母親の逮捕(第21話)
SNSで大反響だった実話
「小5と余命宣告」続編(第21話)です。
父ひとり、子ひとりの家庭で育った娘が
小5の時に、その父の余命宣告を受け
その後の覚悟と成長を描いた実話。
脚色は一切なし。
むしろ、各方面に配慮し
わざわざ抑えて書いているくらいです(笑)
ということで、
これは長~く続く連載ものです。
初めての方は、1話からどうぞ。
中学3年生の、ある冬の朝。
学校へ行こうと
玄関で靴を履いていたその時
チャイムが鳴った。
ドアを開けたら、
男の人が2人いた。
警察手帳を見せながら
「お話を伺いたいので、一緒に来てください」
そのまま、学校には行かず
私は中学校の制服のまま、
パトカーに乗った。
そう
母親逮捕の原因は
私だった。
まだ中学生の私を含め、
仲良くしていたK子ちゃん、
他何名かの18歳未満の女の子を
コンパニオンとして働かせていた
スナック経営者が逮捕された。
当時の地元新聞にも載ったし、
TVのニュースでも流れた。
警察も、検察も
私をとがめることは全く無く、
取り調べで、何度も聞かれたのは
「他の子の年齢を、ママは知っていたのか?」
この証言を取りたくて、
仕方がないようだった。
そりゃ、そうだ。
ここが争点になるからね。
私は、どこの取り調べでも
一貫して、同じ言葉を言い続けた。
「知っていた。」
そう言うように、強く言われていた。
私は、こうなることを
事前に、知っていたのだ。
田舎のスナックで起きる
そんな小さな事件。
監視して、見つけ出すほど、
警察はヒマじゃない。
告発者がいた
母親のスナックで働いていた女の子。
とその彼氏。
母と折り合いが悪くなって
懲らしめたかった。
ってとこだろう。
私に、この証言をさせるためだけに
良い人ぶって、近づいてきた。
「あんたが可哀そうで、見ていられない」
「妹みたいに可愛いから、私が守ってあげたい」
嬉しかった。
20歳くらい?のお姉さん。
狭い世界で生きている中学生にとっては
ちょっと憧れるような大人の女の人。
そんなお姉さんが、
愛情たっぷりの優しい言葉を掛けて
私を気に掛けてくれる。
ただただ 嬉しかった。
でも、
甘い言葉には、裏がある。
接していると、
言葉の端々や些細な態度で見えてくる。
寂しいけど、
それが、彼女の本心ではないことも。
逮捕が近くなると、マメに連絡がきた。
「もうすぐだからね!ちゃんと言うんだよ!」
あれだけしつこく告発されたら、
動かない訳にもいかないのが、警察。
その警察でも、その後の検察でも
「知っていた。」
そう、言い続けた。
だって、
それが事実だったから。
だって、
そこには
働いていた子たちの事情と
母の優しさも、
ちゃんと含まれていたから。
一般的な、
恵まれた家庭の子は
そこに、集うことはない。
それぞれが何かしらの事情を抱え
「家庭」という場所から離れ
生きていくための
仕事を必要としていた。
けど、年齢が届かない。
年齢に応じた給料じゃ、
全然足りない。
手段を考えていられるほど、余裕もない。
働かせてほしい。
住むところもない。
そうやって集まってきた女の子たち、
K子ちゃんや、他の子も・・・
そのために、寮と称した借家を借りて、
みんなで住んでいた。
私も含めて、みんな、
自らの意思で、仕事を欲しがっていた。
何が、いけなかったんだろう?
この事件の裏側を知らない
ニュースだけを見た人は
「悪い経営者が捕まってよかった」
「少女たちが救われた」
そうやって、
好きなように勝手に解釈する。
実際は、全くの逆。
「困った。」
「これからどうしよう。。。」
少女のための法律が、
少女たちを苦しめた・・・
雇われていた少女たちにとったら
ママ(雇い主)が逮捕された。
生活(家計)を共にする
姉や弟たちにとったら、
母親が逮捕された。
きっと後者の方が、
ショックだっただろうし
困ったと思う。
もしかして、
悪いことをしたのかな、私?
知ってた。って
言っちゃいけなかったのかな?
動揺する姉を目の前で見た時に、
初めてそう思った。
感覚が違った。
姉を姉と思う感覚は、ある。
弟を弟と思う感覚は、ある。
父を父と思う感覚も、あった。
でも、
母を母と思う感覚が、
自分の中には、あまりないのだ。
だから、私の中では
そんなにショックなことでもなかった。
もうずっと前から、
こうなるって知っていたしね。
ただ、多くの大人たちは
「母親が逮捕された」
という、この言葉を聞いただけで、
色んな感情を、勝手に妄想し
その子どもに憐みの目を向ける。
実際とは、全然違う。。。
事情聴取の警察では、
もうやりたい放題(笑)
「昼飯は、〇〇丼でいいよな?」
「ヤダ!自分で選びたいからメニュー見せて」
と、出前のご飯を
一番高いものに変更してもらい
美味しくて豪華なお昼ごはんを
ご馳走になる(笑)
「子どもなんだから、俺より高いやつ頼むなよー!」
なぁんて、刑事さんに言われながら
非日常な楽しい時間を過ごしてきた。
更には、
記録用の写真を撮る時には
「せっかくだから、記念に私にもちょーだいっ!」
とねだり、ポラロイドカメラで
全身バージョン と、
上半身バージョン を撮ってもらう。
最後に、専用ハイヤー(パトカー)の送迎付き。
別れ際に、
「もう、くるなよ!」
なんてのは、とりあえず言われる。
でも、
それはただの たてまえ。
だって、
もうあの人(刑事さん)たちは
ちゃんとわかってるんだよね。
逮捕とか補導とかしたところで
根本的な問題が
何も解決されないまま
家に帰すんだから。
大人を簡単に信用しない
私たちのような子どもは
ここがダメなら、また次。って
結局、そうなっていくのを。
だから、
私たちをとがめることも ない。
一番めんどくさかったのは、
中学校だった。。。