若者たちよ、夢を抱け。『ヨコハマ物語』に学ぶ「夢」の力
*この投稿はキャリアスクールSHElikesのライティングコース課題に提出した記事を加筆・修正したものです。
「生きてて良かった!」と思える瞬間があるのは本当に幸せなことだと思います。
漫画が大好きな私としては、「出会えて良かった!」と思える漫画を読んだ瞬間は「生きてて良かった!」と思える瞬間の一つです。
大好きな漫画がたくさんある中で、「出会えて良かった」と心から思えた作品を一つ挙げるとすれば、私は大和和紀さんの『ヨコハマ物語』を選びます。大和和紀さんといえば、源氏物語を漫画化した『あさきゆめみし』や、『はいからさんが通る』が有名です。
『ヨコハマ物語』では二人の対照的な少女が明治の横浜を舞台に固い友情を育みながら、恋をして、それぞれの夢を追いかけて大人になっていきます。
小さい時に母から借りて読ませてもらってから何度も読んで、大人になるにつれて、彼女たちの成長の物語にますます惹かれてきました。何がそんなに私の心を揺さぶるのか、その理由を考えてみました。
本音で言い合える「友達」の大切さ
ここ最近のスマートフォンが普及したことに起因するイジメを始めとする事件のニュースを聞いていると、今の時代の「本当の友達」って何だろうと考えてしまうことが多々あります。
毎日LINEをしたら友達?LINEをして、かつSNS上でコメントのやり取りまでできたら友達?それもたしかに「友達」の形の一つなのかもしれません。
『ヨコハマ物語』のヒロイン、万里子と卯野は普通に生きていたら、お互い言葉を交わすこともなかった環境で育ちました。
万里子は横浜の老舗貿易商のお嬢様、卯野は田舎で育った孤児。11歳で家族を全員病気で無くした卯野が、万里子の父親に引き取られて横浜にやってきたところから物語はスタートします。
「主人」と「(万里子付きの)使用人」の間柄の万里子と卯野でしたが、年齢も一緒、負けず嫌いの性格が合って、共に育ち、共に学校に通わせてもらって、時に喧嘩もしながら主従関係を飛び越えて大親友になります。子供ながらお互いのピンチのときは、身体を張って友達を守ろうとします。
しかし少女漫画ではお約束、年頃になると二人は同じ男性、隣の家の優しい医学生・森太郎に恋をしてしまうのです。お互いが同じ人を好きになってしまったことに気づいた時、二人はどう言葉を交わすと思いますか?
最初は気まずくて言葉を交わせなかったけど、お互い「諦めない」ことを約束するのです。堂々としたライバル宣言をしたにもかかわらず、友情は変わらず、お互い大好きであることを伝え合います。
卯野はずっと万里子のことを「お嬢さん」と呼んでいました。孤児になった自分を引き取ってくれ、一緒に学校に通わせてもらった恩を感じているから、そしてこれからもずっと万里子のそばにいようと思っていたからです。
しかしずっと一緒だった二人の歩む道が分かれる時がきます。その時に万里子は卯野にこう言います。
歩む道は分かれていっても、絶対に変わらないと自信を持って言えるものがある。もう二度と会えないかもしれない友達に向かって、涙を流しながらはなむけの言葉を送った万里子にこちらも毎度もらい泣き。
本当に大切な心のつながりは、何の記録にも残らないのです。
新しい時代を象徴する、ハンサムウーマン達
女性のサクセスストーリー、私は大好きです。特に「女には無理だ」とか言われながらも、才能と努力で最終的には大成功をおさめるというストーリーは、スカッとします。そんな話から「自分も頑張ろう!」と、いつも勇気をもらっています。
『ヨコハマ物語』には芯が強く、かっこいい女性がたくさん登場します。その中でもヒロインの一人、深窓のお嬢様でワガママ娘だった万里子が貿易商として才能を発揮していくところは、何度読んでもワクワクするし、カッコいい!と惚れぼれします。
文明開花の時代とはいえ、ちょっと前まで鎖国をしていて、髷(まげ)を結った侍が斬り合いをしていたような時代。女性が男性と同じ仕事をすることはおろか、算術や英語などを学ぶことすら「女が学問なんて」と揶揄されていました。
万里子と卯野は、万里子の父親に「勉強したい」と何度も何度も頼み込んで、横浜の居留地にあったアメリカ人の私塾に通いました。二人は語学も算術も得意になり、いつも首席争いをしていました。
