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二人の人斬りを演じた佐藤健が作った漫画の実写化映画の時代。

 最近、倉木さとしと漫画の実写映画を2010年から語る、ということをしています。カクヨム内で4月から連載する予定で、やりとりをおこなっているのですが、自分の中で少し整理しておきたい部分が出てきたので、これを書いています。

(※「人生を狂わす実写化映画の地図 2010-2020」というタイトルで連載開始しました。)

 2010年から2019年ないし、2020年まで語る予定で映画の興行収入などを調べてみました。
 2019年の日本の映画興行収入(興収)が2,611億8,000万円で、史上最高の結果。それに続く、2020年はコロナウィルスの影響で、1,432億8,500万円でほぼ半減。興収を計測しはじめた2000年以降、最低の数字とのこと。

 ウィキペディアに「アニメ・漫画の実写映画化作品一覧」というページがあり、史上最高の興収を叩き出した2019年の欄には40作を超えたタイトルが並んでいました。
 2019年は漫画の実写映画にとって豊かな時期だったと言って良いでしょう。その要因になった作品を僕は2012年の8月25日に公開された「るろうに剣心」に求めたいと考えていました。

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るろうに剣心」のヒットによって、原作のファンたちが漫画の実写映画のクオリティに満足できると理解し、そして、俳優たちが漫画的な想像力をもとに演じることに自覚的になった、のではないかと言うのが一つ仮説としてあります。

 この二つが重なる場所に立っていた俳優が、佐藤健です。「るろうに剣心」の後(2013年)に「カノジョは嘘を愛しすぎてる」の主演を佐藤健が演じました。

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 映画のクオリティに関して、原作者の青木琴美が「ここまでしてくださらなくてもいいのにってくらい、原作に忠実にやってくださった。」とイベントにて絶賛し、その場にいた佐藤健が「(マンガ原作の作品は)見てくれる人がどう思うか不安だけど、先生がそう言ってくれたから、もう悔いはないですね。」と返しています。

 実際、「カノジョは嘘を愛しすぎてる」の原作が僕は結構好きで、映画も観ましたが、まったく不満はなく、むしろ最後のキスシーンは少女漫画原作の映画史に残る名シーンだと思う程でした。

 ただ、「カノジョは嘘を愛しすぎてる」が原作者が絶賛し、ファンが納得する完成度になったのは、舞台が現代であり物語の中心には恋愛がありました。日本のドラマには90年代に流行したラブストーリーの蓄積があり、その記憶もある。
 であれば、少女漫画の原作であっても、クオリティの高い映画を完成させることは、それほど不思議ではありません。

 今回、論じたい「るろうに剣心」は「努力・友情・勝利」を掲げている少年ジャンプで連載され、「明治剣客浪漫譚」と副題がつけられたバトル漫画でした。
 少年ジャンプの実写映画史の中でバトル漫画が実写化したのは、ドラゴンボールの「DRAGONBALL EVOLUTION」で、あとは「魁!!男塾」もあるのですが、こちらはバトル漫画? と僕は首を捻ってしまいます。
 バトルにこだわらなければ、「DEATH NOTE デスノート」や「テニスの王子様」もあります。

 少年ジャンプはあくまで漫画雑誌であり、メディアミックスするにしてもアニメが主流だ、という空気の中で実写化されたのが「るろうに剣心」でした。
 原作はすでに完結しているとは言え、実写化されると発表された頃はイメージが崩れるという声が至る所から上がっていた印象があります。
 しかし、実際に公開されると多くの人が手のひらを返すように絶賛し、続編を希望する声が上がるようになりました。

 では、なぜ「るろうに剣心」は成功したのでしょうか。
 僕が勝手に考えていることですが、注目したいのは監督の大友啓史です。彼は2010年1月3日から同年11月28日まで放送されたNHK大河ドラマ「竜馬伝」のチーフ演出を担当していました。

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竜馬伝」は坂本龍馬を主人公とする大河ドラマで、舞台となる時代は明治も含まれており、「明治剣客浪漫譚」と副題で称されている「るろうに剣心」と共通しています。

 更に「竜馬伝」には佐藤健が岡田以蔵という人斬りの役で出演しています。るろうに剣心の主人公、緋村剣心も人斬りだった過去を持っているので、その部分も重なります。

 この二人の人斬りに関して、佐藤健はインタビューにてオファーはほぼ同時だったと明かしています。また

「人斬りの役が重なるだけでもすごいことですが、それを同じ監督でやれることになったんですから僕自身、強い運命を感じました」

 とも答えています。
 NHK大河ドラマは、ほぼ1年間放送される為、そこで培われた演出的な技術や空気感は「るろうに剣心」にまったく反映されなかった、というのは考えにくいと思います。
 むしろ、後に「るろうに剣心 京都大火編 / 伝説の最期編」にて「竜馬伝」で主演を務めた、福山雅治が出演することからも、「るろうに剣心」は「竜馬伝」の延長線上にある作品だと考えた方が自然に感じます。

 漫画の実写映画化が2019年までは増え続けていった要因となった作品として、僕は「るろうに剣心」を挙げたいと考えていますが、その背景には大河ドラマの下地があったと指摘しておきたいんです。

 ただ、こういった指摘をしたところで、それがどこに繋がっているのかは分からない部分でもあります。「るろうに剣心」がヒットした要因は大河ドラマだろうけれど、だからと言って、その後に続いた漫画の実写映画作品がすべて、そのような下地を持って撮られた訳ではありませんし、大河ドラマを引き継ぐような作品が他に生まれた訳でもありません。

 言えることは、佐藤健という役者は漫画という二次元的なコンテンツに血肉を持たせた実写化に耐えうる人物である、ということでしょうか。
 後に「カノジョは嘘を愛しすぎてる」「バクマン。」「いぬやしき」と一見、共通点の見えない作品であっても、原作ファンを納得させる演技を見せてくれています。少なくとも僕は大満足でした。

 ちなみに「いぬやしき」が公開されたのは2018年で、佐藤健は29歳で演じるのは、獅子神皓という高校生でした。

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 当時の佐藤健のインタビューなどを読み漁ってみると、「できなくなる役」というものを強く意識していることが伺えます。

 周囲からも「30代になって役が増えて楽しくなる」と言われていると、佐藤健はインタビューで明かしつつ、「僕はどちらかというと“できなくなる役”に関心があって。だってこの役をできなくなったら、これからの人生で一生できないわけじゃないですか?永遠の別れですよ。」と語っています。

 その瞬間にしか演じられないもの、を閉じ込めておける、という点で映画は素晴しいコンテンツだと思います。それは漫画の実写映画だから起きる訳ではありませんが、2010年代を振り返る中で有名な俳優たちはどこかで漫画の実写映画に携わっており、そこには二次元的なものに血肉を与える為の葛藤が垣間見えます。

 その葛藤や2010年代に爆発的に漫画が実写映画化されていった背景には何かしら語るべきものが潜んでいるような気がしています。
 けれど、それが何なのか、ここで上手くお伝えすることができません。
 倉木さとしとの漫画の実写映画を語る連載の中で掴むことができれば、またエッセイでもまとめてみたいと思います。


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