
年金50万円の壁。年金改正3つの見直し案
12月25日、年金改正について審議している社会保障審議会年金部会から「年金制度改正の検討事項」が示され、次期改正の大枠が明らかになりました。働くシニアの年金支給額を調整する「在職老齢年金」の改正はどうなるのでしょうか。
在職老齢年金、3つの見直し案
「年金制度改正の検討事項」では「在職老齢年金制度の見直しの方向性」として次の3つの見直し案が示されました。
【案1】在職老齢年金制度の撤廃
【案2】支給停止の基準額を71万円に引上げ
【案3】支給停止の基準額を62万円に引上げ
いまの制度では、厚生年金を受けられる人が厚生年金に加入して働いている場合、老齢厚生年金額と給与の合計額が50万円を超えると超えた額の1/2の額が停止されます(老齢基礎年金は支給停止の対象外なので停止されず、全額支給されます)。
月額50万円というと一見大きな額に見えますが、ここで停止額の計算に用いる「給与」には賞与も含まれます。
具体的には、その月の給与(標準報酬月額)とその月以前1年間の賞与(標準賞与額)を12で割った額の合計額で、総報酬月額相当額といわれます。
基準額が50万円の場合の在職老齢年金
支給停止の基準額が50万円の場合、在職中の年金額を計算すると下表のようになります。
老齢厚生年金の月額と給与の組み合わせによって、年金が停止されるかどうかが決まります。例えば年金月額が12万円の人の場合、給与が37万円であれば年金停止はなしですが、給与が40万円になると年金が1万円停止されて11万円になります。
表の肌色部分は年金が働いていても年金が停止されないパターン、白色部分は年金が一部停止されるパターンです。
この現在のルールで年金が停止されている人は、約50万人(在職受給者の約16%)います。

基準額が62万円の場合の在職老齢年金
基準額を62万円に引き上げる見直し案3の制度が実施されると、在職中の年金額は次の表のようになります。
上の表と比べて白色の部分、支給停止されるパターンが少なくなります。
この場合、在職により年金が停止される人は約30万人(在職受給者の約10%)に減ると試算されています。

基準額が71万円の場合の在職老齢年金
基準額を71万円に引き上げる見直し案2の制度が実施されると、在職中の年金額は次の表のようになり、支給停止されるパターンがさらに少なくなります。
この場合、在職により年金が停止される人は約23万人(在職受給者の約7%)になると試算されています。

年金制度は個人の選択に中立的であってほしい
案1「在職老齢年金制度の撤廃」が実施されれば、年金停止の仕組みがなくなるので、収入額によって年金が停止されることはなくなります。
上記の3つの案は、改正の内容を議論するために示されたものなので、この中のどれかに決めるということではないと思いますが、皆さんはどの案に近いものになったら納得できそうですか?
わたしは、年金制度の原則は「保険料を拠出した人に対して見合う給付を行うこと」であると思うので、案1「在職老齢年金制度の撤廃」に賛成です。
国の年金制度に加入して、報酬に比例した額の保険料を納めることは、従業員も事業主も法律に基づきおこなっていることです。そこに選択の余地はありません。
そして歳をとって支給開始年齢になったら約束された年金を受け取ります。そこで「あなたはまだ働いていて収入があるから、約束した年金の額を減らすね」となったら、誰でもモヤモヤしてしまうと思うのです。
年金制度は民間保険じゃない、公助の制度だといわれるかもしれませんが、公助の制度だからこそ、できるだけシンプルなスッキリと納得できる制度であってほしいなと思います。
働く年金受給世代は増え続けていて、2023年、65歳〜69歳の就業率は男性61.6%、女性43.1%になりました(総務省「労働力調査」)。
働くことを選択した人、そうでない人、どちらの選択に対しても中立的な年金制度であってほしいです。