大人になった万里子は商売の才能のない兄に変わり、亡くなった父親が遺した借金まみれの家業を継ぎ、立て直しをはかります。周りには絶対無理だと半ば諦められている中、万里子は女性にしか思いつかない発想とアイディア、自分が築いたネットワークを活かして、生前父親が売り切れなかった商品を全て売り切ります。
それだけでもすごいことなのに、横浜にファッションのブームを作り出したり、庶民の生活様式を変えてしまうビジネスをしたりと、凄腕の貿易商に変貌を遂げていきます。万里子の貿易ウーマンとしてのチャレンジは、日本を飛び出し、語学力を活かしてイギリスの会社と直接取引をするまでになっていくのです。
ずっと守られる存在だった「お嬢様」が、父親の誇りと家族同然の従業員達を守るために、なりふり構わず、知恵を絞り出して動き回る姿は、漫画の世界とわかっていても胸が熱くなります。
「夢」 × 「恋」という最強の原動力
スポーツ選手が「子どもの時からの夢が叶いました」と涙ぐみながら、優勝インタビューなどに答えている姿を見ていると、感動すると同時にすごく羨ましくなります。
「頂点に立つ」という夢を叶えるために、多くのものを犠牲にして努力を重ねてきたことを思い起こし、感心するのと同時にそこまで努力を続けられた「夢を追う原動力の強さ」に少し嫉妬してしまうのです。
『ヨコハマ物語』では文明開花後の新しい世を生きる若者たちの「夢」と、夢を追う姿が描かれます。勉強して外国にいくこと、医者になること、画家になること、横浜に港を作ること……
「夢」は大きなことを成し遂げる、何者かに成るに限ったものではありません。「人」そのものが夢になることもあるのです。
もう一人のヒロイン、卯野の「夢」は幼いころからの初恋の相手の森太郎です。森太郎の夢は医者になること。彼は夢を叶えるために単身アメリカに渡ります。
学校を卒業した卯野は、担任の紹介でアメリカ人の医者の助手という仕事を紹介され、「看護婦」という職業を知ります。人を助ける仕事って素晴らしいな、という気持ちと同時に、自分が看護婦になれたら森太郎の役に立てるかもしれないという淡い夢を抱き懸命に学びます。
しかし森太郎は、留学前に幼い頃から一緒に育った万里子に思いを告げ、留学から帰ってきたら結婚する約束をしていきます。卯野の初めての恋は成就せず、しかし大好きな二人が一緒になることは自分の幸せであると、森太郎への思いを心にしまい、健気に看護師への学びを続けていきます。
誰が言ったか「女の恋は上書き保存」。新しい恋をすれば、今までの恋は忘れられる、なんて理論は卯野には通用しませんでした。ある事をきっかけに卯野はとうとう森太郎を追いかけ、アメリカに渡ります。
アメリカに行ったとしてもすぐに森太郎に会える保証はゼロ。連絡手段もない、今と比べ物にならないレベルのあからさまな人種差別かつ女性。普通なら500%「行かない」ことを選択する状況で、卯野は「何のためにアメリカまで来たのか」と一縷の望みを繋いで、森太郎を追いかけ、次々降りかかる困難を乗り越えながら広大なアメリカを女一人で渡ります。
自分ではない人のことが好きだとわかっているのに「会いたい」という気持ちだけで、海を渡って夢を叶えようとする卯野の姿を見ていると、未読・既読スルーで一喜一憂していた自分が馬鹿馬鹿しく感じてきます。
夢や希望は人生を切り拓く原動力です。家族をなくした絶望と寂しさの中で、新しく夢を見つけて強く生きる卯野が、困難が続く今の世界を生きる私たちに改めて夢を持つこと、行動に移すことの大切さを改めて教えてくれます。
色褪せない名作
『ヨコハマ物語』は、ロマン溢れる物語や魅力的なキャラクターはもちろんですが、明治の横浜の歴史をしっかり考証して描かれていることも素晴らしさの一つです。
仕事もプライベートも、やる事なす事全部うまくいかなくて、もうダメだと落ち込んだ時にふとこの漫画を手に取った時がありました。何度も読んだはずなのに、挫けそうになっているキャラクター達が諦めずに奮闘する姿を見た時、涙が止まらなかったです。
30年以上も前の少女漫画のはずなのに、いつ読んでも新しい感動があって、夢を諦めないこと、その夢を追いかける勇気を教えてくれる、私の永遠のバイブルです。
夢を追いかけ日々頑張っているシーメイトさん達に、ぜひおすすめしたい作品です。