応じて年金額が減らされる、というルールです。
年金制度の原則は「保険料を拠出した人に対して見合う給付を行うこと」です。
在職老齢年金はその原則の外に設けられた例外的な仕組みといえるでしょう。
年金制度内で行われる所得制限のように機能しています。
この事情も年金制度を複雑なものにしています。
制度が複雑すぎると、選択肢を検討すること自体が難しくなります。

在職老齢年金が廃止されれば、繰下げ受給の選択肢はいまよりもシンプルになり、制度への理解が進んで個人の選択も容易になるでしょう。
そうした意味でも、在職老齢年金は廃止されることが望ましいと思います。



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