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こっちからみた「シンデレラ」

これは昔々のお話

彼女は機会を待っていた。

魔女として生き、魔女として暮らす。
それは、普通に暮らす人々の何倍もの苦役を強いる物だった。

魔女として生きる為に彼女がした最初の事。
それは契約。

悪魔と呼ばれる物達との契約を結ぶ為に彼女は若さと家族との縁を差し出した。

見た目には八十を超える老婆に見える彼女。
だが実際には三十にも届かない女性である。

そうまでして得た物。
それこそが魔術。

何故そこまでして魔女に?

理由は簡単だった。
貧しい家。
決められた人生。
その全てが彼女には受け入れがたいものだった。

家を飛び出し、各地を渡り歩き、やがて一人の名もない魔女と出会う。

名もない魔女の許しを得て
悪魔と契約を結び
魔女となった彼女。

そして魔女となり十数年を過ごし、自身の生き方に言いようの無い不安と恐怖が生まれていた。
「このまま朽ちて、ただ恐れられるだけの人生なの?」

魔女としての暮らし、生き様に後悔は無い。
下々の民は恐れ敬い。
時には、権力者でさえも頭を下げる。

だからこそ、自分はこんな物で終わるのか?との疑問、懸念が生まれ、それはやがて不安感となって彼女を覆い尽くし始めていた。

そんな時、ある事実を知る。
"王家に仕える魔女"

その存在は彼女が望んで欲して居た全てを満たしていると感じた。
(王家の魔女。コレこそが私に相応しい)

だが事は、そう簡単では無かった。
既に存在する魔女を排し自分がその座に就く為には新たに自分を遇する者を見つけなければならない。
その上で、権力者として頂点に君臨させねば意味が無い。

その様な者が果たして見つかるのか?

それから彼女は城下町のあらゆる鏡、壺の中の水面から全ての人の暮らしを見続けた。

そうして、待ち続け遂に来た機会。
いや彼女にとっての暁光!

美しく、王家に憧れ、王族への繋がりを持つ家系に生まれ、家事だけでは無く踊りの才能も持ち不遇な扱いを受ける女。
その女の名は
"シンデレラ"

「…見つけた」
薄汚れた鏡の中から彼女を見つけた瞬間。
歓喜の余り、彼女の手は震えた。

それからは全てを与え、段取りをし
彼女を王子の元へ送り込んだ。

"12時に解ける魔法"

それこそが彼女の計り事。
薬草で包んだ煙草の煙を吐きながら彼女は言う
「男はね、追いかけて始めて本気になるんだよ」
その為に、敢えて仕込んだ時間。

当然、広い城下町には彼女と同じ様にガラスの靴を履ける女達は居た。
だが、その全てを魔女である彼女が阻止をした。

結果、王子とシンデレラは結ばれた。

そうして王子の望みを叶え
シンデレラの望みを叶えた彼女。
やがて彼女は王家に仕える魔女として城に迎えられる事になる。

だが、彼女は言う
「ここからだよ。ここから始めるのさ」
魔女となり
王族に仕える事となった彼女。

その本当の望みは、まだ叶えてられてはいないんだとさ。

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