形のないモノを売る方が難しい?
先日、知り合いの営業マンが「ウチの商品は形のないモノだから、やっぱり難しいよ」と愚痴をこぼしていた。こうした愚痴は知り合いに限らず、私の相談者からもよく出てくる話だ。だから、今回は形のないモノを売る方が難しいのか、について書きたいと思う。
形のないモノとは、目で見たり、手に触れたり、味わったり等五感に訴えることの出来ないモノだろう。
例を挙げるならば、保険商品やインターネット回線、私の営業戦略へのアドバイスもそうだと言える。今、目の前でその商品・製品やサービスを体験させて欲しい・見せて欲しいと言われても出来ないモノ全てだろう。
結論から言うと、難しさは変わらないと私は思う。何故なら、ライバル企業も同じ条件で戦っているからだ。逆に言えば、形のあるものを売っている営業マンは確かに自社商品を見せその良さを伝えるのも簡単である代わりに、ライバル会社もまた簡単に自社商品の良さをPR出来るからだ。
営業活動にはほぼ例外なくライバルがあり、その評価は絶対的なものでなく、あくまで相対的なものだ。だから、形のないモノの良さを顧客に伝える難しさが、契約・注文のハードルの高さに直結するわけではないと私は考える。(因みに、私自身は両方を経験しているが、その差を感じることは全くなかった)
であれば、こうした形のないモノを扱う場合、商品知識やサービスに精通しているかがよりモノを言うのだろうか。いや、そうでもないのが営業の世界の面白いところであり、奥が深いところだ。
営業活動の目的とは言うまでもなく、契約・注文の獲得だ。では、その目的の為に何をするのかというと、顧客との信頼関係の構築、それに尽きる。信頼関係が大げさなら、人間関係と置き換えてもいいだろう。もっと言うなら、「お客さんと仲良くなる」ことだ。営業テクニックを駆使して商品の良さをPRし他社と差別化するなどのことは実は二の次であり、そんなものは重要じゃないとこれまで喝破してきたのはそういうことだ。(勿論、例外が皆無ではない。例えば、人間関係など構築する時間も与えられず、コンペに入る場合や、既に顧客が商品のことを調べ抜いて、購入手前の絞り込みの段階にきている場合などは例外だろう。)商品知識も必須アイテムなどではなく、信頼関係・人間関係を構築するためのツールの一つでしかない。だから、もし商品について分からないことを顧客に聞かれたら、慌てることなく、きちんと確認して後日回答すればいいだけの話である。営業マンがその場で答えることを優先させ誤魔化したり適当に答えなければならないほど顧客は時間に余裕が無いわけではない。それは営業マンの思い込みであると思う。
何故私がそう言い切れるかと言うと、まずその商品のことを説明する機会を作るということは必要だろうし、作ったとしても相手がただ聞いているだけなのか、営業マンを信頼した状態で耳を傾けているのかで同じ説明をしても結果に大きな差が出るからだ。そこにライバル会社の存在があれば、尚更だ。この説明する機会をもらうのも、話をどのような状態で聞くのも、顧客がその営業マンをどの程度信頼しているかが全てと言っていいというのは顧客の立場に立てば分かることだ。その営業の本質を理解していないから、冒頭のように「形のあるものは売りにくい」という一見もっともらしいが本質から外れた結論になってしまうのではないだろうか。ついでに言ってしまうと、「ウチの業界は特殊だから」や「ウチの業界はやっぱり商品次第だよ」と思い込んでいるのも同じような話であると私は思う。
もし商品の優劣だけで決まるのなら、これだけSNSやネットが浸透しいくらでもその商品の情報を届けることが出来る現在に何故大小あらゆる企業が高いコストをかけて営業チームを置いているのか説明がつかない。また、明らかに商品のスペックで劣る、或いは会社の規模・信頼性で劣るライバル会社に敗北するという営業の世界の日常茶飯事もまるで説明がつかない。ミクロ(個別の事案)で考えても、マクロ(全体的な分析)で考えても、営業活動とは顧客との信頼関係・人間関係の構築と考えるのが合理的ではないだろうか。
以前紹介した私の元上司A次長が言っていた「営業は入り込みが9割」というのはその信頼関係を構築するために、第一印象の基礎となる挨拶や身のこなしをきっちりやろうという更に一歩踏み込んだ指導をしていたといえる。言っていること自体はほぼ同じだ。
だが、営業の現場でいったい何が起きているかと言うと、営業マンの多くが商品そのものの比較にエネルギーを割き、或いはその方法論に苦しみ悩んでいるのだ。「ウチの商品は他社に比べてショボい」「ウチの商品は価格が高い」などだ。こうしたことは営業の世界ではよく出る営業マンの悩みだが、本来の営業の本質からは外れてしまっていると私は思う。
繰り返す、今目の前にいる営業マンがどう営業実績を積み上げていくかというミクロのテーマで言うなら、営業活動≒顧客との信頼関係・人間関係の構築だ。
だからこそ、私は営業マンに「人間として営業マンとして真面目に仕事にもお客様にも向き合い、約束を守る、迷惑をかけたら謝る、出来ないことは出来ない理由をきちんと説明して出来ないと伝えるという当たり前のことを地道に続けよう」と言っているのだ。
一見簡単そうに見える当たり前のことを、地道に続けていれば何も問題ない。そのプロセスの中で、商品の知識を持ち、顧客が納得できるような提案をすればより強い信頼関係を構築することが出来るという理解で間違いないと私は考える。それを各営業マンがきちんと理解し、高いモチベーションで活動すれば結果は自然とついてくる。その全体の動きをさらに効果的に効率的にするための決めごとが営業戦略だ。
サトミ営業相談所はその両輪をゆっくりと着実に回転させて、その会社の営業力を極大化させることが出来るからこそ、「日本初の営業の専門家」を名乗れるのである。
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