2023年5月9日 僕らが厚く高い塀で守るもの
刑務所出所者の支援をしている。
刑務所面談に行くことも少なからずあって、今日の面談の方は 懲罰房から 面談室に入ってくる。
彼は 統合失調症の 様々な現状に苦しんでいる。
その苦しみから 誰かに相手をして欲しくて、 もしくは 「殴れ」という幻聴の声によってか、 3日前 、刑務官に殴りかかり 懲罰となった。
懲罰を受けている最中は基本的に面談もできないんだけど、彼の出所後の支援のために 今回 特別に 面会させてもらった。
保護室に入っているのに 面会させてもらえるというのは かなり珍しいことだが、 それだけ 彼の 出所後の支援に必要性があるということなんだろう。
面談室に入ってきた彼 の 後ろからは 刑務官が5人ほど 続いて入ってきた。
みんな 物々しい ヘルメットをしている。
当の本人は、どちらかといえば 背は高いが とても屈強とは言えない。
むしろ 顔色が悪く 明らかに不健康そうで痩せ細っている。
そんな彼と 似つかわしくないほど、頑強なヘルメットをした5人の刑務官。
彼を椅子に座らせ、 その後ろ を広く取り囲むように 刑務官が 立ちすくみ、 面談は始まった。
私はその光景に アンバランスさを感じていた。
彼が殴りかかってきても おそらくこの部屋の中にいる男性なら 、多分私でも一人で制圧できるだろう。
だが、実際に戦って勝てるかとか、物理的に脅威であるとかは、多分関係ない。 たとえ 彼が 80のおじいちゃんでも、腕や足が不自由でも、刑務官は、 彼が暴力性を持つ という そのことによって 、厚いヘルメットをかぶるのだろう。
何をそんなに、 私たちは恐れているんだろう。
抑制が外れた 人間の力は強い ということもある。
だけど それ以上に私たちが 恐れているのは、 彼らが 私たちは想像もつかない 理由や きっかけで ルールや規制を 軽々と超えてしまうという 、そのことにあると思う。
それぞれが ルールや モラルを お互い 共通のものとして 認識し それを みんなが 守っていると 思い込まないと 社会は回っていかない。
みんなが、 誰一人 その幻想から 本当はかけてはいけない。
ルールや モラルを逸した行動を ひとたび 目にしてしまうと、社会全体を信じられなくなる。
その中のイレギュラーな1人が 今目の前にいる その一人ではないと 言い切れなくなる。
だから 社会は そういう ルールや規制を 破ってしまう人 を 排除したり 強制するような システムに するしかない。
システムは 万人に ある程度 共通するような ものを構築する必要がある。
だから どんな人に対しても 暴力行為があった人には、 ヘルメットを装着して対応するし 、社会のルールから 逸脱してしまった人は厚い 高い塀で 囲まれた 刑務所に収容する。
だけど 彼らが ルールを犯す 理由は 一人一人 違う。
今 ここにいる彼 。目の前にいる彼に、私は目を向ける。
彼の行為の 被害を なくすためには、 物理的には ヘルメットは十分すぎるし、 心理的には ケアが足りなすぎるとそう感じる。
だからこそ私たちがいる。
私たちは 彼と ヘルメットで隔てられた コミュニケーションを望まない。
私たちが恐れるのは、 周りの人間が、彼との間に心の塀を作り、彼が孤立することによって 暴力性を 彼の外に出さざるを得ない 環境 を作ってしまうことだ。
私たちは 彼と 彼の 受け入れられる形での コミュニケーション を継続していく。
誰だって ヘルメットをかぶって人と話したくはないだろうと思う。
システムの中でその役目を担ってくれている 刑務官たちに感謝しつつ、 私たちは私たちの方法で 暴力性を 持った 彼と 話ができる、 この時間を 大切にしたいと思った。